奴ら(許嫁+幼馴染諸々)が我が家に引っ越してきたのだが…

和銅修一

ラストライブ


 先延ばしにしようとしてもいつかは答えを出さなくてはいけない時がくる。今日がその時だ。
 自分の優柔不断さにはほとほと参っているがもう迷わない。
 答えを出すため、妹と我が家を出てとある喫茶店でのんびりと談笑をしている。
「それで、お兄ちゃん。妹とデートする気分はどう?」
「別に、どうもないさ。それよりもお前のファンが勘違いされないか内心ヒヤヒヤしてはいるが」
「大丈夫大丈夫。私のファンは良い人たちばっかりだから」
 それはお前の前だから良い顔をしているだけでは……いや、ここは兄として妹のファンも信じようではないか。
「そういえば、まだ復帰は先なのか?」
「う〜ん。正直、もう引退考えてるんだ〜。もう十分に楽しめたし、そろそろ進学に向けて勉強しないとだから」
「随分とあっさりしてるな。結構頑張ってたんだからまだ続けても良いと俺は思うけどな」
「私が辞めるって決めたから辞めるの。ファンのみんなには悪いけどね」
「お前らしいな。しかし、その決断力は我が妹ながら脱帽だよ。アイドルになる時もすごい勢いだったもんな」
 何に影響されたのかは忘れたが「アイドルになる!」と突然言い出した後は早かった。必死に歌とダンスの練習をしてオシャレにも気をつかうようになった。
 たゆまぬ努力によって華蓮は人気アイドルへと成長して今に至る。しかし、それでも何故か満足をしていないようで引退に迷いがないのもそのせいなのだろうが……。
「お兄ちゃん、もしかして覚えてない?」
 何やら不服そうな面持ちでこちらを睨んでくる妹。
「えっと……何のこと?」
「だ、か、らーー私がアイドルを目指すようになった理由。お兄ちゃん、テレビに出てたアイドル見て可愛いって言ってて私ムカっときたの。妹の私にはそんなこと言ってくれなかったのに」
「いや、逆に妹にそんなことを言う兄はヤバイだろ。シスコンじゃ、あるまいし」
 友和は俺のことをシスコンだと言ってくるが俺はただ単に頑張っている妹を応援したくてCDは必ず発売日に買うようにし、テレビに出るようならば忘れずに録画しているだけなのだが。
「はいはい。でも、陰ながら応援してくれたのは知ってるよ。初ライブの時に花を送ってくれたでしょ」
「ど、どうしてそれを……」
 小っ恥ずかしくてそのことは伏せていたのだが、一体誰が情報を漏洩させたんだ?
「私に隠し事はできないのだよお兄ちゃん。まあ、実際は友和さんが快く教えてくれたの」
「あの野郎……余計なことを」
 まさか身近なところに敵がいようとはーー今度会った時、どうしてやろうか。
「まあまあ、私はあれのおかげで初ライブを成功することができたんだから感謝してるんだよお兄ちゃん」
 満面の笑みで俺を殺しにかかる妹。これがアイドルの力というやつか。同じ血が通っているとは思えない可愛さだ。
「あ、ああ。それよりもこれからどうするんだ? お茶をするのは良いけど、お前がこれで終わりにするとは思えないけど」
「ふふん。実はお兄ちゃんをとっておきの場所にご招待しようと思って。今はまだ早いからもうちょっと待ってね」
「別に構わないけど」
 それから二十分程度、時間を潰していると華蓮のスマホが鳴りその表示を見た妹は待ってましたと勢いよく立ち上がる。
「お待たせお兄ちゃん。準備ができたみたいだから行こう」
 差し出された手を掴み、自然と奢らされながら向かったのはとある地下のライブ会場。いつの間にか華蓮の姿が消えていて辺りを見渡していると中央がスポットライトで照らされる。
 そこに立っていたのは煌びやか衣装に包まれている華蓮だった。
「さあ、お兄ちゃん。今日は目一杯、私の魅力でメロメロにしてあげる」
 スピーカーから流れ出したそれは華蓮がアイドルとして初めてライブで歌った曲。わざわざ変装してライブに参加したのだから間違いない。
 今回は俺一人のためだけに開かられないライブ。俺はそれから目が離せなかった。
「お兄ちゃん、愛してるよ!」
 その告白はアイドルとしてなのか、妹としてなのか、それとも天坂華蓮という一人の女性おしてのものなのかーー本人以外、誰も知る由がなかった。

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