海の声

漆湯講義

94.嘘のレシピ

『無理にとは言わないから、ねっ?』

美雨は腕で涙を拭うと小さな声で喋り出す。

『今日、遠い親戚のおじさんがウチに来てるんです…おじさんは、たまに沖洲へ来ては"美雨の為に無理にでも本土に住ませていい学校に通わせるんだ"って言って、私がここに居たいって嫌がると乱暴するんです。』

『それは酷いわ…私が説得してあげようか??』

『やめてください…その場は良くても、その後に何をされるか…それで今日、森の中の廃墟に泊まろうかなってセイジくんに言ったら"泊まっていきなよ"って言ってくれて…嬉しかった。だけど…いいんです。迷惑をかけるわけにはいかないので…あ、晩御飯、ご馳走様でした。昔お母さんが作ってくれたご飯の味…思い出せました。では今日はもう帰りますね…』

そう言って美雨は軽くお辞儀をするとリビングをゆっくりと出て行こうとする。

『待って!!』

母さんはそう言うと美雨の腕を掴んで抱き寄せたのだった。

『そんな事…誠司何にも言わないから…いいわよっ、泊まっていきなさい。誠司っ、分かってると思うけどしっかり守ってやんなさいよッ!!』

すると母さんの肩に乗った美雨の顔が不敵な笑みを浮かべた。

「えっ?!お前ッッ…」

『何よ誠司、もう部屋戻っていいわよっ。美雨ちゃんも、何でも相談してね。力になるからね。』

『ハイッ、本当にありがとうございます…お母…さん♪』

『ふふっ♪なんだか娘ができたみたいで嬉しいわ♪それじゃぁ頑張ってね♪』

俺はモヤモヤとする気持ちを抑えて部屋に入るとドアを閉めた。

「ッッて何だよさっきのは!!全部嘘か?!嘘なのか?!」

テーブルの前にドカっと座り込んだ美雨は人差し指を立て、得意げに喋り出す。

『8割の嘘に2割の真実を盛り込む事で人は簡単に騙されてしまう、っと言うコトなのだッ。つまり全部嘘じゃぁない。しかも人を守る為の嘘は正義って知ってたぁ??』

『もぅ、美雨ちゃんなにそれー♪』

紙を片手に微笑む海美はテーブルで何かやっていたようだ。

「知らねーよッ!!お前よくそんな嘘つけるよなッ、性格悪っ!!」

ん…?

すぐに返ってくる筈の美雨の反論が聞こえない。俺は美雨の横へと腰を下ろしつつ、何気なく美雨の顔を覗き込んだ。

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