人間不信様のハーレム世界

和銅修一

黒の終焉

「じゃあ準備はいいかい?」
「おう。いつでもいいぜ」
 ここはルーチェからさほど遠くない所にある迷いの森と呼ばれる所。
 そこで二人の男は静かにたたずんでいたが、曜炎が悠斗の承諾を聞くと腰に刺した腕より少し小さいぐらいの黒い剣二本を空にかざして黒い炎を放った。
「本当にこれで来るのか?」
「そんな心配しなさんなよ。あいつは俺を邪魔だと思ってるんだ。こうして居場所を教えてあげればあっちから顔を出しに来るよ」
「ならいいんだが、お前煌炎を倒せるのか?」
「一人じゃあ〜、厳しいだろうけど悠斗がいれば何とかなるさ。今度は本気を見せてくれよ」
「ああ、任せてくれ」
 あの時は油断していたが二度と同じ失敗はしない。気を引き締めて数分ほど煌炎の到着を待っていると草木をかき分けてその姿を現した。
「また貴様か。罪なき者は帰れ。それが貴様の身の為だ」
「ふざけんな。俺はプライドを傷つけられんだ。お前のお面を剥がさないと気が済まねえよ」
 これはレイナ達をここに連れてこなかった理由の一つでもある。
 あの時のことを思い出しながら煌炎からもぎりとった服の切れ端を握りしめて、森の中へと捨てた。
「さあ、何処からでもかかってきな」
 いつもの愛剣を煌炎に向けて構える。それに続いて曜炎も二本の剣を手にとった。
「よかろう。曜炎が何を吹き込んだかは知らぬが、我にとってこのような小細工は通じん。二人ともかかってくるがいい」
 ようやく、白い刀を抜いて構えを取るその姿はまさしく侍のようである。
「いざ参る!」
 腹から出た野太い声と同時に放たれた斬撃はとても鋭くて重い。
 何とか大剣の腹で受け止めたが、勢いを押し殺せず、後ろに飛ばされる。
「くっうっ」
 足で地面をしっかりと踏みしめて耐えるが手が痺れてすぐに反撃ができない。
「そらガラ空き!」
 だが煌炎を追い続けてきた曜炎にはその攻撃の弱点を知っている。
 それは剣を振った後の脇腹。ここが完全に無防備になるので、それを事前に知っていた曜炎は待ってましたとばかりに脇腹を突きにかかる。
「ぬん!」
 気合の入った掛け声がすると煌炎の刀が曜炎の双剣を弾いていた。
「あり?」
「ふん。弱点を見つけただけで勝った気になるとは笑止千万。我は毎日、刀の訓練をしておるから弱点の克服などとうの昔に済んでおる」
 研ぎ澄ませれた闘気。どうやら積んできた経験値が違うようだ。
「おい、早速駄目だったじねーか。本当に倒せるのかこれ?」
「ん〜、こうなったら本気でいくしかないね。悠斗もそのつもりで挑んでくれ。後のことは考えなくていい」
「分かった!」
 剣を気で紫色に染めて煌炎に突っ込む。
「無駄な足掻きを」
 煌炎は腰を落として横に一閃。だが当たった感覚はなく、虚しく空を斬っただけ。代わりに剣の先に重みが感じられた。
「お返しだ白野郎」
 剣の先に立っていたのは悠斗。この前とは立場が逆転している。
「ぬぅ!」
 咄嗟とっさに刀から悠斗を引き剥がそうと自分の元へ引っ張ったが、剣が振り下ろされるのが早かった。
「スターゲイザーーーー!」
 確かな感触。だがまだ鈍い。
「ほほう。先日とはまるで違うな」
 良く見ると、ほんの少しだけだが煌炎の刀に亀裂が走っていた。
「ようやく希望が見えたな。今度はそのお面だぜ煌炎! お前の顔も潰れないようにしとけよ」
 ようやくスッキリした。だがこれだけでは終われない。
「惜しい……」
「は?」
 いつもとは違う小さい声で呟いた。
「貴様は騙されているのだ。俺が言うのなんだが、もう少し人を見る目を養った方が良かったな」
「オイオイ、刀が壊れそうになったからって悠斗を惑わないでくれるかな〜。ほら悠斗はどいててくれない。俺が止めを刺す」
 悠斗を片手で退けて前と出た曜炎の横顔は何かいつもと違う感じがした。まるで飢えた獣が肉を目にしたような、そんな危険な雰囲気。
 そして両者は何も口にしないまま、剣を己の色に染め上げ、燃やす。
 先に動いたのは曜炎。右手の剣に体重を乗せて悠斗が狙っていたお面に振り下ろすが、それは刀の柄で防いだ。そこでしか防げなかった。
 使い慣れた刀だからこそ一撃でも当たれば確実に折れてしまうと、分かっている。だがその躊躇ためらいこそがあだとなる。
 曜炎が左手に握った剣でその刀をいとも簡単に叩き折ったのだ。
 そして息を付かせる間も無く、曜炎はその場で回転して右手の剣で煌炎の腹部を切り裂いた。
 だが煌炎が吹き出したのは血ではなく、燦爛さんらんたる白い光。
 それが収まると煌炎は白い塊の化していた。
「ありがとよ。ようやく俺の、俺様の願いが叶うってもんだぜーーーーー!」
 叫んでいるのは曜炎ではなく、封印されていた黒竜。体中から黒い炎や霧を撒き散らす。
「これが俺の願いだ。もう一度この世を混乱におとしいれて嘲笑あざわらうんだよ」
 霧が収まると、曜炎も姿を変えていた。
 黒い六つの翼。禍々しい鱗。
 人間の形を保ってはいるが、それは竜と見間違えるほどの威厳をかもし出している。
「神に祈れ。終焉の時だ」
「残念だが俺は神を信じてないんでな。天使にでも祈るとするよ。お前が無事に地獄に行けるようにな」
 決して怖気たりはしない。
 一言、相手に嫌味も言って勝利を信じて戦う。そんな彼に終焉などはない。

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