セラルフィの七日間戦争

炭酸吸い

第二章三話




「あれはまさか――」
 実に数分前のことである。この町の兵団に入って間もないペジットは、ライムのアジトを物陰からひっそりと観察していた。ライムがその建物から出ていくのも確認済みである。
 今回指名手配されているセラルフィとトトの二人は別として、小隊長からライムの動向についても探るよう指示されていたのだ。シルヴァリーのことを裏で嗅ぎまわっている人間がいるという情報を、シルヴァリー本人から知らされ、それを特定することがペジットの所属する部隊の役目だった。どうやらシルヴァリーはあえてライムを泳がせていたようである。まさか指名手配犯二人も彼と通じているとは思わなかったが。
 兎に角。
「どうしようか……オレ一人で突入して、みすみす逃がしたなんてことになったら困るしなあ。小隊長の拳骨も地味に痛いし」
 砂埃の目立つ、栗色の髪を撫でながら小隊長の拳骨を思い出す。少しして、青色の瞳に決断の色が宿った。
「オレだって伊達に凶獣狩りをしてきたわけじゃない。今家の中にいるのは最低でも二人。大丈夫。十人までなら絶対に負けることはないさ。足音からしても三人いたかいないかだったはずだし……」
 国からこの町に支給された装備でも一番安物の兵団服を纏っているペジットは、一振りの長剣を確認して、家の前に立った。
 貧乏人には違いないが、貧困生活から脱するために鍛えた剣術だけが、ペジットの自信となっていた。災害孤児だったペジットは、もともと正義感だけは人一倍あった。きっとあの三人はこの町を脅かすテロリストなのだろう。それでこの町の子供を人質に、シルヴァリーを殺せとか言ってしまうのだろう。脳内で勝手に膨らんでいく悪の存在が、ペジットの正義感を更に大きくしていく。
「許さんぞ悪党共……ッ! このオレが、町を――ユーリッドを救って見せる!」
 扉に手を掛けようとした瞬間、向こうから独りでに扉が開いた。


コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品