一人が好きな俺が自転車サークルに入った結果。
ようこそ!聖月大学自転車サークルへ!
レース後、御影は兄に早速結果報告をし、サークルを認めさせたという。
コレにより、自転車サークルは正式な団体として聖月大学のクラブの一つとなった訳で、勧誘もオッケーになったのだが……。
「これはどういう状況だ?」
俺は今、部室内の椅子に座っている。
両手両足を縄で拘束されて…。
いやはや見事な早業だった。
御影に言われるままに部室内に入った俺は、何も警戒する事なく椅子に座った。そう、御影と2人の部室内だと思って、背後から近づいてくるもうひ………。いや、皆まで言わんでいいか。
とにかく、隠れていた神無の見事な縄術に捕まったのだ。
俺の今の格好は、スパイが捕まってこれから拷問される……という感じだろう。
いや、マジで怖い。何が起こるのか分からん。極論、殺されそうになっても抵抗出来ない……。
「あれ?ミドリ、ナイフで切って血で押すんだっけ?」
「いや、血の代わりはもうあるでしょ」
「……え、ちょ。何の儀式だ?てか、何のつもりだコレ」
「んー?まあ、契約の儀式的な感じかな?あ、ちなみに強制だから!」
あれ、おかしいな。自転車サークルの部室に入った筈なのに、いつのまにかカルト集団の住処に変わってるぞ?
てか、血の代わりってなんだ。さっきから単語がかなり怖い。
「はいリクくん!コレに指を付けて!大丈夫!直ぐに済むから、ちょっと汚れるだけで!」
「は?お、おい、マジで何する気だ………ん?」
手に近づいてくる見覚えのある物に、俺は首を傾げた。
手のひらサイズの器に、赤いスポンジ状の物体が入ったソレは、一家に一つはあるだろうお馴染み感があった。
そう、朱肉である。
「さあ!拇印を押せば正式に自転車サークルの一員だ!強制的にでも入ってもらうからねー!」
「………………はぁ、アホくさ」
「な!何さその顔!何でそんなアホを見る目をしてるんだい⁈」
実際アホだとは思う。
どんだけガチな計画練って人をサークルに入れようとしてんだよ。いや、マジでアホだな、コイツ。
「桜島くん、諦めなさい。今回のレース結果を得て、あなたは私達に必要不可欠という結論が出たの。という事で……あなたに選択肢は無いから!」
親指を立て、ウィンクをかます神無。コイツまでこんなにマトモじゃ無かったとは…。
そして流れのままに、御影から俺の手元にサークル入会の書類が……。
ゆっくり、ゆっくりと紙が近づき、そして……――押した。
「ゲットー‼︎後は拇印だけだったからね!」
「なるほど、いつしかハンコがいるか聞いた時に微妙な顔をしてたのはそういう事か」
「ザッツライト!拇印が必要だったんだ〜」
「……そうかそうか。とりあえず、押した事だし、拘束を解いてくれないか?流石に痛い」
「あ、そうだね。うん!…えっと?ここをこうして…コレで……こう!」
思ったより腕の拘束がスンナリと外れる。そして、外れた瞬間――
「なっ⁈」
御影から紙を奪う。からの。
「間髪入れずに」
「ちょーー⁈」
粉々に破り捨てた。
「うわぁー‼︎ボクの完璧な計画が水泡に〜‼︎」
「やっぱアホだな…」
うん、紛れもないアホだ。というか、詰めが甘い。
とりあえずこの隙に足の拘束も外す。
あぁ…自由って、いいな。
「あ、アホとは何だい!ボクはどうしてもコレからも君とサークルがしたくてだね――」
「そこがアホなんだよ」
「え?」
俺が御影の言葉を遮った事により、御影がキョトンとした表情を浮かべる。
にしても、本当に……コイツは。空気とか流れとかを察しろよ。ったく。
「こんな回りくどい事しなくても、入るさ。というか、ここまで来て、逆に入らないと思ってたのか?」
「……え?ほ、ほんとに?サークル、入ってくれるの?」
嘘でしょ?みたいな、あり得ないと言わんばかりに驚く御影。いや、なんでそんなに驚いてんだ?
いつしかの放課後、どうなるかは分からない的な事を言った筈なのに。なんでガラにも無くネガティヴ思考を広げているんだ?
