人間不信様のハーレム世界

和銅修一

この世界は

 悠斗の思考回路は停止した。
 目の前に現れたのは着ている服や雰囲気が少し違うがそれはどうやったって見間違えるはずのない自分の姿があったからである。
 しかもその男はとてつもない魔力を放っている。
 先ほどまで戦っていた天使たちとは比べ物にならないそれはどうやら球体の中に詰まっているらしく、穴から少しずつ放出されている。空中に浮いているのはその為だと思われるがーー。
「悠斗! ちょっと悠斗‼︎」
 彼にとってどうやって浮いているかはどうでもよかった。
 この旅の目的である『神』の正体が自分だった。その衝撃の真実だけが彼の頭の中を支配している。
「最後だ。これが君たちの最後の戦いとなる。存分に抗ってくれ」
 椅子の肘掛けが叩かれると球体の穴から蓄積されていた魔力が悠斗目掛けてその白い塊が降り注いだ。
「悠斗⁉︎」
 煙が晴れるとそこには微動だにせず、神の攻撃に耐え抜いた悠斗が鬼の形相で立っていた。
「その顔で……俺から奪おうとするな」
「流石と言うべきか。いや、当然なのかな。私が私に匹敵する力があっても不思議ではないですか」
「説明しろ。どうして俺と同じ顔をしてる」
「簡単な話です。どうやら君はここを異世界だと勘違いしているようですが正確にはそうではありません」
 冷静になり、話を聞いていて悠斗はようやく違和感の正体に気づいた。
 この敬語だ。
 流石に指摘して直させるわけにはいかないし、今はそれはさほど重要ではない。
「異世界じゃないならここはどこなんだよ」
 モンスターがいたり、魔法が使えたりする世界。そんな世界に来て、ここは異世界だなんて思わない奴はいない。
「君たちのいた世界。そのもう一つの可能性と言ったら分かってくれるかな」
「パラレルワールドってやつか」
 ある世界から分岐し、並行して存在する別の世界。これは異世界などとは違い宇宙と同一の次元を持っている。
 だからこそここは異世界ではない。
「ただの異世界だったら納得がいきましたか?」
「いや、どうせ同じことだ。だがお前を見る限りだとその話は信じるしかないようだな。けど、それでどうして俺たちが戦う流れになる?」
「世代交代ですよ。神は世界で最も強い者が務めてなくてはいけない。ですが私は力が徐々に無くなりつつある。だが今は行っている計画を見知らぬ奴になど託せない」
「それで同じ俺を呼んだってか。でもよ、それだと美鈴や他の連中を巻き込む必要はなかったんじゃねえのか」
「事を潤滑に進めるため、そして純粋に君の強さを試すにはちょうど良かったんだ。特にガイザは十分に役目を果たしてくれた」
「おい、その言い方だとまるで全部お前の思惑通りに進んでるみたいだな」
 まるで今まで手のひらで踊らされていたかのような。
「ええ、多少ズレが生じてしまいましたが終わり良ければ全て良しということで」
「なるほど。じゃあ、テメェを倒してハッピーエンドてわけだ」
「どちらでも構いませんよ。たとえ君が負けてもその力を吸い取ればしばらくは保つと思いますので」
「それでもまた力は無くなるんだろ?」
 それではイタチごっこだ。また別に俺を呼び出して、上手くいかなれば吸い取りの終わることのない無限ループ。
「はい。ですがまた別の私を呼び出せば良いだけですよ。事が上手くいく運ぶようになるまで」
「虚しいなそれ。上手くいかねえのが人生ってもんだろ。それを捻じ曲げるのはたとえ神だろうが俺だろうが許さねえ」
 剣を振り上げそこへありったけの魔力を込め、渾身のスターゲイザーを放つがそれは穴から放出された白い魔力の塊にいとも簡単に防がれてしまう。
「いいね。でもそれでは足りない」
「やってくれるぜ。これはかなりヤバイかもな」
「けどもう一人じゃない。そうでしょ?」
 美鈴が駆けつけたレイナたちの方に視線を向けながら微笑む。
「ああ、おかげで誰が相手だろうと負ける気はしねえよ」
 リンクリングはこれまでにない光を纏い、そこから光の線はレイナたちだけでなく世界各地にいる悠斗と関わった者へと繋がった。
 それは悠斗へと力を流すパイプとなり、球体に詰まった魔力にも匹敵するほどとなる。
「最後にお前の計画とやらを教えてもらおうか」
「必要ありません。決着がつき、君が神となるのならこの計画は達成されたも同然ですから」
「そうか……じゃあなもう一人の俺。ノヴァゲイザー‼︎」
「スターダストグリーム」
 同じ声、異なる意志がぶつかり紫と白の閃光が彼らを包み込んだ。




 壮絶な戦闘から三年後。
 海の上のとある海賊が空を見上げながらため息をこぼしていた。
「なあ、まだ着かないのかよ。食糧もそろそろ尽きかけるぜ」
「仲間が増えれば必然的にそうなる。だが三年前よりかはマシだろ」
「だな。あの時は異形がめちゃくちゃ襲って来て大変だったな」
 船の所々にはその爪痕が残っており、それはその時の壮絶さを物語っている。
「けどあの人のおかげで異形とは共存出来るようになってきた。まだ完全とは言えないけどこうしてのんびり旅してられる。だから船長が愚痴をこぼすな」
「へいへい。にしてもあの人は今頃何やってんのかな」
「さあ。忙しく世界中を飛び回ってるんじゃない」
 と些細な会話をしている空に何かが物凄い勢いで通り過ぎて行った。
「お、風が出てきた。よーし帆を張れ! 全速前進だ」
 彼らは進む。
 新しい神がより良くしているこの世界を。

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