海の声

漆湯講義

125.ただいま

母さんによると、暗くなってからおじさんから電話があったそうだ。

"美雨が昨日から帰っていないのですが心当たりはありませんか?"と。

なかなか帰って来ない俺たちを心配した母さんは、"もしかしたらフェリーに乗り遅れたのかも"と告げると、"分かりました"と電話は切れたそうだ。

父さんと車で港の方まで俺たちを探しに行った時に、おじさんが"娘を迎えに行く"と言って、船であの島へ向かったと漁師の人に聞いてから玄関で俺たちの帰りをずっと待っていたらしい。

こんな事いうのは恥ずかしいけど、これが親の"愛"ってやつなんだろうな、って思った。

それと同時に、おじさんの美雨に対する想いが分かってすごく安心した。

安心しきった様子で晩御飯を準備してすぐに寝てしまった父さんと母さんに心の中でもう一度"ありがとう"と言うと、交代で風呂に入り、晩御飯を持って部屋へと戻る。

おじさんが迎えに来てくれていなかったらどうなってたんだろ…
俺は箸の先でご飯粒を一粒だけつまみながらそんなことを考えた。

『今日はホントどうなるかと思ったよね♪』

笑顔でそう話かけた海美を見て、ふとあの時気付いた事を思い出す。

「そう言えばさぁ、待合室で気づいたんだけどなんでコップとかは持てるのに人が着てる服は持てないの??」

海美は箸が止め、箸の先を下唇に当てながら"うーん…"と上を見つめる。

『言われてみれば何でだろ…おかしいよね?服だって着れるし…』

考えれば考えるほど謎だ。全てに辻褄が合わない。
俺だけが海美が見え、触れることさえ出来るのは何でだ?
俺が着たら触れて美雨が着ると触れない、声だって空気の振動なんだよな…空気振動してんのになんで俺にしか伝わんないだよ…あーッ頭おかしくなりそー!!

『ま、いっか♪』

…え?

そう言って何事もなかったかのように食事に戻った海美を俺は呆然と見つめた。


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