奴ら(許嫁+幼馴染諸々)が我が家に引っ越してきたのだが…
お風呂場にて
「ひゃろ〜、どしたの我が愛しき息子よ。俺がいなくて寂しくなったのか? んんっ?」
用事があったので電話をかけると、いつもより陽気というかテンションの高い親父の声が耳元に響いた。
「別に寂しくねーよ。逆に騒がしくなったくらいだ。それより親父、酒飲んでるだろ」
数回しか見たことないが親父は酒に滅法弱い。一口二口くらいでしゃくりをし出すほどだ。
だから家ではあまり飲まないよう注意していたが俺をいないのをいいことにあちらでお楽しみしているようだ。
「へろ〜? 飲んれない飲んれない。それよりどっしたの〜、電話なんかして〜、何か面白いこたでもあったん?」
「いや、ただの報告だよ。実は理沙の他におばさんが海外出張するからってことで理沙もうちに住むことになったからその分仕送り増やしといてくれ。あと、酒はほどほどにな」
今が何杯目なのかは知らないが度を過ぎると病院とかにお世話になるかもなのでそれだけは避けてほしい。
「うい〜。そうら、何か言い忘れてことがあったんだ……ん〜と、何だっけ?」
「俺が知るかよ。とにかく伝えたからな。あとで覚えてないとか言ったらその時は…」
その先は言わなくても分かるだろ?
と、声を低くして脅しに入る。
「わー、分かった。分かったから。それと八恵ちゃんとの許嫁の件は取り消すとか無しだから。面白くなくなりゅ」
「お前は愛しき息子を苦しめたいのか?」
時々、親父は何がしたいのか意味不明だが最近は特にそうだ。
「違うよ〜。可愛い子には旅をさせろって言うだりょ?  俺はただそれに従ってるだけだりょ〜」
まだ酔いが残っているらしく語尾がかなりおかしくなって変な人みたい(元からそうだったが)だ。
「あ〜、もういいよ。とにかく仕送りの件よろしく」
これ以上親父と喋っていても時間と気力の無駄なので電話を切って時間を確かめる。
七時三十二分。
夕飯は食べ終わったしそろそろお風呂の時間だ。面倒くさいのだが一度入らないとそれが続いてしまいそうなので毎日入ることにしており、今日は新しく買った石鹸がある。
しかし、先に理沙と八恵が入っているので今は辛抱するしかない。
「あれ? タオルの準備したっけ?」
いつも一枚置いているがそれだけでは足りないだろう。
俺はすぐさまタオル片手に風呂場へと行き、それを台の上へ置く。
「おい、タオルここに置いとくから勝手に使えよ。使い終わったらカゴの中に入れといてくれ」
明日の朝に洗濯して干すから、と言うと風呂でザバンっと水の中から出る音がして嫌な予感がしたが興はその方を向いてしまった。
「興様も一緒にお風呂いかがですか? いい湯加減ですわよ」
そこには裸の八恵が立っていた。
湯気がうまい具合に隠してくれたが、濡れた髪や肌は高校生男子である興には刺激的で自分でも一瞬にして顔が真っ赤になっているのを感じ取れた。
「ばっ、馬鹿! そんな格好するなよ。見えたらどうするんだよ」
湯気と咄嗟に後ろを向いたのが功を奏して大事なところは一切見えていないがそれらがなかったら危ないところだった。
「あら、私興様になら見られても、むしろ見て欲しいくらいですわ!」
「問題発言だぞ、それは」
確かに、制服を着ていてもそのスタイルの良さはハッキリとしていたが、それを自分から見せるというのは女の子としてどうかと思う。
理沙になら女同士なので問題はないが俺は年頃の男子であって、これからのことを考えると見てはいけないのだ。
「八恵さ〜ん。急にどうしたの?」
その時、俺は思い出した。
八恵ばかりに意識がいっていて、もう一人風呂の中にはあいつがいると。
「あ……」
唐突に声がしたので反射的にそちらを向いてしまい、ちょうど理沙がタオルで体を隠しながらこちらに来たのを目にする。
濡れた髪、濡れた肌。それに新しいシャンプーの匂い。
八恵もそうだったが、大事な部分が隠されていても男子高校生の純粋な心を乱すのには十分だった。
「こ、興くん⁉︎」
数秒してお互い、突然起きた出来事に驚きながらすぐに今ある状況を把握した。
興はタオルがあるが幼馴染が風呂に入っているところを目にし、理沙は幼馴染である興に風呂に入っているところを見られてしまった。
「す、すまん! ただタオルを置きに来ただけなんだ。ほら、お前が来るなんて思わなかったから準備してなくてさ……」
これはただの言い訳に過ぎないのかもしれない。
タオルなんて一つ、理沙が使っているがあるのだから拭き終わったそれを八恵に使わせればいいし、拭き終わって着替えた誰かがとって来ればいいだけの話だ。
それでも興には本当のことを言い、許してもらうしかなった。
「興くん、こっち向いて」
「え、でもお前……」
タオルで隠してはいるがその下は何もなく、かなり危険な状態。
八恵はいつの間にか風呂の奥へと身を隠しているが声の響きからして理沙は風呂から出て、バスマットの上に乗っている。
「いいからこっち向いて」
振り向く前に気づいた。
理沙の口調がいつもより優しくなっていることに。
「ごめんね」
新品の石鹸が額にクリーンヒットして、何故か視点が天井へいったと思ったら、次の瞬間には目の前が真っ白になっていた。
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