人間不信様のハーレム世界

和銅修一

不穏な空気

「主よ。一体どこへ向かうのだ?」
 ついさっき仲間となり、小さな指輪をはめたアリアは悠斗を主と呼び目を輝かせていた。
「そうだな…。まずできるだけ情報が欲しいし、参加者が多くいる街に行くか」
「それならあの街にしましょう。あそこは貿易が盛んなので人が多いですし、大きな建物もあります」
 確かにレイナが指す方向にはビルのような大きな建物がたくさんある。
「じゃあここにするか」
 門は何事をなく通過できた。つまりここではEVENTイベントがないということだ。
 少しほっとしながら賑やかな街の中へと溶け込む三人だったが奥にある古いビル市街から漂う不穏な空気に気づかなかった。


 悠斗達が入ったこの街の中央には掲示板がある。
 政府が貼った報告書やモンスター討伐の依頼など様々のものがあり、悠斗の目的は参加者同士が集う為の会合募集のチラシ。
 そこに日時と場所が書かれている。このチラシによるとまだ時間かなりの余裕があった。
「主、そもそも本当に神になる気があるのか? 目的とかは無いのじゃろ」
「まあ、最初はそうだったけどこの世界を見てお前たちみたいに悲しむ奴を助ける為に神になりたいと思ったんだ」
「悠斗様、立派です!」
「まぁ、我が主としては合格じゃな」
 二人ともよくわからないが、ニヤニヤしている。
 とにかく宿を探そう。流石にこう都会だと野宿する場所もない。



 宿は思いのほかすぐ見つかった。あれだけ人が多かったから諦めかけていたが運が良かった。
 しかし、会合には時間がありすぎるので留守番としてレイナを残して二人は街の様子を見に行った。
「主、なんでその剣を置いてこなかったのだ? 邪魔ではないのか」
「ここらに敵がいるかもしれないし、これは剣士の誇りだからな」
「あの城もその剣が壊してしまったしの」
 洞窟の中でボロボロになった城を思い出す。片付けるのも無理なので放って来たが、そのうち邪魔になるだろう。
「いや、確かにこの剣のおかげでもあるが俺の固有技がなくては壊せなかったよ」
「固有技? 固有技とは何だ主よ」
 興味津々でキラキラしている目で悠斗を見つめ、グイッと近づく。その際にアリアの胸があたり、一瞬ドキッとした。
「ひ、必殺技みたいなもんだ。ゲームでも同じものがあったからここでも使えるってレイアが教えてくれた」
 このことは悠斗にとって朗報だった。逆になかったら剣を振り回して戦うしかない。それはかなりみっともない。
「ふうむ、では魔法とやらも使えるのか?」
「また、簡単なやつだけな」
 魔法は空気中のように存在する魔力を剣を扱った時のようにイメージをすればできる。この世界の人たちはこれを利用して、快適な生活を送っている。ゲーム内の設定もそうだったように。
 しかし、なぜ空気中に魔力があるのかはレイナでも知らないそうだ。
 ちなみにレイナは魔法を使わない。機械だから、イメージが苦手なのだ。ただ最先端の武器を持っているのでそこらの魔道士よりも強い。
 なので、魔法の方はアリアの方が素質があると思われる。
 永年、城に引きこもっていたアリアに悠斗は聞いた情報を教えながら街を歩いていると見覚えのある人影が路地裏に入るを見た。
「あ…あいつ」
 慌てて追いかけたが振り切られてしまい、気がつくと廃墟ビルが建ち並ぶエリアに来てしまった。
「主、そんなに急いでどうしたのだ?」
「ここに来る前の知り合いを見かけてな。まあ、この世界に来てるならまた会えるだろ。それよりもうそろそろ約束の時間だから帰るぞ」
 来た道を引き返そうすると、巨大なハンマーを持ったの筋肉質の男と弓矢を持った栗色で長髪の女性が道をふさいできた。
「おいお前ら!何俺たちのボスつけんてんだぁ〜⁉︎まさかあれか?追っかけっぇ〜てやつか?それにしては随分物騒なもの持ってんな」
 顎髭あごひげが目立つ男はグイグイと変な口調で近づいて来て、悠斗の装備をジロジロと眺める。
「おい、貴様。主にそれ以上近づくではない」
 目障りに思ったアリアは鋭利な爪をその男の首に前まで近づけさせ、脅しに入るが顔色は一切変わらない。
「ん〜?おいあま、これは宣戦布告と思っちゃたりしていいのか?俺はその方がいいぜ。まどろっこしいのはきれぇいだしな」
 男は巨大ハンマーを担ぎ上げると、首を傾げて骨を鳴らして戦う気満々になる。
「思い出したぞ。お前はランキング十四位のグラドビそして後ろで弓矢持ってるのはランキング十位のリラーノだな。何回か見たことあるから覚えてるぞ」
 そう、彼らもこの世界に選ばれた参加者。しかもかなり上位の方だ。ちなみに名前は本名でなく、プレイヤーネーム。この世界ではそれを使っている人が多いかもしれない。その方が現実を忘れられるから。
「ほほう、俺様の名前を知ってるとはお前なかなかセェンスがあるぜ」
「いや、お前はそのうざい口調で有名だから覚えてただけだ。センスの問題とかじゃねえよ」
 グラドビはチャットでもこんな感じだったので、嫌われたり、陰口を叩かれるのが多かった。それを本人が知ってるかどうかは知らないが……。
「うざい……俺がうぜえ〜だと?決めた、お前ペシャンコにすっぞ!!」
 鍛え抜かれたゴリゴリの筋肉で大きく振り上げられたそれは振り下ろされると同時に地面を揺らす。リラーノも弓矢で援護射撃を始めた。
 しかし、それらは当たることなく空を切る。
 気づくとアリアの姿は消え、少し離れた距離に金髪の男が立っていた。
 彼は赤いコートを着ていて、目の色もそれと同じ。何処かの王だと言われても納得してしまいそうな容姿の人物だ。
「これがコネクトか。初めて使ったが、なんか変な感じだな」
 この姿はリンクリングを使い、悠斗×アリアとなった状態でこれでアリアのヴァンパイアとしての力が何倍にも膨れ上がる。
 姿は悠斗を基準として、ヴァンパイアであるアリアを合成したので変わったのは服装と、髪の目の色、そして鋭い爪と牙が生えている。
「まさか既にコネクトを習得したのか…」
 グラドビ、リラーノはもうコネクトを知っているらしく、驚いた顔つきになる。
「習得というより獲得だな。まあ、お前たちにはボスのことを聞かせてもらうぞ」
 悠斗は新しい体にまだ馴染めないでいたが、背中の剣を引き抜き戦闘準備を整えた。

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