転生屋の珍客共〜最強の吸血鬼が死に場所を求めて異世界にて働きます〜

和銅修一

第1話 死にたがりの吸血鬼

 転生。
  それは救いである。
  現状を望まない者はいくらでもいる。そしてその現状がどうにもならない時、それは転生の出番である。
  熟考し、そうした答えを導き出した者がまた一人。彼は藁にもすがる思いで転生屋へと訪れた。
 「ようこそ、安心と実績のある転生屋へ」
  満面の笑みで迎え入れてくれたのは桃色の髪と紫色の瞳が特徴的な少女、男はそれを一瞥してその後ろにある奇妙な建物を見上げた。
 「本当にあったのか。奴の世迷言ごとではなかったのだな」
 「あ、あれ? その感じだとよく分からずに来ちゃった感じ?」
 「いいや、少しは聞いている。望んだ世界に望んだ生活が送れるよう転生させる所だろう?」
 「うん。本当は招待状がないとここには来れないはずなんだけど一体何者?」
 「それを教えないと転生をしては貰えないのか?」
 「え〜と、実は招待状なしに関係者以外の人がここに来るのは初めてだからどうしたらいいのか……あ、ごめんね」
  小型の端末をポケットから取り出し、数分で会話を済ませると少女は再び男の前へと戻って来た。
 「転生希望者だよね。いいって上からの許可がきたよ。それではこちらへ」
  案内されるがままに進んで行くと殺風景な小部屋とたどり着いた。
 「ああ、よろしく頼む。できるものならな」
  意味深な言葉に訝しむ少女であったが、転生屋としての仕事を全うする為に動き出した。
 「それでは準備はできました。上からは早急に対処しろってことだからすぐに取り掛かるけど何か要望はある?」
 「要望……か。特にはないな」
 「そう、じゃあ一応説明するけど転生はーー」
 「不要だ。それよりも試してみてくれ」
 「はぁ、まあ貴方がそう言うなら」
  と渋々転生を開始する少女。
  その手に握られているのは特殊な装飾が施された短剣。それを思いっきり彼の心臓へ深々と突き刺した。
  穴から大量の血が滴り落ち、床は赤色に染まっていたが男は刺される前と変わらない態度で、鷹揚と口を開いた。
 「やはり死ねなかったか」
 「そんな……フラガラッハが発動しなかった?」
 「いや、これは俺の見解だが発動しなかったのではなく発動できなかったのではないか」
  素人の発言ではあったがそれはまとをいたもので実際にフラガラッハは刺し殺した者を転生させる短剣で、刺し殺せなかったから今に至る。
 「でもちゃんと心臓に刺したはず……ていうか何で生きてるわけ⁉︎」
 「俺は不死身の吸血鬼、カレイド・ノスフェラトゥーグ・ルイン。死を超越した存在だ。ここならと思って来てみたがやはり駄目だったか」
 「何で吸血鬼がここに?」
 「先ほどから質問ばかりだな。だが転生を試みてくれた恩がある。答えよう。俺はここに死にに来たのだ」
 「死にに……」
 「そうだ。俺はこの身体のおかげで永らく生き続けてきたがそれにはもう飽きた。この境遇を羨む者いるがもう限界なのだ。親しくなった者はたった百年ほど死ぬこんな世界で虚しく生きるなど」
  不老不死を望む人間はいるがその苦しみ者はいない。死が救いになるということもあるのだ。
 「だからここに。でも残念だけど不死身の吸血鬼を殺せるものなんてここにはないわ」
 「貴様の上司ならどうだ?」
 「ええと、でもーー」
  まるで二人の会話を聞いていたかのように端末が鳴り出した。すぐに端末を取り出して上司と会話する。
 「どうだ? 俺が来ているのを知っているなら何かしらの対策は立てていたか」
 「それが直接話したいって」
  端末を渡され、耳を当てると若い男の飄々とした声が聞こえた。
 「やあやあ、カレイド・ノスフェラトゥーグ・ルインくん。端末越しではあるけど君と会えたことを光栄に思うよ」
 「光栄か。貴様が言っても薄っぺらい嘘にしか聞こえないな。俺をここへ導いたのも貴様だろう」
 「正解。けどこれは君の為でもあるんだ」
 「俺の為?」
 「そう。無論、転生屋の為でもあるけれどね」
 「利用しようってか。余程、人手不足とみえるな」 
 「いやいや、君は保険だよ。何せこれかれ珍客が増えるから彼女たちではと思ってね」
 「まさか手伝えと言うのか。この俺に」
 「そのまさかさ。でも悪い話じゃないはずだ。協力をすることで多くの者と関わることになり、その中には君を殺せる者がいるかもしれない」
  この男の言うことは一理ある。
  不死身の存在がいるのならそれを滅す存在がいたとしても何ら不思議ではない。
 「なるほど。時間は売るほどあることだし、貴様の口車に乗せられるとしようか神よ」
 「ほほう、僕の正体を見破るなんて流石だね。もしかしてこうなると分かっていて来たのかい」
 「それは買い被り過ぎだ。それともう貴様とこうして話すことはないだろう」
  そこで端末の電源を切る吸血鬼。
  少女はそれを見てゆっくりと近づいてきた。
 「え〜と、どうなったの?」
 「これからここで働くことになった。これからよろしく頼むぞ」
 「はぁ⁉︎ そう……じゃあ、あんたにはビシビシいくから覚悟しなさい。私はこの安心と安全と実績の転生屋の店主、リルフィーよ」
  唐突に態度が変わったのと最初のお店紹介と多少違っていたのに戸惑ったが吸血鬼は握手を交わした。
 「うむ。俺の名はカレイド・ノスフェラトゥーグ・ルインだ。ルインと呼んでくれ」
  こうして珍客は店員となった。
  しかし、この吸血鬼はこれから様々な珍客と出会うことになろうとは思ってもみなかった。

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