聖剣を抜いたのが僕でごめんなさい!

のだ星じろう

第二十三話 魔王、ちょっと痩せる。

先ほどまで、どこか間の抜けた雰囲気を醸し出していた魔王城・大広間は空気が一転し、次代の魔王を決める殺伐とした戦場と化していた。

マグネスの送り込んだ魔王候補たちの気合は十分。覇を争う資質、実力を持つ者たちがこの一世一代のチャンスを掴もうと血気だっている。

「魔王様亡き後約100年。名声、実力共に魔界の頂上に君臨し続けた三大魔人が一同に集結し、復活した魔王様に挑む日が来るとは、、私も混じっちゃダメですかねー!」

「お前が入るとややこしくなる!」

ダブールはわざとらしくしょげて見せるも、すぐさまギラリとした眼差しで戦いに興味を戻した。
三大魔人は立ち代わり入れ替わり魔王に攻撃を仕掛けるも、ほとんどがかわされ、受け切られる。
たまに攻撃が当たってしまう原因は、そのたるんだ贅肉のせいで、体がついて行ってないからだろう。

「くそ、、体が重い、、」

それでも魔王の力は圧倒的なものだった。

「西の覇王[石眼のメデゥーセン]。目が合う全てを永久石化してしまうあの魔力は大した物ですが、魔王様には遠く及ばず。」

メデゥーセンは魔王の右手を石化する。

「ぬんっ!」

魔王は左手をナイフの様に扱い自らが右手を切り落とすと瞬時に自己再生を施す。
同時に、伸縮自在の尻尾を弾丸の如く伸ばし、メデゥーセンを貫いた。

「なんと言う、、、っ!」

胸を串刺しにしている尻尾から莫大な魔力を放出されると、一気にメデゥーセンは無力化された。

「お次は、、わお![堕天使ルセファール]その強さはもはや天上の神々に等しいと聞きますが、彼でも、、、及ばずぅ!」

ルセファールが呪文を唱えると大広間には大小数百の魔法陣が所狭しと出現した。
全てが魔王の方角を向いている。

「決めちゃうよー!今日から僕が魔王で良いよねー!地獄の業火インフェルノ!!」

次の瞬間、足元で火山の噴火でもあったかの様な地響きが起こり、無数の火柱が魔王目掛け放たれた。

「お前はせっかく作った城を壊すつもりか!!重力支配グランペラ!」

魔王は腹のたるんだ肉を揺らしながら少し飛ぶと、火柱が魔王へ向かい吸い寄せられる様に方向を変えた。
物凄い轟音と共に全ての攻撃が魔王を捉える。

「終わりだね!!」

ルセファールが嬉々として飛び跳ねて見せるも、爆炎の中からその声は発せられる。

「ちょっとイラッとする痛さだったぞ、、(脂肪燃焼してたらいいな)そんなお前には本物の業火と言う奴を体験させてやろう!」

煙が一瞬にして晴れると、宙を飛ぶ魔王が出現した。その手の平上には邪悪な赤黒い塊が浮いている。

黙示録の業火メギドフラム!」

弾丸の如く放たれたその塊は、ルセファールの頭上を擦り、城を貫いて周囲数キロの海を蒸発させた。

魔王の目前には白旗を振るルセファールの姿があった。

「最後は、、[閃脚無敵ベルザザブ]。太っちょの魔王様とは相性最悪な相手な筈なんですが、、ねぇダブール、ん、ダブール? ダブール!!」

ベルザザブはブンブンと羽音を立てて超高速で飛び回っていた。殺傷能力の低いレイピアでの攻撃も数が重なればダメージは蓄積する。魔王は徒手で対応するも捉えきれないでいた。

「ハハハハ!そんな体じゃあ俺に触れるなんて何百年かかっても無理だねー!」

「ああー!!うざってえ、、追雷!!」

数本の稲妻が轟音を轟かせベルザザブを追いかけるも、捉える事は出来ない。

「なかなか速いけど、俺には追いつけないよー!」

魔王の体には確実に傷が増えているが、痛がる素振りは無い。それどころか徐々に怒りのボルテージが上がっていた。

「この広さなら千通りで足りるだろ、、」

「はあ? なんか言ったー? 」

阿弥陀アミダ、、、千手センズ!」

魔王の背後に神々しく無数の雷槍が出現し、それが一斉多角に放たれる。

「どこ狙ってるのよ!ヤケクソは良く無いぜー!」

ズドン!!

