聖剣を抜いたのが僕でごめんなさい!

のだ星じろう

第三十一話 唇争奪戦?!

「、、ロウ、、タロウ、、ユタロウ!」

「相場では熱いキッスで目覚めるはずよ!ユタちゃーん!んー!」

「ダメー!、、ってかあんた男でしょうが!」

「真実の愛に性別は関係ナッシングよ!」

なんだか周りが騒がしい。
そうか、幻術が解けたのか。リーンの声もコンちゃんの声も随分と懐かしい気がする。とても心地がいい声だ。もう少し目を瞑ったまま横になっていたい。

「おかしいですね。もう幻術は解けてるはずなんですが、、」

「ふん!こんな奴が起きなかった所でなんら影響はない!」

べルルはともかく、ハシェードも無事に戻って来れたらしい。相変わらずの俺様口調だ。少しでもハシェードを心配して損した気分だ。

「やっぱりここはキッスよ!」

「あんたはまだ言うか!」

「、、でもコングさんの意見は一理あるかも知れません。幻術が解けているのに、なんらかの原因で戻って来れてないとするなら、強い外的な刺激は有効かもです!」

一瞬の沈黙がながれる。

「しょうがないわね、、これは人助けよ!不可抗力なんだからね!」

「待ちなさい!例えリーン王女と言えど抜け駆けは許さないわよ!」

「男同士のキ、キスなんていくらこのバカでも不憫過ぎるわ!」

「何ですって!」
「何よ!」

2人の乙女の間で火花が散る。
その頃、ユタロウは完全に起きるタイミングを逸していた。

(なんかすごい嫌な予感がして来たのだが!)

「なになに? 勝負? それなら僕も混ぜてよ!」

(ややこしいのが入って来たー!)

この声は戦闘狂で隠密者ハーミッターのラスカさんだ。

「なんだ? お前らはまた騒ぎを起こそうとしてるのか、、やれやれ。」

助かった。超優等生気質のシャオランさんだ。彼ならこの場を収めてくれるはずだ。そうなったら程よいタイミングで目を開けてしまおう。

「私も学習した。お前らを抑え込むには実力行使・・・・しかないのだろう、、参戦する!」

(なぜだー!!)

リーン、コング、ラスカ、シャオランの4人は互いにバチバチと目から火花をを散らしている。
ユタロウの唇にこれ程謎の需要があるとは、本人が1番驚いていた。

「やれやれだぜ、、」

ハシェードは呆れて首を振りながら下を向くと、横を静かに通り過ぎる男がいた。

「あのー、、盛り上がってるところ恐縮なんですが、彼たぶん起きてますよ。」

「何ですって!?」

「たぶんあなた方が騒がしくて目を開けるタイミングを逸したのかと、、ね!ユタロウ!」

タケルが出してくれた助け舟に、藁をもすがる思いで飛び乗った。勢いよく前屈し、その反動を利用し立ち上がろうとしたが、思うように行かずカエルのようなガニ股立ちになった。

「お前ら、俺を使って遊ぶなー!」

「・・・」

「ってあれ? なぜ静まる? 」

戦う意味が無くなるとシャオランはラスカを引きずりながら早々に場を後にした。
さっきまで威勢の良かったリーンは、まるで最初から心配していないような素っ気ないフリをして見せるも、逆に意識している事が丸わかりになってしまっていた。

「ほら『おかえり』って言ってきなさいよ。今回はあなたに譲るわよ。」

「まーあ。どうしてもって言うならしょうがないわ!、、ユタロウ!」

「おう!どうした!」

一瞬だけだが目と目が合った瞬間。
2人だけの時間が流れた気がする。

「おか、、」
「うわーん!おかえりなさーい!ユタロウさぁーん!」

リーンを突き飛ばし、心配を爆発させたように走って来たのは、大ベソをかいたべルルだった。

「いやん!お邪魔虫!」

ここにいる人たちの中でリーンを除けば1番古くからの付き合いになるし、一緒に過ごした時間はリーンをも軽く凌駕する。
面と向かって言うのは恥ずかしいが、俺は一番の友達だと思っている。

これ程泣きじゃくりながら迫られると、正直、もらい泣きしそうになる。

「もう!心配したじゃないですか!ユタロウさんはタダでさえ『バカ』で『ろくでなし』何ですから!起きてるならさっさと目を開けてください!」

よし。『一番の友達』と言うのは取り消そう。

「お前だな!俺は気付いたぞ!この物語で最も俺をバカにしてるのはお前だな!」

「わわわ!やめてくださいよー!」

べルルにヘッドロックを決め頭をグリグリ擦りつける。何故かこのタイミングで『戻って来れた』と実感が湧いてくるのだった。

「あー呆れたわ!もうユタロウもべルルも好きにしなさいよ!ベーっだ!」

リーンが怒っている意味は分からないが、それですら涙腺を刺激する。

「まあ!これで私たちの代は5人・・生き残ったわ!、、他の代の先輩方と比べるとかなり優秀じゃない。」

「ちょっと待って6人の間違えだろ? 忘れん坊なのかな、コンちゃんったらー!」

「、、、いや5人です。シューゴさんは脱落しました、、」

「嘘だろ、、?」

「ふん、あのヤローは幻術に飲み込まれやがったのさ。クソッタレが、、」

「残念ながら本当よ、、ユタちゃんが戻って来るちょっと前に実体と精魂の剥離が見られたの、、強制的に幻術を解除して今は医務室で休んでるわ。」

シューゴは強かった。
第5席とは言っても対人戦闘だけなら4席のハシェードや2席のコングにだって引けを取らない。
そんなシューゴが振るい落とされるなんて。

改めて周りを見渡してみる。
こうして見るまで気が付かなかったが、六王衆の緑髪の宣言通り、広間はガランとし、半数近くが居なくなっていたように思える。

最後の一人が緑髪により解術魔法をかけられ医務室に運ばれていた。

「こんなもんかな、、皆お疲れ様!これにて第一次審査を終わりまーす。第二次審査については追って伝えるので、今日はもう帰っていいですよー!」

緑髪は頃合いを見計らって、ゆるーく試験を終わらせた。

「ちょっと待て!!」

そこでいきなり声を上げたのは現王国軍中将のミガッサ・プッチーマンだ。

「これは何の為に審査だったのだ!あのような新参者が残り、我が同胞[猛爆のイリューム]が脱落するなどあり得ん!」

いきなり流れ弾が飛んで来た。
素早くいきり立つハシェードを抑え込む動きはもはや団体芸の域に達した。

「そう言ってもねー、、[猛爆]さんを残したとしても実際生き残るのは確実に新参ちゃんたちよー!」

「そんなわけ、、」
「あるんだなこれが!」

「今回皆にかけたのはヘルトピアの海獣や悪魔どもが使えるであろう平均値の幻術だ。、そう。言ってなかったけどヘルトピアモンスター最大の特徴はデカさや凶暴性しゃなくて『幻術を使う』という事。これぐらい解除できないようなら見込みないのよ。マジで」

緑髪は口調は少しチャラいが、その目は至って真面目だった。

「あんた仲間殺す気?」

ミガッサは蛇に睨まれたカエルのように縮こまる。ぐうの音も出ないようだ。

こうして第一次審査が終わった。

一同は数分もしないうちにバラバラとそれぞれの宿舎へ帰るので合った。


一次審査通過者:96名
脱落者:104名

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