セラルフィの七日間戦争

炭酸吸い

第六章二話




 生きていた。虫の息と言っても大げさではないほどに、シルヴァリーは衰弱していた。
  彼を生かしたのは強大な魔力。時を操る、命で出来た魔力だった。かつてシルヴァリーが愛し、愛された相手から受けた魔力。それが反射的に作用し、シルヴァリーの肉体的な時を止め、岩で頭蓋を粉砕されるという結果を退けたのだった。しかし、シルヴァリーの意識は朦朧としている。セラルフィの心臓を破壊するという目論見も打ち砕かれ、今から挑みかかるほどの体力もない。
「殺す……ッ。殺してやる、あのガキも、あの連中も、組織も。全員、潰してやる……ッ」
 気付けば、涙が浮かんでいた。声が震えていた。悔しさで歯を食いしばっていた。息は漏れるばかりだった。
 そこへ現れたのは、かつてユーリッドという小国を脅かしていたという水龍。十年前に大岩で洞窟へと追いやられた魔獣は、何も口にせず今も生き続けていた。それが今、その封印が今、解かれたのだ。
 大口を開けた海蛇。十年ぶりの食事となるのは、自分よりも遥かに小さい、とても小さな、ちっぽけな生き物。
 無力な男だった。
「――キーム」
 己が喰われるその直前に吐いた言葉は、《マヨイビト》という、生まれた時から忌み嫌われる存在の名。しかし、人生で最も愛することができた人の名だった。


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