転生屋の珍客共〜最強の吸血鬼が死に場所を求めて異世界にて働きます〜

和銅修一

第80話 激突

 ミーミルの泉へと向かう最中、あれだけ騒々しかった魔界が静寂に包まれていた。
 何事かと辺りを見回すとあちこちに破壊の跡が見られる。どうやら蠅の王に挑戦した者たちが派手に返り討ちにあったのだろう。
「しかし、魔界をこの有様にするとは……奴は自分の故郷を何とも思っていないのか」
「悪魔なんてそんなもんだ。他人を蹴落として自分の幸せを掴み取るなんて当たり前。まあ、俺様のご主人様は別だがよ」
 それは付き合いの短い俺でも知っている。あのベルがこんな惨事を引き起こすわけがない。
 蠅の王に体を乗っ取られているのだ。早く元のベルに戻さなくては取り返しのつかないことになる。
 なので一人と一匹は蠅の王がいるであろうミーミルの泉へと足を進めているのだが、ルインが連れられて到達したのは禍々しい洞窟の入り口だった。
「この中にミーミルの泉が?」
「ああ、天使たちは魔界の地下深くに眠るコアを狙ってた。コアを壊せばわざわざ俺様たちと戦わなくても世界ごと消滅させれるからな。けど、何とか凌いでその時のいざこざで天界の一部がこっちに転移したらしい。俺様はその場にいなかったから詳しくは知らないがな」
「確かに蠅の王の気配がこの洞窟内からするな。泉に着く前よりに分離をさせないとな」
 ビュートの予想では泉に必要な代償はベルの肉体を使用しようとしている。その前に事を成さなければ俺たちの負けといえよう。
「それなら道案内は俺様に任せな。泉への近道を教えてやんよ」
「詳しくは知らないんじゃなかったのか?」
「それはその戦争のことだ。この洞窟なら何度か来たことあるぜ。結局、泉に願い事をすることはなかったがな」
「ふん。それはお前らしい。天使も蠅に願い事をされても願い下げだろうが」
「言ってくれるな。だがその通りだ。ミーミルの泉は元は天界の代物で実際に願い事が叶ったっていう話は聞かねえ。魔界の環境が原因だとか悪魔が邪な存在だからとかで泉が正常に機能してないんだと。だからこの辺には誰も寄り付かねえ」
 戦の跡ということもあり、この周囲には良くないものが蓄積されている。ずっとここにいてはその良くないものが襲ってくるだろう。
「では案内は頼んだ」
 この蠅に頼るのは癪だが今は贅沢は言ってられない。ビュートの案内で洞窟の奥へと進んで行き、蠅の王よりも先にミーミルの泉へと到達した。
「これは異様だな……」
 禍々しい洞窟の中に神々しい泉がぽつんとあった。想像していたよりも小さく、これが天界のもので願い事を叶える力があると言われてもとても信じられない。
 だがそれを頼りに訪れる悪魔もいる。
「さて、お出ましだな」
 蠅の王はゆっくりと現れ、ビュートを一瞥した。
「ようやく会えたな俺様。今すぐ謝って戻るってんなら許してやらんこともないぜ」
 説得を試みるがそれを受け入れるような悪魔ではなく、首を振る。
「私はサタンと決着をつける。それまでは消えられない」
「半身の癖に生意気言いやがって。その体は譲れねえんだ。さっさと戻って来やがれ」
 ビュートは青色の玉となって蠅の王の肉体へ接触するがすぐに弾き出されてしまう。
「どうした? 分離が失敗したのか?」
「まあ……な。どうやら予想よりも遥かに相性が良いらしくてこのままだと俺様の力だと無理だ。弱っている状態ならまだしも万全の状態はな」
「そうなると俺の出番か」
 ベルの姿ということもあって戦いにくい相手ではあるが文句は言ってられない。この悪魔に現実を突きつけてやろう。

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