海の声

漆湯講義

118.シンパイ

そして俺たちは、だんだんと視界に広がってくる"やけに暗い港"を見てふと1つの不安が過った。

「なぁ…船、でるよな?」

すると美雨は引き攣った笑顔を見せ『えっ…ボクに聞ちゃうカンジ?』と辺りを見回す。

『う…海美ねぇなら知ってる…んじゃない?』

パッと海美を見ると『えッ、私知らないよっ!!ちょっと待ってて!!』と、待合室へ走っていった。

俺達も海美の後を追って待合室へと走る。

そして薄暗い蛍光灯に照らされた待合室の壁に掲げられた"時刻表"を見た。


『どーしよっか…』

海美の力無い声が俺の身体に染み込む。

「どーすんだよッ!!帰れねぇじゃん!!」

『ははっ…野宿だなセイジ。まぁここならベンチもあるし多分安全だし、それに…』

「バカかお前はッ!!朝までここで待てっての??マジかよッッ!!」

俺の声が待合室に虚しく響き渡り、そのままスーッと力が抜けていった。

「どーするー…?」

待合室のベンチに腰掛け、俺は隣に座る海美を見た。

『んッ?…まぁ私は別に帰るトコも無いし待ってるヒトも居ないし問題ないんだけどー…』

悲しすぎる事サラっと言うよな…
ってかそうだよなぁ…父さんや母さん心配するだろうな…

『ボクは別に心配されないからいいけどセイジがねぇー…』

ってお前もかよ!!

「けどお前2日も帰らないんじゃぁさすがにおじさんも心…」

『しないよっ、あのヒトは。』

俺の言葉を遮った一言には何か色々な感情が入り混じっているようだった。

「え…けど2日だぞ?この前だって俺んちにわざわざ来てたし。美雨のこと心配してんじゃない?」

美雨はそれに答えずに、一瞬俺に視線を送るとそのまま下の方を見つめた。



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