人間不信様のハーレム世界

和銅修一

呆気ない幕切れ

「ハァハァ…これだけ集めれば十分かな?」
「ああ、急いで悠斗さんの所に戻ろう」
 カイトとシャウは悠斗に言われた通りに布の上に光る石をなるべく集め、それを包んで二人掛かりで持ち上げて、また奥の方へと進んで開いた場所に着くとそこではとんでもない光景が広がっていた。
「ぬぅん!」
 ヴァーボックが怒りと苛立ちが入り混じった唸り声をあげながらハルバートを振るうが悠斗はそれを涼しい顔で剣を片手に全て防いでいたのだ。
 この近辺の海では名前を聞いただけでも身を震わせるほどの怪物がこつも簡単にあしらわれているその姿は悠斗が怪物をも凌駕した神のような存在に見えた。
「よう、二人とも。頼んでいた物は持ってきてくれたか?」
「あ、はい。ここに」
 ドサッと五十個以上もの光る石を置いて結果を報告する。
「十分だ。おいヴァーボック、そろそろ普通の攻撃じゃあ俺を倒せないって分かっただろ」
 実はカイトとシャウが光る石を探す時間を稼ぐ為に「どうせその秘宝の力がないと何も出来ないんだろ」と挑発していたのだ。
 おかげで単純なヴァーボックはこうも思う通りに動いてくれた。
「チッ! 気に入らんがお前は普通にやってたんじゃあ殺れねえようだな。だがこっちにはとっておきがあるのを忘れるんじゃあねえ!」
 最早普通の攻撃だけをする義理もないのでヴァーボックは秘宝の力を使った。
「何度も同じ手をくらうかよ」
 また水を動かしての攻撃がくると悟った悠斗はそばに置かれた光る石をひとつまみし、磨り潰すと粉になったそれを前方へと撒く。
 するとその粉はある所からグルグルと回転し始めて悠斗の方へと戻ってきたのだ。
 それが悠斗の狙い。すかさず横に転がってその粉から逃げる。
「そうか、これならヴァーボックの攻撃が見える」
 水を操る人魚族の秘宝。これを駆使して水で攻撃していたヴァーボックだが水は透明で更にここは水中だ。使っていた本人でさえ目には見えておらず、感覚で水を動かしていただろう。
 物凄い速さで迫ってくるのを避けるなんて到底不可能だ。だからせめて水が見えれば、と思いこの作戦が考え出された。
 普通の石では目立たないし、壊しにくい。それに反しこの洞窟にある光る石はチョークのように柔らかく遠くからでも目視出来るのでこの作戦には最適な物だったのだ。
 だからこそヴァーボックに邪魔されず、自由に動ける二人に集めるように指示して秘宝の力を使わせないようにヴァーボックを挑発した。
 作戦は見事に成功。
 一番の問題はヴァーボックが挑発に乗るかどうかだったがこれは意外と簡単に解決した。
 これでもう秘宝の力も怖くない。
「それじゃあお返し行くぞ」
 腰を低くして一直線に突っ込んで魔力で紫色に輝かせた愛剣を人魚族の秘宝にぶつけると火花が散り、逃げ腰だったヴァーボックは押し負けて尻もちをついて、手から抜けたハルバートが開いた足の真ん中に突き刺さった。
「さあ、選べ。今ここで死ぬか、二度とここに来ないと誓うか」
「う…うひゃぁ〜〜〜〜」
 当初の覇気のある表情からまるで悪夢でも見た後のように真っ青になっている大男の首に剣先を突きつけて脅すと形振り構わず洞窟から逃げ出してしまった。
「二度ここに来るなよ。来たら今度は本気で斬るから覚悟しとけよ」
 聞こえたかは分からないが一応その小さくなった背中に釘を刺しておく。
「す、凄え…あのヴァーボックをあっさりと。流石悠斗さんだ」
 カイトは感嘆の声をあげるが悠斗は「そうじゃない」と首を振った。
「お前たちのおかげだ。光る石がなかったら秘宝の攻撃は避けられなかったし、ディアラの力がなかったら水中でここまで動くことなんて出来なかった」
 全てが終わり、リンクリングの力を解いてディアラを元に戻してお礼を言う。
「いや、だが悠斗殿の功績はやはり大きい。人魚族としてお礼をさせてくれ」
 融合をして、あの時の怪我が完治したディアラは嬉しさのあまりグイッと悠斗に顔を寄せた。
「ああ、それはいいんだけど……ちょっと近くないか?」
 この言葉で興奮が冷め、ようやくディアラは自分がどんな状況なのかに気づいて顔を真っ赤にして咄嗟に顔を遠ざけた。
「⁉︎ す、すまない。あのヴァーボックの無様な姿が見れて嬉しくてな。そ、そ、そんな事よりも何か欲しい物はないか?」
「いや、特には……。まあそれは後でいいだろ? まずは先に王宮にいる残った海賊たちをどうにかしないとだし、こいつらとは約束があるからな」
 人魚族滅亡の危機は去り、これからどう復興していくかなど幾つか問題はあるがそれは彼女たちに任せるとして頑張ってくれた青年たちにはご褒美をあげなくては。

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