人間不信様のハーレム世界

和銅修一

揺らぎ

「ん〜、ここは?」
 気を失っていた悠斗がふと目を覚ますとそこには見知らぬ天井があった。
 レイナがとった宿ではない。それよりも古びた所だ。なぜかベッドに寝かされている。
「よぉ、気がづいたかい。随分遅いお目覚めだね〜」
 陽気な声で語りかけてきたのは、黒い男だった。
 全身黒。簡単に言うと煌炎の真逆の存在。性格も固かった彼とは違うようだ。
「あんた誰だ。もしかして煌炎の仲間か?」
「あ〜、誤解しないでくれよ。確かにそう見えるかもしれね〜が、これにはちとワケがある」
「訳?」
「それに俺が倒れているあんたをここまで運んできてやったんだ感謝してほしいね」
「そ、それもそうだな。助かった。ありがとう。だがそれならお前は何者だ。なぜ俺を助けた?」
 この質問に男は笑ったが、悠斗からはお面が邪魔で見えなかった。
「良くぞ聞いてくれた。ここからが本題なんだよいいか俺たちはな……」
「参加者……だろ」
 彼が言うより悠斗が確信した答たを出す方が早かった。
「ほぉ、よく知ってな。どうして分かったんだ?」
「煌炎の白い炎だ。あれは魔力と何かが使われていたんだが、俺はその何かが参加者が持つ固有技の力なんじゃないのかって思ったんだ」
「なんでそう思う? 他にも可能性はいくらでもあったんじゃないか? 例えば新種のモンスターの力とか」
 どうやら彼もキングゴブラや事を知っているらしい。
「それはない。あいつからは魔力を感じられなかったんだ。人間としか考えられない。だからお前も人間。参加者だと分かったのはこの服の切れ端。これは参加者が防具を装着する前の服だからだ」
「なるほど、根性だけでなく頭もいいようだ。ますます気に入った。名前は何という?」
「榊  悠斗。一応、参加者ランキング一位だ」
「俺は曜炎ようえん。煌炎の弟だ。よろしく」



「主〜〜、何処じゃ〜〜」
 アリア達は悠斗を探して白い炎があがった所へ一足遅く来たが、そこには燃え尽きて灰と化した人がいるだけで静寂に包まれていた。
「こ、これは酷い……」
 アリアが遅くなったのは彼女がついてきたからだ。この白髪の天使が。
「じゃがそれはお主の教会に火を放った男の亡骸なきがらじゃろ。当然の報いを受けたまでと思えば良い」
 白い炎は罪ある者を焼き尽くす炎。ならばここ、白い炎があがった所で灰になったのはその犯人である可能性が非常に高く、そのアリアの予想通りに確かにそれはエルの教会を燃やした犯人であった。
「確かに罪を犯した者はそれを反省して償わなくてはいけませんが、命を絶てばいいというわけではありません。それに彼も神から命を授かった者です。ちゃんととむらってあげなくてはいけません」
 エルは手を合わせて祈る姿勢に入って、それからずっと、そのままの状態が続いた。
 長年生きてきたアリアでも彼女ような人には出会ったことがなかった。
「なるほど、確かに天使じゃな」
 彼女の誠実さは見習うべきかもしれないと思った。だって、悠斗が認めた人間だから。
「何か言いましたか?」
 祈りが終わったエルは顔をあげてアリアを見つめた。
「い、いや何でもない。それよりホグアは何処で何をしておるのじゃろうな〜」
 不意なことにアリアは動揺してしまい、腕を組んでエルから顔を逸らした。
「何って、アリアさんがここを調べるからと言って他を調べさせに言ったんじゃないんですか。もしかして覚えてないんですか?」
「あ、あ〜〜。そうじゃったな。うむ、そうじゃった」
 そこで話が止まってしまった。
 もう悠斗が居場所の手掛かりはない。それにホグアが空から探しているから、あとはホグアからでは見えない建物の中を探すしかないがこの街の建物を全部回るわけにはいかない。
「あの……アリアさん。一ついいですか?」
 悩んでいるとふとエルが話しかけてきた。この静けさに耐えられなかったのだろう。
「なんじゃ? 答えられる範囲のことなら聞くぞ」
 本音を言うといくら考えてもいい案が出そうにないので、彼女の話に耳を傾けることにした。
「アリアさんは何で榊さんと一緒にいるんですか? あの人は少し横暴ですよ」
「それは主が主だからじゃ。確かに横暴かもしれんがそれは誰かを助ける為で本当は心優しい男だと知っておる。だからそんな素直じゃない主を支える為について行くと決めたんじゃ」
 初めて会った時のことを思い出す。強引ながらもなぜかあの手を掴んだ。それは悠斗がアリアにとって絶対必要な存在となっから。今もそれは変わらない。
「榊さんはいい仲間に巡り会えたようですね」
 エルの心は揺れ始めていた。
 もう自分の居場所はなくなった。参加者だと勘違いしている他の人達は受け入れてはくれないだろう。
 しかし、悠斗の仲間になるにはエルが心に決めていた条件が一つ満たされていなかった。

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