人間不信様のハーレム世界

和銅修一

ミノス・パリエッセ

「な、な、なんで私なんですか!」
 学園のみんなが話していた噂が気になって、様子を見に来てみれば見知らぬ大剣をもった男性に勧誘された。
「その杖かなり才能がなけりゃあ持てない代物だ。持てる奴は上級の魔道士くらいだ。学園長もそれくらい知ってるでしょ」
「ん、おお。確かにそうじゃ。それは悪用されんように一種の結界が貼られておって純粋な心と大量の魔力が体内に備わっておらんと持つことすらかなわん」
 ゲーム内ではレベルが一定以上上がっていないと使えない武器となっていた。やはりゲームの似ているところもある。この世界を元として作られたのだから当たり前なのだが。
「そ、そんな凄い杖なんですかこれ」 
「なんだ持ってる当人がそんなことも知らないのかよ」
「ぷ、ぷ、ぷ。馬鹿っすね〜」
 ホグアは思わず、口を押さえて笑ってしまう。
「いや、お前にはぜってー言われたくねーよ」
「あ……あの。その人が言う通りで私は馬鹿でこの杖もろくに扱えていませんし、この学園では劣等生と呼ばれています。そんな私を仲間にするよりもっと優秀な魔道士を探した方が」
「何自分を卑下してんだよ。学園長が言ってたろ。それを持てるってことはお前は純粋な心をしてるってことだ。俺はそんな魔道士が欲しいんだ」
 初めて。初めて褒められた。先生にも誰にも褒められたことがないのに、この初めて会った知らない男性に初めて褒められた。
 ミノスにとってそれはとても貴重な体験でなぜか頬が赤くなっているに気づいた。
 これもこの人のせいだろか。
 頬に触れてその温かさを直に味わう。
「む〜、おい眼鏡っ娘! あまり主を見つめ続けるんじゃない。ムカムカして気に入らんのだ」
「す、すいません。そんなつもりはなかったんですけど」
「本当に……本当に彼女がいいのか」
「本当だ。彼女じゃないと俺は手を貸さなねーぞ」
 もはや脅しに近かった。
 学園長は参加者である悠斗の力を欲しているからそれはとても困ることだった。
「そうか……ならせめて彼女の意見を尊重してくれないか? わしはそれで構わんが、最終的に決めるのは彼女じゃ」
「人権ってやつか。この世界にもあったんだなそんなの。まあ、一理あるがな」
 スタスタと二つの杖を持つ彼女の元へと歩みを進める。
「お前、名前は?」
「ミ、ミノスです。ミノス・パリエッセです」
「そうか。いい名前だな。俺は榊  悠斗だ。ミノス俺の仲間にならないか」
 ミノスは下を見る。
「お言葉はありがたいです。けど、私は何も出来ない駄目な奴なんですよ。そんな魔道士を仲間にしたくないでょ」
 そう言って彼女は笑ってみせた。だがその笑いは苦笑い。本当の笑いではない。
「また自分を卑下してるな。そんなんだから駄目なんだよ!」
「す、すいません……」
「俺は怒ってるわけじゃねー。俺はただお前に自分を誇ってほしいんだ。信じてやれよ自分を。でないと前に進めないぞ」
 前に進めない。
 私は今、立ち止まっているのだろうか。自分で強大な壁を作り上げてそれを見上げているだけなのだろうか。
「お前はできる。それを俺が証明してやるよ」
 壁を突き抜けて、一本の腕が伸びてきた。その手は広がっていて彼女の一歩を待っていた。 
 背中を押したのは光り輝き温かく懐かしい人だった。
「お母……さん?」
 光は答えることなく消えていく。だけどそれでよかった。この一歩をくれたのだから。
「よ、よろしくお願いします悠斗さん」
 手を握った。そして壁は崩れ、崩壊して一欠片も微塵も残らず消え去った。



「さて、俺たちの問題は解決したし、これからはこの都市の問題をどうにかしようか」
 立っているのは流石に辛いだろうということで悠斗たちはソファに座っている。
 もちろん目の前には学園長シグダリアが座っている。ここからは各代表者の二人の話し合いとなる。
「とは、言っても。戦力的に不利じゃぞ。この都市には魔道士ばかりでギランカと戦うとなると相当苦労するぞい」
 魔力を食べるモンスター。その大群を倒すにはここの都市全ての魔道士を戦わせても不可能に近い。
「なら戦わなければいい。深追いせずに攻撃して危険だと思えば後退すればいいさ」
「それは時間稼ぎか?それならば無理があろうて。言ったじゃろ、ここから応援を要請するには都市同士が離れすぎておると。それでは一週間持つかどうかという瀬戸際じゃぞ」
「一週間か……。十分な時間だな」
「十分?いったい何が十分なのじゃ」
「真犯人を捕まえるまでの時間だよ」
「真犯人じゃと? それはどういう意味じゃ」
「ギランカはあまり賢くないモンスターだ。ただ魔力を求めてフラフラと動くモンスターだ。そんなモンスターが自ら集団となってこの都市を襲ってくると思うか? 学園長が言うにはこの都市の魔力はいつも通りで急に上昇したとかはないんだろ」
「うむ。それは何度も確認した」
「なら答えは一つだ。このギランカたちは何かに操られてる」
「操られておるじゃと……」
「上級モンスターか、それ以外の何かか。まだ詳しいことはわからないがこのギランカの集団行動はその真犯人の仕業だ。俺はそいつを探してみる。心当たりは少しだけあるからな」
 ふと、悠斗は笑った。
 ゲームの時と似ていたのだ。思考を巡させて戦略を編んで敵の不意をつく。彼は楽しくて仕方ないのだ。
 久しぶりに血が騒ぐというやつだ。笑わずにはいられない。

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