「本当だが、なんでそんなに疑ってるんだ?なんというか、変だぞ?」
「なっ!だ、だってミドリが!リクくんは春生小屋のレースで満足したから、もう自転車に用はないって…!」
「は?どういうことだ神無?」
神無の方に目を向ける。と。
明らかにマズイという感じに目を逸らす神無。
ああ、これはアレだな。冗談言ってたら御影が本気にしちゃったやつだ。
「…まあとりあえず。そんな事は無いから安心しろ。逆に、今回のレースで俺は自転車の楽しみを知った……気がする。なんていうか、俺は自分で勝利を取りに行くより、人の助けをする方が向いていたらしい」
「リクくん…!」
感動に目を潤ませる御影。俺を神とでも思っているのか知らんが、何故か手を組んで跪いている。
「まあ、という事で」
俺はテーブルにあった入会届に名前を素早く綴り、流れるように朱肉に親指をつけ、拇印の欄に……――押した。
「ほいよ。これでいいんだろ?」
御影の眼前に入会届を突きつけると、御影がゆっくりソレを掴む。
両手で掴んだのを確認して、俺は手を離した。
なんだろうか、紙で顔が隠れて表情は見えないが、身体が震えている。
と、いきなり立ち上がった御影が俺へとダイブ――
流石に急すぎて避けられなかった俺は、仰け反りながらも何とか御影を支える。
重い、熱い、柔らかい……。うぅむ。
「エヘヘへ。やっと捕まえた……」
「お前なぁ…見境い無さすぎだろ……」
「えー?これ位急じゃ無いと逃げるでしょ、リクくん?」
「………ふぅ…」
否定は出来ない。
「………ねえ、リクくん…」
「ん?なんだ?」
と、抱きついていた身体を御影がいきなり離した。
そして神無と並び俺の前に立つと、何やら2人で合図をし――
『ようこそ!聖月大学自転車サークルへ!』
そう、神無と共に笑顔で言った。
ああ、そうか。今から…なんだな。ここからが、俺の自転車サークルでのスタートなんだな。
スタート……そう、始まりの時。ならば、俺が言うべき言葉は一つだろう。
「――ああ、これからよろしく頼む」
俺の言葉に、満足気な表情を浮かべる御影と神無。
きっと、これからも彼女達と、様々な経験をするんだろう。
レース然り、練習でも……ロングライドやブルベでもいい。
彼女達と走る道………それが今は、楽しみで堪らない。
何かを楽しいと感じられる事が、こんなにも嬉しい事だなんてな。
ああ次はこの仲間達と、一体どんな道を走れるんだろうか――
コレにより、自転車サークルは正式な団体として聖月大学のクラブの一つとなった訳で、勧誘もオッケーになったのだが……。
「これはどういう状況だ?」
俺は今、部室内の椅子に座っている。
両手両足を縄で拘束されて…。
いやはや見事な早業だった。
御影に言われるままに部室内に入った俺は、何も警戒する事なく椅子に座った。そう、御影と2人の部室内だと思って、背後から近づいてくるもうひ………。いや、皆まで言わんでいいか。
とにかく、隠れていた神無の見事な縄術に捕まったのだ。
俺の今の格好は、スパイが捕まってこれから拷問される……という感じだろう。
いや、マジで怖い。何が起こるのか分からん。極論、殺されそうになっても抵抗出来ない……。
「あれ?ミドリ、ナイフで切って血で押すんだっけ?」
「いや、血の代わりはもうあるでしょ」
「……え、ちょ。何の儀式だ?てか、何のつもりだコレ」
「んー?まあ、契約の儀式的な感じかな?あ、ちなみに強制だから!」
あれ、おかしいな。自転車サークルの部室に入った筈なのに、いつのまにかカルト集団の住処に変わってるぞ?
