海の声

漆湯講義

64.新たなる…

俺がゆっくりと美雨に歩み寄っていくと、下を向き肩を震わす美雨の姿がはっきりとしてくる。

「美雨…」

『セイジ…っ…お前…っ…』

「ん?なに?」

俺は美雨の横で歩みを止め、俯く顔を覗き込んだ。

ッ?!

美雨の目からは小さな雫が滴り落ち、口に手を当てて…

「っておいッ、なに笑ってんだよッ!!」

『ッッ…だって…プッ…なに今の…あ…ムリ…っぁははははぁっ!!うーわっヤバいヤバい…あはははははは!!』

顔が熱い…鏡を見なくたって顔が真っ赤になっている自分が容易に想像できる…

「だからなんで笑ってんだよ!!」

『だって…なに今の!!告白の返事ッッ?!いやぁーケッサクケッサク…ご飯時思い出したらセイジのせいだかんなぁー!ぁははははは!!』

「コ、コクハク?!俺は別にそんなそれはそんなんじゃねーしッ、ただ俺はお前とだな…」

『いいよっ?トモダチから始めてやっても♪』

「お…あ、そうか、ちゃんと分かってんじゃねーかッ!!…ったく、超ハズかったんだけど。てかお前朝"友達いらない"とか言ってなかったか?」
俺も人の事言えないけどさ。
すると美雨はニコッと笑ってこう言った。

『セイジにはカンケーないっしょ?』

どういう意味か分からんが…追求することもないか。
俺は視線を合わせるのがなんだか恥ずかしくてパステルカラーのサンダルを見つめて答える。

「まぁいいや、あの…改めてよろしくな、美雨。」

『ウムウム♪んじゃよろしくナッ、セ・イ・ジ・くん♪』

そう言って美雨の指が俺の胸を弾いた。

小走りに駆けていく美雨の後ろ姿を見つめながら俺は胸にそっと手を当て空を見上げた。

あの日東京で見上げた空よりもずっと遠くまで澄み切った青空は同じ空とは思えない程に輝いて見えた。

なんか疲れたな…

俺も帰ってメシでも食うかな…

それにしても美雨の本当の家ってどこなんだろう…ま、いっか。これから何度でも教えてもらう機会があるんだから。

よし…走るか。
そして俺は力強く大地を蹴った。

「ただいまぁー。」

『あっ、誠司おかえり、アンタすごいじゃなぁい♪』

「えっ?なにが?」

『んもぉ、なにがじゃないわよ。ブレスレット、作っといたからね♪』

キッチンから現れた母さんの手には綺麗な貝殻のブレスレットが握られていた。

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