人間不信様のハーレム世界

和銅修一

光の翼と動き出す真実

「悠斗様……」
 心配そうにレイナが見つめる先には簡易的な墓と動かなくなった仲間を前に手を合わせている悠斗がいた。
 埋葬出来たのはガイザのみ。
 流石にオラスほどの巨体を埋めるのには時間と労力がかなりかかるし、空の支配者を地に埋めるのは気が引けたので洞窟へと移動させるだけとなった。
 しかし、ゲームをやっていた時なんて『死』など気にしたことなかったがこうして実際に対面してみると色々考えさせられる。
 コンテニューも出来ない理不尽な昔のゲームのようだ。これは後悔をしないようにしなくてはな。
 この手は血で汚れてしまったがそれを背負って生きていくのが礼儀というやつだ。
「オラスは残念だったが立ち止まっている暇ない。だが移動手段がなくなってしまったな」
 今まで移動はオラスに任せっきりだった分、いざいなくなると非常に困る。
「おいらが飛んで運ぶっすよ」
 ホグアが背中に生えている小さな羽をピコピコと動かしてやる気を見せるがやはりオラスのそれに比べると心許ない。
「一人ならともかく、全員は無理だろ。却下だ」
「あの青年二人を呼び戻すのはどうじゃ? 船ならば全員乗れるじゃろ」
「もう出発した後だろ。いや、ホグアに飛んで探して貰えば……でも時間がかかるな」
「私の転移魔法はどうでしょう?」
「成功確率は?」
「えっと、三十回に一回は……」
「そんな賭けみたいなことできるか。仕方ない。ホグアにあの二人を連れ戻して……」
 一番現実的なアリアの意見を取り入れようとしたその時、急接近してくる何かの気配を感じ取り悠人は洞窟を出た。
「誰だお前らは」
 銀の鎧を纏った二人の男。彼らの背中には光る翼があり、それで宙に浮いていた。
「悠人様、気をつけてください。彼らから膨大な魔力が感知されました。特に背中の翼のようなものは私のデータにはないものです」
「つまりヤバい奴らってことか」
 剣の柄を握り、いつでも戦えるようにと準備したのだが相手は両手を小さく挙げてその気はないのを悠斗達に示した。
「安心してください。我々は争うために来たのではないのです」
 兜を取り、金髪の男はニッコリと微笑む。
「よく言うぜ。そんな立派な格好しておいてよ」
「これは我々の正装です。しかし、誤解を生んだのならばここでお詫びを申し上げます」
 きちんとお辞儀をする彼の姿はまるで執事のようで様になっていた。
「なんじゃ、調子狂う奴じゃのう」
 どうやら彼らの態度がアリアの気に障ったらしく、少しイラついている。
「それで、あんたらは何しにここに? 優雅に空中散歩をしに来たってわけでもないだろ」
「ええ、実はそこにいるエルさんを我々の所へ招待したいと思いまして」
「招待?」
「ええ。貴方……もしかしたら本人自身でさえもご存知ないかもしれないのですが特殊な力が備わっているのです。この世界を平和に出来る力を」
「し、知りません。そんな力なんて……」
 エルは後ろに下がりながら小さく首を振った。
「そうですか。しかし、我々には猶予がありません。その奇跡の力をどうしてもお借りしたい」
「勝手に話を進めるでない。何やらそちらには都合があるようじゃがそれはこちらもも同じじゃ。ここは一度退いてくれんかの?」
「と言われましても手ぶらで帰るわけにもいきませんので」
 柔和な笑顔を浮かべたまま腰にある二本の剣を引き抜き、その後ろの無口な騎士のような男も戦闘態勢に入った。
「平和のためとか言っといてそれかよ。矛盾してるぜ」
 まあ、俺の世界にも平和のための抑止力とかいう矛盾したやつがあるからあまり強くは言えないがな。
「我々も出来ればこんなことはしたくはないのですが、貴方達が抵抗するのなら致し方ありません」
 急降下をしてその速度を乗せた斬撃が悠斗目掛けて放たれたがそれを剣の腹できっちりと防いだ。
「へぇ、平和ボケしてはなさそうだな」
「今のを防いだのは称賛します。ですが狙いは貴方ではないことをお忘れなく」
 もう片方の男が翼を広げて何かを呟くとエルの下に白色の魔法陣が突如として現れた。
「ちっ! 全員エルを守れ」
 咄嗟の指示に動けたのは近くにいたミノスだけでその魔法陣に入った途端にエルと共に姿が消えてしまった。
「おっと、一人巻き込んでしまいましたか。そちらの後処理は頼みますよ」
 頷いて早々に何処かへと飛び立つ男。追いかけたいところだがまずはこの金髪をどうにかしないと動けない。
「余裕だな。こんな事しといて俺から逃げられると思ってんのか」
 ホグアだって空を飛べる。その気になれば空中戦も追跡も可能だ。
「もちろん。我々、天使の力さえあれば」
「天使……だと?」
 何か嫌な予感がした悠斗は身構えると次の瞬間、目の前が白一色に染まった。
 天使と名乗る男が翼から眩い光を放ち、それを目くらましとして使ったのだ。
「我々の邪魔をしないでください。これは神の意志でもあるのですよ」
「クソが!」
 やみくもに剣を振るった悠斗だが当たるはずもなく、視力が戻った時にはもうそこには何も残っていなかった。

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