てか、血の代わりってなんだ。さっきから単語がかなり怖い。
「はいリクくん!コレに指を付けて!大丈夫!直ぐに済むから、ちょっと汚れるだけで!」
「は?お、おい、マジで何する気だ………ん?」
手に近づいてくる見覚えのある物に、俺は首を傾げた。
手のひらサイズの器に、赤いスポンジ状の物体が入ったソレは、一家に一つはあるだろうお馴染み感があった。
そう、朱肉である。
「さあ!拇印を押せば正式に自転車サークルの一員だ!強制的にでも入ってもらうからねー!」
「………………はぁ、アホくさ」
「な!何さその顔!何でそんなアホを見る目をしてるんだい⁈」
実際アホだとは思う。
どんだけガチな計画練って人をサークルに入れようとしてんだよ。いや、マジでアホだな、コイツ。
「桜島くん、諦めなさい。今回のレース結果を得て、あなたは私達に必要不可欠という結論が出たの。という事で……あなたに選択肢は無いから!」
親指を立て、ウィンクをかます神無。コイツまでこんなにマトモじゃ無かったとは…。
そして流れのままに、御影から俺の手元にサークル入会の書類が……。
ゆっくり、ゆっくりと紙が近づき、そして……――押した。
「ゲットー‼︎後は拇印だけだったからね!」
「なるほど、いつしかハンコがいるか聞いた時に微妙な顔をしてたのはそういう事か」
「ザッツライト!拇印が必要だったんだ〜」
「……そうかそうか。とりあえず、押した事だし、拘束を解いてくれないか?流石に痛い」
「あ、そうだね。うん!…えっと?ここをこうして…コレで……こう!」
思ったより腕の拘束がスンナリと外れる。そして、外れた瞬間――
「なっ⁈」
御影から紙を奪う。からの。
「間髪入れずに」
「ちょーー⁈」
粉々に破り捨てた。
「うわぁー‼︎ボクの完璧な計画が水泡に〜‼︎」
「やっぱアホだな…」
うん、紛れもないアホだ。というか、詰めが甘い。
とりあえずこの隙に足の拘束も外す。
あぁ…自由って、いいな。
「あ、アホとは何だい!ボクはどうしてもコレからも君とサークルがしたくてだね――」
「そこがアホなんだよ」
「え?」
俺が御影の言葉を遮った事により、御影がキョトンとした表情を浮かべる。
にしても、本当に……コイツは。空気とか流れとかを察しろよ。ったく。
「こんな回りくどい事しなくても、入るさ。というか、ここまで来て、逆に入らないと思ってたのか?」
「……え?ほ、ほんとに?サークル、入ってくれるの?」
嘘でしょ?みたいな、あり得ないと言わんばかりに驚く御影。いや、なんでそんなに驚いてんだ?
いつしかの放課後、どうなるかは分からない的な事を言った筈なのに。なんでガラにも無くネガティヴ思考を広げているんだ?
「本当だが、なんでそんなに疑ってるんだ?なんというか、変だぞ?」
「なっ!だ、だってミドリが!リクくんは春生小屋のレースで満足したから、もう自転車に用はないって…!」
「は?どういうことだ神無?」
神無の方に目を向ける。と。
明らかにマズイという感じに目を逸らす神無。
ああ、これはアレだな。冗談言ってたら御影が本気にしちゃったやつだ。
「…まあとりあえず。そんな事は無いから安心しろ。逆に、今回のレースで俺は自転車の楽しみを知った……気がする。なんていうか、俺は自分で勝利を取りに行くより、人の助けをする方が向いていたらしい」
「リクくん…!」
感動に目を潤ませる御影。俺を神とでも思っているのか知らんが、何故か手を組んで跪いている。
「まあ、という事で」
俺はテーブルにあった入会届に名前を素早く綴り、流れるように朱肉に親指をつけ、拇印の欄に……――押した。
「ほいよ。これでいいんだろ?」
御影の眼前に入会届を突きつけると、御影がゆっくりソレを掴む。
両手で掴んだのを確認して、俺は手を離した。
なんだろうか、紙で顔が隠れて表情は見えないが、身体が震えている。
と、いきなり立ち上がった御影が俺へとダイブ――
流石に急すぎて避けられなかった俺は、仰け反りながらも何とか御影を支える。
重い、熱い、柔らかい……。うぅむ。
「エヘヘへ。やっと捕まえた……」
「お前なぁ…見境い無さすぎだろ……」
「えー?これ位急じゃ無いと逃げるでしょ、リクくん?」
「………ふぅ…」
否定は出来ない。
「………ねえ、リクくん…」
「ん?なんだ?」
と、抱きついていた身体を御影がいきなり離した。
そして神無と並び俺の前に立つと、何やら2人で合図をし――
『ようこそ!聖月大学自転車サークルへ!』
そう、神無と共に笑顔で言った。
ああ、そうか。今から…なんだな。ここからが、俺の自転車サークルでのスタートなんだな。
スタート……そう、始まりの時。ならば、俺が言うべき言葉は一つだろう。
「――ああ、これからよろしく頼む」
俺の言葉に、満足気な表情を浮かべる御影と神無。
きっと、これからも彼女達と、様々な経験をするんだろう。
レース然り、練習でも……ロングライドやブルベでもいい。
彼女達と走る道………それが今は、楽しみで堪らない。
何かを楽しいと感じられる事が、こんなにも嬉しい事だなんてな。
ああ次はこの仲間達と、一体どんな道を走れるんだろうか――
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