「へ? 」

「217手か、、1000手も要らなかったな」

思わぬ角度から飛んで来た雷槍に対処が出来ず貫通。ベルザザブの羽音が止まった。
彼の目前には指の骨を数本まとめて鳴らす魔王が立っている。

「必殺!ハエたたきぃい!!」

「ヒェエエ!!」

この一撃を持って魔王候補たちとの戦いは終わった。『魔王候補たち』との。

「魔王様ぁあああ!!ヒャハ!」

「ダブール!!」

『狂戦士』はありったけの力と速度で魔王を連打する。まるでこの時を待っていたかのように嬉々として。

「、、ぐっ!」

「何をやっているダブール!!しかし、、魔王様が押し込まれているだと!」

マグネスは驚嘆していた。まだ若輩と思っていたダブールの研ぎ澄まされた才能は魔王にすら届く。それをこの瞬間初めて知ったのだ。

「なんだ、、お前が1番歯ごたえあるよ!この100年、相当鍛えてやがったな!」

「私は一度人間に殺されかけてます!奴らを殺す為なら私はなんだってしまぁあす!」

「俺だって踏み台にするか、、、図に乗ってんじゃねーぞ!!」

ボウン!!

「ヒャッハー!、、、ハ、、」

魔王の『本気』の一撃がダブールの腹部を直撃する。その衝撃で城の半分が吹き飛んだ。

「っし!終わり!」

「お見事です。魔王様。」

「なぁマグネス、、こういう減量はやめようぜ。ほんと疲れるわ」

魔王はグッタリと床にへたり込むが、何処と無く体のラインがスッキリしたように見える。

「、、だってー!魔王様の脂肪はこうでもしないと燃焼しないんですもん!」

全てはマグネスの思惑通りだった。
魔王もそれに気付いていたが、どうもマグネスの押しには弱かった。要は『魔王候補』など初めから存在していなかったのだ。

「あいつらはどうすんのよ? 」

そう言って『三大魔人』たちの方を見るとメデゥーセンとベルザザブは床の上で伸びており、降参したルセファールが小さく手を振っていた。
勢いで飛びかかったダブールに至っては瀕死と言って過言では無い。

「彼らには魔王軍傘下に入ってもらいます。さらに大将格の地位を与える予定も、、ダブールは、、、きつくお灸を据えて置きます」

「ダブールにも大将やらせたら? あいつ相当強いぜ?お前でも苦戦するんじゃねえか? 」

「冗談がキツいですよ!ダブール程度、、まだまだ余裕です!それに、あんなのに大将をやらせたらこの世界がただの『ダークファンタジー』になって一気にR指定です!」

魔王は何気なく会話し、笑って見せるも内心は穏やかではなかった。理由は二つ。

この100年で急成長したダブールの強さが最上位魔人の自分に届こうとしている事。
そしてそんなダブールを殺しかけた人間の存在。

『魔王アガサード』を名乗るからには、もう中途半端は出来そうも無い。マグネスの思惑以上にこの魔王城の一戦には意味があった。

「さあ!お前ら何寝てやがる!致命傷は避けてやったんだからもう回復してるだろ? 」

「「ギクッ!」」

「僕は起きてまーす」

「さあ、もう一戦やろうぜ!」

「おー!!魔王様ー!!ついにやる気になったのですね!!」

その後この戦いは三日三晩続いたと言う。
もちろん『一方的に』、、、

「待ってろよ!人間共ぉお!」

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