人間不信様のハーレム世界

和銅修一

歓迎

「感謝するぞ。お主らのおかげでギランカの進行を退けられた。それにお嬢さん方には命まで助けてもらった。これは報酬を弾まねばの」
 髭を摩りながら機嫌良さそうに笑ってみせるが、本心は泣いているのだろう。
 自分が仲間、いや家族と思っていた教師に牙を向けられたのだ。ショックは計り知れないものに違いない。
 それにギランカとの戦いで死者も出た。 
 話によると生徒を庇った一人の教師が丸呑みにされたらしい。だから墓に埋めてやる体がない。
「そうだな。だけど俺たちが何ヶ月か生活できる程度でいいぞ。そっちも何かと大変だろ。あとあの部屋もかなり壊れちまったからな」
 クリスタル保管室。
 あれはあのクリスタルゴーレムを封印して暴れさせないためと、それに蓄えられた魔力の研究をする大切な場所だった。
「いいんじゃよ。戦って壊れたのなら仕方ないことじゃて」
「そうか。なら良かった。じゃあ早く報酬くれよ」
「なんじゃ、せっかちじゃの」
「そうじゃねーよ。参加者の俺がこれに関わってたとなると爺さんに迷惑がかかるだろ」
「ほっほ。本当に参加者にしておくには勿体無いの〜。わしの養子に欲しいくらいじゃて」
 今度は本当の笑いみ見せてくれた。
「それはお断りだね。魔法はあんまり好きじゃないんでな」
「それは残念じゃ。冗談ではなかったのじゃがの〜。ほれこれが報酬じゃ。役員共に見つからんようにするんじゃぞ」
 引き出しにしまわれていたズッシリと金貨が入った皮袋を悠斗に渡した。
「あんがとよ。じゃあな、またいつか寄ってやるからそれまで長生きしてらよ爺さん」
 四人は颯爽さっそうと学園長室を出て行ったが一人だけ残るものがいた。
「その目つき。どうやら決めたようじゃな。お主自身の道を」
「はい。ですから私を旅に出させてください。父も母もいないので学園長の許可が下りたら直ぐに出発します」
 その青い目は劣等生と呼ばれていた時とはまるで別のものだった。透き通って、真っ直ぐで、確固たる何かがそこにある。
「なるほど。似てきたの、お主の母親に」
 シグダリアの思いがけない一言にミノスは驚きを隠せなかった。
「学園長は母を知っているんですか⁉︎ なら本の些細なことでいいので教えてください」
 早くに母を亡くして何もしらないのだ。二つの杖を託されたけれどその時に何を言って託してくれたのかは憶えていない。
 だから少しでも母のことを知りたい。そうしたらその一言が思い出せるかもしれないから。
「ん〜、まあ簡単に言うとわしの教え子じゃよ。この学園に通っておった。その時はお主と同じで劣等生と呼ばれてよく泣いておったわ」
「え? でもこれを扱えるほど優秀じゃったんじゃ……」
「最初は誰も上手くはいかんものじゃて。だがそこで諦めはいかん。諦めない者は強い。お主の母はそれを証明するように何度失敗しても諦めず、その二つ杖を使い続けていつしか彼女は劣等生とは呼ばれなくなっておった。その杖を扱えるようになったんじゃ」
「す、凄い……。私もそんな風になれるでしょうか?」
 あまりにも凄すぎて追いつけるかどうか不安になってギュッと強く杖を抱えた。
「できるとも。お主は母親によく似たとても純粋な目をしておるから大丈夫じゃ。わしが保証しよう。だから安心して旅立ちなさい。置いていかれる前に」
「は、はい」
 綺麗なお辞儀をしてミノスは元気良く飛び出して行った。



 ミノスはできるだけ速く走った。体育は大の苦手だがとにかく走った。
 悠斗に場所は聞いている。この都市の裏門だ。ビビットを探している時に強制ではないからついてきたくなったらそこに来てくれと言われた。
 答えは今の通りだ。
「はぁ……はぁ……ま、待ってくださ〜い。私も乗せてって!」
 息を切らしながらも老いたドラゴンにまたがった見知った四人に向かって大声を張り上げた。
「遅いぜミノス。だが俺たちはお前を歓迎する。だが俺たちの旅には危険がいっぱいだそれでも待てと言うか?」
 それはミノスにとって簡単すぎる問いだった。
「はい!」
 とびっきりの笑顔と声で答えてみせた。
「いい返事だ」
 差し伸ばされた手に掴まる。
 とても温かい。久しぶりに人の温もりを感じられた。
 そしてこれから始まる旅に胸踊らせながらドラゴンに飛び乗った。

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