海の声

漆湯講義

95.フクザツ

え…

俺は中腰のまま美雨の顔を見つめていた。
何故なら美雨が無表情のまま一点を見つめ、肩上まで伸びた髪の毛をクルクルと指で回していたからだ。

俺はコレが何を意味しているのか分からず、海美の方へ視線を送る。

『美雨ちゃん…は私の為に嘘ついてくれたんだと思う。だから性格が悪いわけじゃないよ?えと…言っていいのかな…?あのぅ、誠司くんだから言うケド、昔ね、他の子に同じようなコト言われたって言って泣きながら私の家に来たことあったんだ。それも美雨ちゃんは悪くなかったんだけど、それから変な噂が広まっちゃったみたいで…性格のコト言われるの気にしてるみたいなんだ。だからその…さっきの言葉、気にしてるのかも。』

別に…そんな本気で言ったつもりないのに勝手に傷ついてんなよ、なんて言える筈もなく俺は小さく"ごめん、冗談だっての"と言って優しくデコピンをお見舞いしてやった。

『えっ、ううん、別にいいよホントの事だしッ。冗談ってのも分かってるしっ。』

「じゃぁ何でそんな顔してんだよばーか。」

『うっさいなぁ、ソレを考えてたんだよッ!!』

「はぁ?意味わかんねーっ。海美もなんか言ってやってよ。」

『えっ、うーん。それってさぁ…やっぱなんでもない♪』

「なんだよっ、海美まで変なこと言うなよぉー。」

『もぅどーでもいいじゃんかッ、せっかくだし楽しもーッ♪』

「元はと言えばオマエだろっ!!」

『そいじゃぁボクが終わりって言ったら終わりッ♪オトコだったらウダウダ言うなッ。』

「ったくワケわかんねーよ、まーじーでっ!!」

だけどコイツはこれくらい生意気な方が似合ってるけどな。

あーあ、心配して損したわっ。


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