海の声

漆湯講義

147.月あかりと

…頬にひんやりと乾いた空気が触れる。

部屋が…静かだ。

ふと、ついさっきまで握っていたはずの海美の手の感触が無いことに気がつき、俺はゆっくりと顔を上げていく。

…あれ。

そこにはシワだらけのシーツだけが残り、窓の外の月明かりに照らされていた。

俺はプレスされる鉄板のように即座にピンと背筋を伸ばし部屋を見渡す。

『おはよ。』

その声に後ろに振り向くと、テーブルへ両腕で頬杖をつき、月明かりに白さを増した肌を手のひらで包み込むようにする海美の姿が目に映った。

「う…海美…」

するとウトウトしていた様子の海美が俺に小さく微笑み、少し申し訳なさそうに『えっと…私、気を失っちゃってたのかな…?』と目尻の辺りを指で掻いた。

「海美ッッッ!!」

俺は右側へと身体を捻ると左足を踏み出し、その勢いのまま海美を抱きしめた。

「ホント良かったぁー…俺、もう海美に会えないのかと思って…どうすりゃいいのか分かんねーし…」

『えっ…うん…ごめん。それよりちょっと…苦しいかも。』

「ぅあぁぁッ、ゴメンッ!!」

俺は無意識に抱きしめてしまった海美の身体を慌てて引き離すと、大袈裟に距離をとって背中を向けた。

「だけど…ホントに、良かった。」

『えっと…アリガト…。それと、なんかゴメン。』

「謝ることなんてないって!!それよりさぁ、俺、決めたんだ。」

『決めた??何を??』

「海美がやりたい事出来るだけ叶えてやりたいなって。だからさぁ、何でもいいからやりたい事言ってよ!!」

『そんな急に言われてもねぇ…でも強いて言うならぁー…』

そう言って俺に向けられた手から人差し指がピンと立った。





コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品