人間不信様のハーレム世界

和銅修一

ヴァーボック

「中は結構明るいのだな」
 右手の親指にリンクリングをはめたディアラはカイの案内で辿り着いたある不気味な洞窟の中へ入るとその光景に目を奪われていた。
 至る所に散りばめられた石が黄緑色に光り輝いて暗闇を照らし、幻想的な雰囲気を作り出している。
「この鉱石のお陰で迷わず前に進めるな」
 松明か何か必要かと思ったが嫌ぬ心配だった様だ。というかここは水の中なのだから松明が使えない代わりにこういった計らいになっているかもしれない。
 いや、それは考え過ぎか。
「足元には気をつけろよ。石があって危ないからな」
 光る鉱石だけでなく普通の石も混じっていたりするので注意したのだがその矢先、指輪を見つめていたディアラが少し出っ張った石に足をぶつけて転けそうになったが咄嗟に肩を支えた。
「おっと。気をつけろって言っただろ。この洞窟足元が不安定だからな」
 アスファルトの様に整備された道ではなにい為、地面は石だらけで尖った物なんかもあってかなり危ない。
「す、すまない悠斗殿。これから奴と戦うとなると少し不安になってしまっただけだ」
 人魚を壊滅的状態に追い詰めた海賊団の船長だ。
 恐れを抱いてしまうのは仕方が無いがディアラが怯えている所など初めて見た。
「お前らしくないな。初めて会った時はあんなに殺気を出して怖いくらいだったのに。いつもの冷静なお前はどこへ行った?」
「私の何が分かる! 奴は一族を崩壊させ、多くの仲間を殺した悪魔だ。それをこれから相手にするのだから不安にもなる。勝手なイメージを押し付けないでくださいっ‼︎」
 何も分かってない。
 洞窟にディアラの叫びが響き渡り、数秒後悠斗はゆっくりと口を開けた。
「確かにそうだな。数時間程度一緒にいたくらいでお前がどんな奴なのかなんて完全に理解できていない。頼り甲斐があって冷静なイメージは俺の頭の中のお前だ。実際はどんな事で悩んで、どんな事で笑って、どんな事で泣いているのかなんて知らねーよ。だけどよ、ここを乗り越えなきゃお前は自分に負けるぞ。それでもいいのか?」
 怖いから、勝てないから、それだけの理由で何もしないというのは自分を曲げて逃げているだけに過ぎない。
「だ、だが相手が悪すぎる。私が勝てる相手では……」
 真面目に訓練をしていても奴には到底及ばなかった。でなければこんなに苦しんでなどいない。
「誰がお前だけで戦えって言った。何の為に俺はその指輪を渡したんだよ。それは一人じゃあ意味がないって知らないのか?」
「そうですよっ! 俺らだってついてます。だから安心してください」
「ちょっ、勝手に俺も入れるな。まぁ…でも償いはするつもりです。貴方が危険になったら身を呈して守ります。海賊の名誉にかけて」
 悠斗に続きカイ、シャウが励ましの言葉を送る。
「……すまない…そしてありがとう。もう大丈夫だ。先へ進もう」
 三人の励ましによりディアラの闇が吹き飛び、迷わず前へと進みしばらくすると開けた場所に着くとそこにも光る鉱石があり、奥の方にいる人の姿が確認できた。
「お前がヴァーボックか?」
 そこに居たのは肩幅の広い大男だった。
 腰には二本の斧が横に向けられ、落ちない様にしっかりとロープで固定されている。
 顎には無造作に髭が蓄えられており、その厳つい表情と海賊帽、赤いジャケットは以下にも海賊の船長という風貌で一発でこの男がヴァーボックなのだと認識できた。
「ああ、そうだが何か用か小僧。仲間にして欲しい…って空気じゃねえな。それにどうやら俺の部下までいやがる。一体どうゆう了見だこりゃあ」
 眉を顰めつつ、野太い声で脅しにかかるがこの中にそれで怯む者はいない。
「船長、いやヴァーボック! 俺たちは貴方の元から離れる事を決意しました。自由を求める本当の海賊になる」
「はぁ? 自由だぁ〜? テメェは背だけじゃなくて脳みそも小せえのか?」
「せ、背が低いことは関係ないだろ!」
 同い年の子より一回り小さいカイが気にしている事だが実際に彼は実年齢より三、四歳ほど下に見えてしまう。
「大体海賊ってのはよ、海の盗賊だ。金の為だったらどんな事でもする。それが基本だ。なのにテメェはなんだ、綺麗事を並べて自分に酔ってるだけだろうがっ‼︎それじゃあ腹は膨れねーんだよ」
 カイはすぐに言い返せなかった。
 ヴァーボックの言い分はヴァーボックの中では正しく、自分が正しいと思うことを押し付けるのはただの自己満足になってしまう。
 だが……。
「それでも……それでも俺は決めたんだ! もう自分を偽らない」
 サーベルを引き抜くその腕は目の前の強敵に震えていたがそっと白く柔らかいディアラの手がそれを抑えた。
「カイ、といったな少年。私は海賊は嫌いだがお前は応援しようと思う。悠斗殿も力を貸してくれ」
「バーカ。違うだろ。お前らが俺に力を貸すんだよ」
 何時もの様に愛剣エストレアを肩に担ぎ、敵を睨みつけた悠斗は不敵に笑ってみせた。

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