人間不信様のハーレム世界

和銅修一

走馬灯

「久しぶりだなこの学園も」
 新築されて形は少し変わっているが、これはタリエスが青春時代を過ごしたイシリア学園そのもの。雰囲気などは何も変わってはいない。
 早速、学園長室へと向かうことにした。外見は変わっていたが内部のつくりは昔のままだったので迷うことはない。
 そして何年かぶりに大きな扉を開けた。
「ようこそ。久しぶりだねタリエスくん」
 またも運命のいたずら。学園長の椅子に座っているのは今もなお伝説を作り続けているシグダリア本人。
「なんでこんなところに?」
 自分はすることがなくなって、教師の申しを受けた。なのにまた彼の目の前に立っている。追い続けてきた彼の前に。
「なんでって僕が学園長だからさ」
「そんなに若いのに?」
 若いと言っても自分と同じで三十もいってない。そんな彼が自分が学園長だと名乗ったのだ。驚きを隠せないと同時に劣等感を感じる。
「前から頼まれてはいたんだけどやることがあって断っていたんだけど、最近その仕事が終わったから受けたんだ」
 軽い感じで言うが、学園長になるには相当な苦労がいる。まひてやここは魔法都市で一番大きな学園。普通の人なら教師になることでも難しいだろう。
 やはり英雄は優遇されるらしい。
「いつ学園長に?」
「今日からさ。だから君と一緒だねタリエスくん」
 一緒とはまた変なことを言う。学園長と教師。どこが一緒なのだろうか。差が大きすぎる。
 これからシグダリアの学園長としての毎日が始まって、タリエスの努力の日々も始まった。



 シグダリアが学園長となってから六年。たまに緊急の仕事で何処かへ行くことはあるが、他の教師や親御さん彼を認めつつあった。
 だがタリエスも負けてはいられない。今までの積み重ねでようやく副学園長となれた。
 シグダリアも一緒になって喜んでくれた。
 そして満足した。シグダリアに勝てないことは身にしみている。学園長の座は動かない。
 ここが自分の最高点。いつまでもこの素晴らしい学園の副学園長でありたいと思った。
 だけどタリエスは気づいていなかった。これは充実しているわけでもなく、幸せであるということでもない。ただ限界を決めつけて妥協しているということに。



 タリエスが副学園長となって何十年もの月日が流れて、ある教師が入ってきた。
 名前はケリア。最初見た時はとても貧弱な体をしていて心配に思ったが、その心配は別のものとなった。
 彼が教師となって数年するとある噂が流れ始めた。ケリア先生は教師の中で一番強いと。
 それを確認すべく、タリエスは彼の実力わ図るためにドラゴン討伐のクエストを一人でやるように仕向けた。どうせ無理ならすぐに帰ってくる。
 そう思って三日ほど待っているとクエスト報酬の“竜の鱗”を手にして帰ってきた。タリエスでも一人でドラゴンを倒したことはないというのに。
 天才。またもや同じ感覚にとらわれた。何をやっても勝てないあの屈辱。
 そして噂は肥大化して行く。ケリアが次の学園長になるのではないかと。
 確かにもういつ死んでもおかしくはない歳になってきている。それに彼の実績は申し分ない。
 だがそれだけは嫌だった。自分だけでなくもはや尊敬している学園長があんな若造に後れを取るなんて。
 なんとかしようと思って行きついた先はクリスタルの保管室。学園長が何度か緊急の依頼のどれかの時に持ち帰ってきたもので、とても大事にされている。
「何かに使えないかこの石」
 そして本部にハーメルンの笛があることを思い出してこの計画が作られた。
 クリスタルの情報とハーメルンの笛を交換して、ビビットを召喚獣にして中継役にして笛でギランカたちをこの都市におびき寄せて今に至る。
 これがこの騒動の発端であるタリエスの人生。
 それは計画の結果を見ることなく終わりを告げられた。壮絶な戦いもなく、後ろから不意打ちされて終わってしまった。
 ただ彼は幸せを、充実を求めていただけなのにある男の意向で閉ざされた。

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