聖剣を抜いたのが僕でごめんなさい!

のだ星じろう

第二十八話 たとえ世界が変わっても。

暗く、息苦しい陰気な雰囲気。
気が付くと俺は母親のお腹にいる胎児のような格好でうずくまっていた。
さっきまでローランド城の広間で、若獅子会議の連中や、ロドリコさんと楽しく喋っていたはずだ。

確か、広間脇の扉が開いて男が3人入ってきて、、

その中の1人が喋り出したと思ったら意識が遠くなって、、

「どうなってんだよ、、え!」

自分の声のトーンのカン高さに驚いた。なんだか体も小さくなっている気がする。
この感じは身に覚えがある。

「転生前の自分だ、、」

とりあえず、ベタに頬をつねってみると、力の加減をすれば良かったと後悔してしまうほどの激痛が走る。
気分が徐々に憂鬱さを増して、信じたくない現実がお腹の下辺りに重くのしかかってきた。

これはリアルなのか。

ドンドンドン!

押入れの扉が激しく叩かれる。

「おーい!生きてるかー? 」

これほど嫌悪感を抱く声はない。親戚夫婦が誇る高校生のバカ息子だ。恐怖心から声が出ず、黙るしか選択肢がなかった。トラウマと言うのは簡単に拭い去れないからトラウマと言うのだ。
一方、バカ息子は自分ごときに無視されたからだろう、憎悪が込められた扉を叩く音に、怒りの感情も加わり、まるでハードロックバンドのドラマーがバスドラムを連打するかの如くドアを殴打し続けていた。

「おいコラ!いるならさっさと返事しろよ!てめぇがこの前死にかけたせいでママとパパが児童相談所の奴らに睨まれてんだよ!」

「、、い、います、、」

ドン!

声が聞こえたのだろう。
最後に舌打ちとともに扉を殴りつけ彼は去って行ったようだ。階段を登る音から察するに自室に戻ったのだろう。

一旦深呼吸をし冷静になってみると、先ほど彼が放った『この前死にかけたせいで』と言う言葉が引っかかった。俺がこの世界で最も死に近付いたあの夏。いや、記憶は定かではないが、近付いたどころか本当に死んでしまった筈だ。

ラノベなどでよく聞く『世界線』が変わったと言うやつか。
どうやらこの世界線では俺は生き延びた設定らしい。

こちらが本当なのか、向こうの世界の事は夢だったのか。
夢にしてはリアル過ぎだし、それなら辛い事とかは省いて欲しかった。
リーンやサイゴーにされた拷問に近い仕打ちが頭によぎるが、それを皮切りにして次々に楽しかった日々の記憶が頭を駆け巡り出した。
まるで亀裂の入っていたダムが水の勢いに負けて決壊してしまったかのようだった。

『幸せだった』と気付いた頃にはもう遅く、『戻りたい』と思った頃には手遅れなのだ。

俺の涙腺は静かに壊れていた。

「くそ、、子供の涙腺緩過ぎだろ、、」

こんな場所に居たくない。
とりあえずここから出よう。

そう思い、涙を拭いて立ち上がろうとした瞬間、自分が背負っていた『縦長の物』の重みで少しよろけてしまった。

「いてて、、もう何だよ!、、ってコレ!」

せっかく我慢したと言うのに、、少年の涙腺は今度こそ完全に崩壊してしまう。

「、、良かった、、夢じゃなかった!!」

ユタロウは静かに泣きじゃくりながら『聖剣エクスカリバー』を愛しむように抱きしめた。

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