海の声

漆湯講義

61.欠ける歯車

俺はその視線に自らの視線を重ねたまま身動きが取れなくなってしまった。

何故ならその視線は親友である筈のタクヤから放たれていたものであったからだ。

程なくしてその視線の意味を理解する。

「タクヤ…違うよな?」

その問いかけにも微動だにせずじっと俺を睨みつけるタクヤが居た。

俺はタクヤに歩み寄り「なんとか言えよ…」と肩に手を掛け…
その瞬間、タクヤの手が俺の手を力強く薙ぎ払う。

それで答えが分かった。

あの日、俺が杉田の靴箱に手紙を入れた日。あんな時間にタクヤが登校するのは珍しい。
タクヤは俺と似ている。強気なクセにいざという時には臆病なのだ。そんなヤツが自分の胸に秘めた想いを伝える方法なんて…

偶然にも同じ日に同じ事をしたやつがタクヤだった。ただそれだけのことなのに。

するとタクヤは立ち上がり顎をフッと前に振り"ついてこいよ"と教室を出て行った。

俺は後を追いトイレへと入る。

「なんでだよ。」
改めてその真意を問いただすと、重く閉ざされたタクヤの口がゆっくりと開いた。

『俺が聞きてえよ。クソが。』

「はぁ?なんだよそれ。やっぱりお前なのかよ。お前…だからってあんな事すんのかよ。」

『俺、前に言ったよな?知っててあんな事するやつの事なんて知ったことか。』

「ふざけんなよ!!お前がいつ…杉田の事が好きとか言ったんだよ!!」

『お前だって分かってたんだろ?分かんねーわけねーよな?』

「そりゃなんとなくそんな感じはしてたけど…」

"ドンッ"と音を立ててタクヤの拳が個室のドアに突きあてられると、覇気のなくなった小さな声で『ずっと好きだったんだよ…幼稚園の頃から…』と俯いたタクヤは下を向いたままポツポツと輝くモノを落とした。

「だってお前…今までそんな事一言も…」

『お前だけにはこうして欲しくなかった…ウラギリモノ。』

俺の横をタクヤが通り過ぎていく。

何か言わなければと思ってもその場から動くことができない。

こんなの無ぇだろ…

俺はタクヤを追って廊下を駆けた。

そして教室の前の階段でタクヤに追いつくと俺は肩を掴んだ。




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