転生屋の珍客共〜最強の吸血鬼が死に場所を求めて異世界にて働きます〜

和銅修一

第71話 予兆

 砦から帝都へと戻るとリルフィーが鬼の形相で迎え入れてくれた。
「どうして連れて来てるのよ。倒す予定じゃなかったの?」
「色々とあってその予定は取り消した。まあ、詳しい話は転生屋に戻ってからするとしてこいつは無害だ。それは俺が保証しよう。しかし、この状況はどうなっている」
 帝都の外はゴーレムの成れの果てで埋め尽くされている。懸命に戦った騎士の亡骸もあり、凄まじい戦場の後だというのは分かるが。
「私が知るわけないでしょ。ずっと奥の方で隠れてたんだから」
「残念ながら私も分かりません。あの歪な魂を抜き取っていたら全てのゴーレムが急に動かなくなって……」
 前線で戦っていたアズリエでさえ知らないとなると後はあの騎士団長しかいないと思った途端、まるでその意図を察したかのように現れこの状況を説明した。
「きっと操っている憎っくき魔女が討ち取られたのでしょうな。流石は漆黒の魔女とその方が認めた軍師殿だ」
「無事だったか騎士団長」
 俺はアルチナとは戦ってはいないが面倒なので細かいところを指摘したりはしない。
「ええ、軍師殿のおかげです。では事後処理がありますのでここで」
 とそれだけ言い残すとローランは嵐のように去って行った。本当に変わった奴だ。
「そうか。メディアは勝ったのか。となるとこの世界にいる必要はなくなったな」
「ちょっと本気? ネクロマンサーを迎え入れるなんて」
「普通に奴らを探しても尻尾を掴めん。なら手元に奴らと同じ力を持つ者を置いておいて餌とした方が手取り早い」
 話を聞く限りだとネクロマンサーの情報はいまだにほとんど掴めていないようだし、ここはこいつに賭けてみるのも良いかもしれない。
「餌ってはぐれなんかの為にわざわざ危険を冒すとは思えないけど」
「かもしれないな。それでも同じネクロマンサーとしての意見を聞けるだろう」
「それはそうかもだけどリスクが大きすぎるわよ。店長としてそれは見過ごせないわ」
「ならこいつがネクロマンサーとして力が封印されたら許してくれるか?」
「封印ってあんたそんなこともできるの?」
「まあ、封印というよりも枷に近いな。ほら手を出してくれ」
 ルインは指先を切りつけて彼女の指に血を垂らすとそれは凝固して指輪の形となった。
「血の指輪?」
「そうだ。これはあらゆる異能に反応する仕組みとなっている。まあ、使った場合どうなるかは言わずもがなだが」
 これでネクロマンサーとして能力は使えない。能力を使えない彼女は無力な少女にすぎないのだから転生屋に招いても問題はないだろう。
「し、師匠が言うなら私は賛成ですけど……」
「うん。僕も賛成だな」
 アズリエに賛同したのは転生屋の責任者であり、神でもあるバルドル。神出鬼没とはまさにこのこと。
 もはや慣れてしまい驚きもしない。
「バルドルか。お前も反対すると思ったが」
「いやいや、僕もネクロマンサーについての情報は是が非でも欲しいからね。確かにリスクもあるけど僕は一刻でも早く彼らを消したいんだよ」
 あの剽軽なバルドルが消したい存在とはどうやらネクロマンサーとは俺が思っている以上に危険な存在のようだ。
 しかし、責任者から直々に了承を得たとうことは彼女がこれから転生屋にいることを許されたということ。
「良かったな。え〜と、そういえば名前を聞いてなかったな」
「ネルです。ネクロマンサーのネル。じゃあ、この指輪は大事にするね」
 笑顔で微笑む彼女はとても死霊を操る者には思えなかった。



***



 ルイン一行が問題を解決させたと同時刻、とある世界のとある男が自分の部下からの報告を受けてほくそ笑んでいた。
「また何か情報が入ったのか?」
 隣にいた血の匂いがこびりついた紳士は視線をそちらに向けないまま質問されると男は無邪気な子供のように答える。
「うん。自然と笑みが溢れてしまうほどの朗報だ。僕らが求めていたものが遂に動き始めたんだよ。しかもこれからは簡単に情報が手に入る。何たって彼らは愚かにも僕の死霊を仲間にしたんだからね」
「ほう、前に話していたあれか。しかし、あいつは随分と甘くなったもんだ。昔はもっと鋭い刃物みたいだったのに」
「やっぱり自分の弟子が心配かい?」
「とうの昔に縁を切ってる奴の心配なんてするか。それよりもお前は他の野郎たちを動かしてさっさと俺たちの野望を進めてくれ」
「ああ、分かっているよ。カレイド・ノスフェラトゥーグ・カインくん」
 この一人と一匹の化け物こそが裏で世界を掻き回している張本人でまさか手を組んでいたとは誰も知る由もなかった。

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