海の声

漆湯講義

128.村長の家へ

すると家の前の道に人影が見えた。
それと同時に母さんの『あら、美雨ちゃんじゃない♪いらっしゃい!!』という声が庭に響く。

美雨というヤツは本当に猫被りというか世渡り上手というか…
美雨は、母さんに"謙虚で礼儀正しい女の子"として挨拶を終えると、俺に気づいて元気溢れる笑顔で手を振った。

俺は軽く手を挙げ海美と下へ降りる。

洗面所から玄関へ行くと美雨は靴を靴箱の前に綺麗に並べると、チラリと庭を見てから『おっすセイジ隊長ッ♪』とイタズラな笑みで敬礼した。

一度俺だけで部屋へ入り、着替えを終えるとノートとペン、それと朝食の惣菜パンを持ち家を出る。

『セイジ君に夏休みの自由研究のお手伝いしてもらってきまーすッ!!』

ったくコイツは…


すると、家を出てすぐの所に"おじさん"の車が目に入る。

「あれって…」

『おじさんが送ってくれるって言うからさッ、段取りの良いボクに感謝だなッ♪』

いや、感謝するのはお前じゃねーだろ。と思いつつも、オトナな俺は「ありがとな。」と答える。

『すっかり仲良くなったみたいで良かったねっ♪』

そう言う海美に頷いて「よろしくお願いします」と俺たちは車へ乗り込んだ。

マニュアル車のシフトチェンジの音が静まり返った車内に響く。

輝く海の上を楽しげに舞う海鳥を見ていると、おじさんが静かに口を開いた。

『村長だって暇じゃない。今日はたまたま用事が無かったみたいだが、これから人の時間をもらう時は前もって話を通しておきなさい。』

会って一番の会話が説教かよ…けどまぁ言ってることは正しいか。「…ごめんなさい。」

『それは村長に言いなさい。俺は美雨の保護者として当たり前の事をしたまでだ。』

そういえばおじさんが送ってくれてるって事は美雨が今日の事話したって事なのか。なんだかんだでそんな会話できたんだな。なんかちょっと嬉しいかも。

なんて考えてたら"プッ…"と美雨の笑う声がして、サイドミラー越しに美雨と目が合った。


しばらくして石垣が高く積まれたT字路が見え、木々が立ち並ぶ坂道を登っていくと村長の家の前へ車は停車した。





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