人間不信様のハーレム世界

和銅修一

人魚族の秘宝

「誰だお前?」
「俺か? 俺は通りすがりの旅人だ。あと、王宮にいるお前の仲間は片付けた張本人だ。船長だか何だか知らねーがお前に勝ち目はない」
 一対四。
 数的に有利だし、王宮での作業が終わればレイナ達も参加してくれる様にここまでの道には印をつけてある。
「ふんっ、元々奴らになど期待はしてねぇ。どんな時でも俺一人の力でどうにかしてきた。今回もそうするだけだ」
「大した自信だな。もうお前には逃げ道はないんだぜ」
 ここは行き止まり。他に出口などないし、隠れる場所もない。
「逃げる気など毛頭ない。そこの裏切り者をとっちめる仕事が残ってるんでなっ!」
 と腰に収めていた斧を振りかぶりカイの脳天へ斬りかかる刹那、悠斗がそれを横幅の広い剣の腹で防いだ。
「おいおい、随分手荒だな。海賊って短気の集まりなのかおっさん」
「邪魔をするな。雑魚に用はない」
「そうか……なら俺も言わせてもらう。雑魚に用はない」
 もう片方の斧と取り出し、先ほどより威力を上げる為に体重を前にかけて襲い掛かって来るが悠斗は鬼の形相で迫るヴァーボックにも顔色一つ変えず、剣を横に振るってその巨体を吹き飛ばした。
「ぐぉっ⁉︎」
 洞窟の壁に激突し、口から血反吐が光る鉱石にベッタリと付いてこの場が静まり返った。
「す、凄ぇ。あんなあっさりヴァーボックを吹き飛ばしちゃった」
 それも片手でだ。
 カイとしてはあり得ない光景だった。
「ぐぬぅ……思ったよりやりよるな小僧。王宮にいる俺の手下共を倒したというのはただの戯言ではないようだな」
「嘘をつく理由がないからな。それより、さっさと降参するのをお勧めするぜ。お前みたいなクソ野郎には手加減しないって決めてるからな」
 勿論、この武器がリアルの物であってもだ。
「ほざけっ! たった一撃入れた程度で調子に乗るなよ」
 顔に怒りマークを刻んだヴァーボックは後ろにあった横に長い宝箱を乱暴に空けて、斧の代わりにそれを両手に携えた。
「それが秘宝か? 全然似合わねえな」
 水色の宝石が散りばめられたされは所謂ハルバートという武器で斧と槍を合わせた武器なのだが線が細く、ガタイのいいヴァーボックが持つとその細さが更に際立つ。
「笑ってられるのも今のうちだ。これの恐ろしさを得と味わえ!」
 槍の部分で突きを放つが悠斗たちとの距離は吹き飛ばしたのでそれなりにあり、その銀の先端は届くことはない。
 しかし、直後に全く別の何かが迫って来た。
「悠斗殿、危ない!」
 人魚だからこそ、その何かに気づいたディアラは咄嗟に悠斗の横っ腹を押してハルバートの穂先の一直線上に位置する所で見えない何かが直撃した。
「ぐぁぁぁっ‼︎」
 鍛え抜かれた腹筋でもその威力には耐え切れず、形が歪んでいきそのまま体を貫いてしまそうな勢いだったので悠斗は慌ててリンクリングを発動させて強制的に融合してディアラを見えない何かから救い出すがその直後に腹部に鋭い痛みが走った。
「ぐ…、なるほど。こうなるのか」
 ダメージを受けている仲間に使うとどうやらそのダメージは引き継がれるらしい。
 指輪の力を過信していたからの失態だがディアラを救えた、指輪の特性を知れた。
 この二つはデカイ。
 だったらこの程度、かすり傷だ。
「今のを避けたか。しかもその指輪。どうやらただの指輪ではないようだな」
 それは今の悠斗の姿で一目瞭然だ。
 皮膚は所々鱗で覆われ、肘から手首にかけて生えているヒレ。
 お互いの指輪が同時に光り輝き、ディアラが悠斗の体に溶け込む様に消えていき、この姿へと変貌した。
 明らかに指輪の力だが、ヴァーボックはまだ噂に名高いリンクリングだとは気づけないでいた。
「仲間から貰ったんだよ」
 これでもうリンクリングで融合したのは何人目だろうか?
 誰とやっても心が落ち着く。
 自分の中に仲間がいて、一人ではないと直に感じられるからだろう。
 だからこそ見えない何かを恐る事もない。
「悠斗さん! 俺たちに何か手伝える事はありますか?」
 ただ見ているだけで憤りを感じたシャウはそう問うが危険な目に遭わせる訳にはいけない。
「二人で光る石を集めてくれ。出来るだけ多くだ」
 ここに来る途中にあった物でいい。
 無闇にヴァーボックに近づけさせないのが本当の意図だ。
「分かった! それまで負けないでよ!」
 無駄に張り切って二人はこの開けた場所を抜けて来た道を引き返した。
「さぁ、反撃開始だ」
 自分と自分の中にいるであろうディアラに言い聞かせる様に呟いた。

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