酸素不足

アダムとイブが食べたリンゴ

彼の酸素

私は先生のなんなのか。彼女ではない、でも、生徒の垣根は超えてしまった、友達でもない。じゃあなんなのか。ふと不安になった。先生に聞いてみたいけど、この関係が壊れるのは怖くて聞けなかった。今日は自習の日だった。学校はいつもと変わらず誰とも口を交わすことなく終わった。学校の先生は私に何度もスクールカウンセリングを勧めてくる。そんなものしても何も変わらないからしない。私は、コウキ先生が居ればいい。コウキ先生ならカウンセリングよりも安心させてくれるから。でも、今日は自習だから隣には座れない。いつもの自習席に座って辺りを見回す。コウキ先生は私と同じ歳の女の子を担当していた。私と話す顔と一緒の笑顔だった。無性にその女が腹立たしく思えた。その女の笑顔が私に対して嘲笑っているかのように見えたのだ。女と目が合う。逸らされた目。なにか頭の中で切れた音がした。そう思ったらもう足が動いていた。走って外に出た。誰も追いかけてこない。コウキ先生は来ないかな、と思うけど何分たっても来ない。多分、何時間後も来ないだろう。近くの公園で休もうと、ベンチの上に腰掛けた。空には星がぽつぽつ見えた。月は、満月だった。バイクのエンジン音がする。もしかしてと思い、勢いよく振り返るも全く知らないバイクだった。ケータイをいじって時間を潰してみたが、つまらない。あっと、閃いてあの女の学校を特定してみる。私の学校より偏差値の低い高校だと分かった。制服はセーラーで膝上丈は当たり前の少し治安の悪そうな私立の高校だった。よく思い返せばあの女も短いスカートにカールされた茶髪で、清楚とは程遠い化粧だった気がする。SNSで彼女を調べあげ、周りの友達や、彼氏の情報を仕入れる。なんだ、彼氏がいる。それならあの女に取られることはないだろうと思った。少し落ち着いたので戻ろうかとベンチを立つ。腕を引っ張られた。コウキ先生、少しでも期待した私が馬鹿だった。そこに居たのは顔も見覚えのない20代ぐらいの男の人だった。太っているわけでも、痩せている訳でもないが力は強く、背丈は私の首が痛くなるほど高い。そんなことを考えていると連れていかれた。車の中に押し込まれる。きつい香水の匂いがした。私は大人しかった。学校の規則で長いままのスカートを握りしめて知らない人のドライブに付き合っていた。少し進んだ後に、なんで叫ばなかったのかと聞かれた。しかし、何故かわからなかったため少し笑って、さぁ?と答えた。ませたガキとでも思ったのか、その男もクスッと笑った。どこに行くのかと聞いた。男は考えてないと言ったが、明らかに行き先のわかっている運転だった。私は黙りこくった。着くまで寝ていようかなとも思ったが、流石に危ないと思ったので起きていた。ケータイを開くと着信が5件、メッセージが10件以上来ていた。見ると、全部コウキ先生からだった。内容は、どこに行ったのか、どうしたのか、帰りが遅くないか?とか心配の言葉ばかりだった。私は先生に誘拐にあってることを言ってみた。助けてとは述べなかったが、連れ去られているとだけ言った。すぐ既読になった。電話がきたが、出られるわけないじゃないと少し笑って拒否した。そして、男が着いたことを教えてくれた。私は先生に行くねと送って男について行った。ポッケに入れた携帯がバイブレーションを続けた。
 男は私を部屋に連れていった。どこかは分からないが、手錠と足枷、そして、扉には南京錠がついている。監禁。男は私の片手とベッドの端を手錠で繋ぎ、足枷を足に付けた。そして、扉を閉められた。冷たくカチャリと鍵の閉まる音がした。私は1人だ。そっとケータイを開く。バレたら没収されそうだ。コウキ先生からの着信は止まることはなくもう、20件を上回りそうだ。メッセージはどこにいるの?と言うものばかり。GPSの事を先生に伝え、私の現在位置を探してくれと打って送った。と思ったが男がこちらに来た。私の携帯を取り上げ、私が打っていた内容を見て舌打ちをし持っていかれた。代わりに連絡の取れないスマートフォンを置いていった。暇つぶしにしろとでも言うかのように。しかし、私はゲームなどしても暇つぶしにはならない。結局今日は寝ることにした。
 朝起きると目の前の机には白いご飯と目玉焼き、お味噌汁とソーセージがホカホカの状態で置いてあった。いい人なのか悪い人なのか分からない。私は手錠のかかった左手をベットに置いたまま行儀悪く片手で茶碗も持たずに食べた。親は私に何も作ってくれない。理由は忙しいからだそうだ。いつも自分で作る。だから、少し嬉しかった。そういえば、先生は今どうしてるだろう。私のことを心配してるのか、それとも警察に相談してるか、親に言っているか、もしくは、何も思っていないか。
私は考えられる全てのことを想像したが、正解には導けなかった。男が部屋に入る。おはようと言ってくれた。私もおはよ、と言う。誰なんだろう、私のことを前から誘拐しようと思ってしたのか、その場での思い立った行動だったのか、それさえも分からない。なんで私を誘拐したの?と聞いた。男は食器を片しながら目線だけこちらに向けてゆっくりと話した。それは、一言だった。べつに。なんて冷たい言葉だろう。去年、ミナに言われた嫌味のどれよりも辛かった。意味もなく私は誘拐されたんだと思うと、吐きそうだった。

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