海の声

漆湯講義

109.コウカイ

そんな恥ずかしい話なんてできねーよ!!いや、そもそも本当に"好きなヒト"って言ったのか?!聞き直して違ったら超恥ずかしいし…なんて考えていたら、ポッと1つの考えが頭に浮かぶ。

「えっと…そうだ、お前はどうなんだよ?そういうヒトいんの??」

たぶんこれが1番の返答だ。あえて答えずに相手の答えから質問を推測する、我ながらいい作戦だ!!さぁ、美雨っ答えろ。

『えっ…ボクは…聞きたいの?』

えっ、なんだよその顔…

普段見せることのない別人のようなその表情に俺は咄嗟に目を逸らした。
上目遣いでそんな顔しやがって…美雨らしくない。けどなんか…

「あ、海美起きたみたいだ!!海美ー!!外気持ちいいからこっち来なよ!!」

そう言って俺は美雨の答えを聞く前にその質問自体を有耶無耶にしてしまった。

だせーな、俺…

それでもやはり、こういう真剣な雰囲気は苦手なのだ。特に恋愛なんて俺にはいい思い出は無いから。こうやっていざという時に逃げてしまう俺の悪い癖。

すると美雨は何も言わずに船内へと戻ってしまった。

その姿を見つめていた海美が『今のは…ダメだよ…』そう呟いて美雨の後を追って行く。
そう…だよな。
その場から動けずにいた俺の胸に何とも言えない苦酸っぱいモノが広がっていった。

"ボゥーッ、ボゥーッ"

静かだった船上に汽笛の音が響く。
ふと進行方向へと目をやるといくつかの大きな建物が連なる港が見えた。

船は徐々にそのスピードを落とし、港へと吸い込まれるように進んでいく。

そして夏の日差しを照り返すコンクリートがすぐ目の前まで迫ったところで船が港へと到着した。


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