奴ら(許嫁+幼馴染諸々)が我が家に引っ越してきたのだが…

和銅修一

決意する者、見送る者


 ハーレムエンドというものがある。
 ラブコメの最後なんかによくあるあれなのだが、俺はあまりそれを好んでいない。
 一見、誰も傷つかないハッピーエンドのように思えるが誰も選ばないということは誰も幸せにならないということだ。それではハッピーエンドとは言えない。
 とはいえ俺もあのラブコメ主人公たちを責めることは出来ない。何せ俺も同じことをしているのだから。
 複数の女性から好かれているというのに気付かないフリをしたり、どうにかそういった雰囲気にならないようにしてきた。それは俺が優柔不断な男だからだ。
 しかし、このままではいけない。
 現実はアニメや漫画のようにずっと学生でいられるわけではないのだから、いつしか答えを出さなくてはーー。
 そこで俺が取った行動は自分の逃げ道を断つことである。
 優柔不断な男というのは逃げ道があればすぐにそこに逃げ込んでしまう。自分のことだから痛いほど知っている。あのメールはそうならないためのものだ。
 結果は全員から返信があり、六人とのデートが確約された。まあ、デートとして捉えていない者もいるみたいだが断られなかっただけでも良しとしよう。
「それで、何でお前はここで一人作戦会議しているんだ?」
 座り込んで携帯とにらめっこしていた興に話しかけてきたのは親友の友和。
 それもそのはず。何故から彼がいるのは天坂家ではなく、比良家の友和の部屋にいるからである。
「だって、俺の家はあいつらがいるから正直困るんだよ。これからデートする予定の奴が同じ屋根の下にいるんだぜ? それに八恵のプレッシャーが凄くてな……」
 その様子を想像するのは容易で友和は呆れてため息を漏らした。
「それでここに転がり込んできたと。まあ、親友だから協力してやるけどさ。んで、お誘いのメールは送ったんだよな? 皆からは何て?」
「全員参加するってさ。それで魅雨姉が代表して順番も送ってくれてて……八恵、里沙、魅雨姉、晴奈、琴陵、華蓮の順で行くらしい」
「ふ〜ん。そいで、何処に行くとかはもう決まってるのか?」
「八恵は水族館、魅雨姉は美術館。晴奈とはあいつの兄貴に会いに病院に行く予定になってるけど他の三人はまだ決まってないな」
 まだ期日まで時間はあるし、あまり急ぐ必要はないのだが友和は違和感を覚えた。
「ん? もしかしてそれあちらさんが考えてるのか?」
「そうだけど、何か悪かったか?」
「普通デートプランは男が考えるもんだろ。綺麗な夜景が見えるレストランで豪華なディナーを楽しみ、ワインで乾杯するとかさ」
「いや、俺たち高校生だから……」
 そんなことをしたら魅雨姉が黙ってはいないだろう。師匠との出会いによりパワーアップしているあの姉のお仕置きだけは勘弁だ。
「例えばの話だよ。まあ、既に決まってるその三人はそのままで良いだろ。せっかく、準備してもらってるのにそれを無下にするのは失礼だからな。残りの三人をどうするかを考えろ」
「考えろと言われてもな……」
 デートの経験のない俺にそんなことを求められても困るのだが。
「はぁ……これだからモテる男という奴は。俺たちはいかに女性たちの気を引こうかと画策しているのにお前は何の努力もしなくて良いとは」
「怖い怖い。別にそんなつもりはないし、何の努力もしてないわけじゃないんだけどな……。そんなこと言うなら何か良い案を出してくれよ」
「そんなもん自分で考えろ。まあ、少し助言をさせてもらうと相手が喜ぶことを第一に考えることだな。里沙ちゃんなら俺以上に付き合い長いから分かるだろ?」
「里沙が喜ぶことか……」
 里沙には昔から今に至るまで世話になりっぱなしだ。特に天坂家に在住しているメンバーでまともに料理ができるのは俺と里沙だけ。そのせいで料理当番は二人で回すしかなく、大変な日々を過ごしている。
 そんな里沙に恩返しをしなくては常々思っていたが、いざ喜ぶものは何かと問われると思いつかないが自分にできることは限られている。そうなるとーー
「ピクニックなんてどうだ?」
「いや、女子か!」
「だ、駄目なのか? いつも手伝ってくれる里沙に俺の手料理でもてなしてあげようと思ったんだが……」
「その発想が女子なんだよ。とはいえ、それが里沙ちゃんが喜ぶことだと思うんならそれで良いんじゃないか。俺はどうなっても責任は取らんが」
 これは俺の問題だ。失敗したとしても友和を責めることなどできない。
 しかし、本当にこれで良いのかと不安になってくる。ここは慎重に決めようと携帯を眺めながら熟考していると友和の背後に見知った顔が迫っていた。
「おい、友和。な〜に、コソコソやってるんだ? イジメだったら容赦しないぞ」
 そういって彼女は弟の首を笑いながら絞める。腕は細いが喧嘩に強い友和でも振り解けないようで必死に抵抗を見せている。
「現在進行形で俺がイジメられてるんですけど……」
「夏芽さん⁉︎ 今日は講義があるって聞いていましたけど」
「大学生っていうのは講義を受けるかどうかは自分で選べられるんだよ。それで二人で何をしてたのかお姉さんに教えてくれるかな?」
「そ、その前に離してあげた方が……」
 友和の顔は真っ青になっており、これ以上は命の危険がありそうな状態にまで陥っていた。
「おっと、悪い悪い。ちょっと嫌な奴と出会ってイライラが溜まってたからさ〜。それで何してたんだ?」
 悪気がなさそうに笑いながら腕を解く夏芽さん。相変わらず自由奔な人だ。
 俺に対しては暴力は振るわないがこの人に隠し事ができるとは思えないので正直に事の顛末を話すことにした。
「ふ〜ん。ようやく、ハーレム状態から抜け出す決心をしたか」
「はい。それで夏芽さん的にはどう思いますか? 女性側からの意見を聞きたいんですけど、理想のデートスポットとかあったりするんですか?」
 この辺は琴陵が好きそうなパワースポットならいくつもあるがデートスポットは少ない。
 長い休みならば遠出も考えたがそういった時期でもないので近場で済ませるしかないのだが……。
「う〜ん。別にないな。適当で良いんじゃないか」
「もうちょっと真剣に考えてくださいよ」
「いやいや、私はいたって真剣だぞ。可愛い弟の親友の相談なんだからな。何でも良いっていうのはそのデートする連中はお前に対して好意を抱いてるんだろ? 女ってのは好きな奴と一緒にいられるなら場所なら何処でも構わないって。いや、女だけとも限らないか」
 好きな人なら場所なんて関係ない……か。
「ありがとうございます。夏芽さんのおかげで色々と俺の中で決まりました」
 興は何かを掴んだような面持ちで比良家を後にした。
「ったく、本当に世話のかかる親友だ。それにしても姉貴珍しいなサボりなんて。足洗ってからはちゃんと勉強するって言ってたのにさ」
「そりゃあ、お前がこんなメールを寄越したら講義なんて受けてる場合じゃないだろ。それに嫌な奴に会ったのは本当だしな」
「姉貴は興には甘いから来てくれると思ったよ。けど、本当に良いのか? 今からでも立候補しても良かったんだぜ」
「バーカ。そんなことしねえよ。どうやらあいつは自分で答えを出しちまってるようだからな。私はお邪魔虫だよ」
 そう言って夏芽は窓から興の後ろ姿を眺めていたが、本人はそんなことなど知る由もなく自宅へと足を進めた。

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