人間不信様のハーレム世界

和銅修一

落胆

「悠斗殿! 良かった。ご無事なようで安心した。しかし、その二人は誰です?」
 地下の階段から駆け上がってきたディアラが合流して五人で廊下を走る。
「ついさっき仲間になったカイとシャウだ。秘宝を探しにいったヴァーボックの所まで案内してくれることになった」
 その途中で何も知らないディアラに要点だけ説明すると
「そうですか。しかし、これほどの相手を相手に良く勝てましたね。魔法か何かを使ったのですか? あまり大きな音はしなかったようですが」
 ざっと五十人以上はいるであろう海賊達が倒れているのを眺め、感心をするが大した事ではない。
「いや、ただ普通に殴ったりして気絶しただけ。数が多くて面倒だったけどレイナもいたしすぐ終わった」
 数が数なので瞬殺とまではいかなかったが、ものの数分で方は付いた。
「悠斗殿はお強いのだな。いつかご教示をお願いしたいくらいだ」
 特に平和が続き、怠けている者の多い王直属の護衛軍。彼らが悠斗ほどでなくとも、訓練を怠っていなければこの人に迷惑をかけることもなかったのに、と唇を噛みしめる。
「いつかな。それより王様は無事だったか?」
「命に別状はありませんでしたが、所々骨が折れていて安全確保の為にメルト姫達が生存者が集まっている集落へと向かわせました」
 そこならば海賊達の魔の手からは逃れられる。いや、既にこの場は悠斗が制しているので医者に診せる方が主な目的になっているか。
「ならひとまずは安心だな。でも、そうなると王様に秘宝の居場所を聞けそうにないな」
 今からメルト達を追っても時間の無駄になってしまう。
「しかし、私たちは今秘宝の所へ向かっているのでは? あの青年達が案内してくれると悠斗殿自身が言っていたではないか」
 詳しくはカイ一人に任せているのだがその辺の事情を話すのは面倒なので説明は省略させてもらう。
「あいつらが本当に海賊をやめたという保証はない。ヴァーボックが仕掛けた罠だという可能性もある」
 ヴァーボックが何らかの方法で悠斗達が近づいて来ているのに気づき、あらかじめこうなるのも予測して襲撃する為に何処かに潜み、二人を案内役にしたのかもしれない。
 ある程度距離をとって聞こえないように少し小声で自分で考えた見解を伝える。
「あの青年が⁉︎ 私にはそんな悪い人達には見えませんが……」
 小さな背中はただ無邪気でこれからが楽しくて仕方がないというオーラが出ている。
「それが奴の狙いかもな。子供だとどうしても油断するからそれを考えて……、いや気にするな。例えそうだったとしても返り討ちにすればいいだけの話だ」
「悠斗殿、深く考え過ぎでは? 確かに相手は卑劣な海賊ですが彼らが嘘をついているとは思えません」
 私情を挟むようだが、よく近所の子供の相手をしていたので見ただけで分かる。
 彼らはその子供達と同じだと。
「ディアラさん。悠斗様は悠斗様の考えがあります。どう思おうが勝手ではありませんか? それを否定するような発言は控えてください」
 あくまで協力しているのはこちらと主張するが助けてもらう側が黙って従う訳ではない。
「し、しかし悠斗殿は疑り深過ぎる。これからは友好的な関係を築いていきたいと思っているのにそれでは困るのだ」
「友好的な関係とは具体的にどういった関係ですか? 詳しく教えてください。異性的な意味合いが含まれているのですか?」
 問う時の目は奥に闇がある気がしたがディアラはそれに気づかず、耳まで真っ赤にして狼狽ろうばいした。
「べべ、別にそんな事は断じてない! ただ今後人魚族と人間の関係を取り戻す第一歩の為に必ず成功させたいのでそういった考えはどうかと……」
 ほとんど海底から出ず、外との交流をしなかったせいで遅れている人魚族は海賊に襲われた事によって危機感を覚え始めた。
 このままではいけない、と。
 だから上で何が起こっているのかに興味を示し、情報を集める為にそこの住民である者たちと交流しなければいけないのだ。
 もう二度とこの様な悲しい事件が起こらない為にも。
「ああ、心配するな。俺はお前らの事は信じてる。それだけは確かだから」
「えっ⁉︎ な、何故あの二人は信じずに私は信じるんだ?もも、もしかしてあの……」
「そうだ。お前らは人間じゃない。人魚だ。だから信頼できる」
「へ?」
 考えていたのとは全く違う言葉が返ってきて軍人としてあるまじき、間抜けな声が自然と出て、ぽかんとしている彼女にレイナが説明を補足する為に呼び掛ける。
「悠斗様は人間は信じませんがそれ以外ならどんな者でも信じるんです。勿論、ディアラさんのようなモンスターでも、こんな私にも平等に」
 人間が入っていない時点で平等かどうかははなはだ疑問だが悠斗の様子からしてそれが嘘ではないのは一目瞭然。
「あ〜、やっぱり」
 その事実は困惑していたディアラの心を落ち着かせ、何故か苛立ちに近い感情がこみ上げていた。

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