人間不信様のハーレム世界

和銅修一

感謝

「く、くそぉ憶えてろよ」
 長を失ったメンバーたちは自分たちのリーダーが入った氷を何人かで持って逃げて行った。
「もう二度と顔見せるなよ〜」
 悠斗は彼らにそう言い伝えたが聞こえたかどうかは定かではない。
「一旦、拠点に戻りましょ」
 戦いでメンバーの幾人いくにんかは怪我をしている。特に会合参加者の中の二人重症だ。
 彼らはギルドメンバーの下っ端に運ばせて軽傷の者は拠点で回復系の魔法を使える魔道士に治してもらう。



「みんなの頑張りのおかげで勝てることができたわ。ありがどう」
 マスターがギルドのメンバーに労いの言葉をかける。
 その時には会合参加者で重症を負っていた二人の男の傷は治っていた。
 それまで待っていたのだ。大勢の方がいいだろうという美鈴の考えだったが悠斗にとっては最悪だ。
「ではバイオレンスキャッツの撃退成功を祝ってかんぱ〜〜〜い」
 下の階にある店を貸し切って、宴が始まった。
 丸い机の上には山盛りの料理が並べられていた。それに酒。
 久しぶりに飲むそれを味わいながらふとあることを考えた。
「なぁ、美鈴。あのフローズン…フェアリーていう技はどういうやつなんだ」
 アリアは優雅に食べ、レイナは皿を持ちながらどうしたら良いかわからずオロオロしている。
 そんな平和な光景を見ながら美鈴の隣に行きガイザを破った技の概要がいようを聞く。
「あれは私の、というよりこの武器の固有技よ」
 腰の後ろにある双剣を叩く。
「そしてあれは3日に一回しかできない私の切り札よ。あの妖精に触れて氷漬けにされた人は一定期間活動休止になるわ。あの調子ならかなり時間が稼げるはずよ」
「もう出て来て欲しくないんだけどな」
「それは私もよ。でもこういう能力なんだから文句言わないで」
「すまん、すまん。別に文句行ってるわけじゃない。少し確かめたかったんだ」
 そう言い残すと悠斗はレイナの元へと行ってしまった。
「悠斗くんをギルドに誘わなくていいの」
「シュエルさん……」
 一人残った美鈴にグラスを持ったシュエルが後ろからおとしやかに話しかけてきた。
「あれは前話した通り、病気なんですよ。人が信じられなくなる病気です。今もまだ治ってないみたいですし、私は治るのを待ってそれから誘いますよ」
「あらそんなのじゃあ誰かに取られちゃうわよ」
 妖艶に、何か見透かしたように笑う。
 「べ、別にそういう意味で欲しいっていうことじゃなくて戦力として……そう戦力として欲しいのよ。私はどっちでもいいんだけど」
 ぷいっと向いた先にはレイナと楽しそうに話している悠斗がいた。
「やっぱり人間の私じゃあ駄目なの……」
 美鈴の本音は周りの賑やかな声にかき消されて誰にも聞こえることはなかった。



「レイナ、アリア。そろそろ出るぞ」
 一時間ほどして悠斗は二人にそう言った。
「なぜだ主、料理はまだ沢山残っておるぞ。食べねば損ではないか」
 コネクトをして疲れたのかモリモリと食べていて何皿かが空になっていた。
「それだけ食ったらもう十分だろ。俺はもうお腹いっぱいだ。ここを出るぞ」
 早く出たかった。この人が多い空間から。
「アリアさん、悠斗様がこうおっしゃっているんです。ここで御暇おいとましましょう」
「む〜、まあ主の命令なら致し方ない」
 二人に了解を得たところでゆっくりと、音を立てないように扉を開けて出て行った。
 外は真っ暗で周りの明かりを頼りにしないと進めないほどになっていた。
「ちょ、ちょっと待ってくださーーーーい」
 そんな中、追いかけてきた人物が一人。
 会合の参加者で、唯一グラドスにおくさなかった男だ。
「どうした何か用?」
「あの、お礼を言おうと思いまして」
「お礼?」
「はい。あの時は本当にありがとうございました。おかげでこうして生きていられます」
 確かに大袈裟な言い回しではない。実際にここでは死ぬ。
 ゲームでは復活するがここではそうはいかない。
 この青年があの時のグラドスの攻撃が当たったら死んでいただろう。
「そうか、だが俺たちは急いでる。礼なら今度にしてくれ」
「はい。ではまた何処かで」
 それだけ言い残して、一礼し拠点のある方向へと走って行った。
 彼の態度で感謝の気持ちは胸いっぱいに伝わった気がする。
「感謝……か」
「主は照れ屋さんじゃな」
「悠斗様おめでとうございます」
「う、うるせー」
 悠斗は久しぶりの感謝を味わいながら、二人の相棒にからかわれながら夜の闇へと消えていった。

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