海の声

漆湯講義

50.島の駄菓子屋

その日、俺は特にすることも無く…というか常にすることは無いのだ。悲しいことに。

まぁ、とにかく俺は暇潰しにこの炎天下の中島の"探索"に単身、家を飛び出した訳だが…

どうしてこうも何も無いのだろうか…何も無いと言っても、勿論輝く海と威風堂々と聳え立つ山々はいつ何処に居ても見に入ってくる。それに加えてただまっすぐに伸びた道路とガードレール、畑や田んぼ、稀に民家が樹々の隙間から顔を覗かせているくらいだ。

稲がサラサラと川のせせらぎのような音を奏でる中、俺は一面に広がる田んぼを横目に崖沿いに僅かに残る影の中を歩いていた。

海美の家の方とは逆に向かって歩いてきた訳だけど、どうも景色が一緒に見える。

途中、道路沿いに俺を誘うような登りが見えた。"かき氷"その3文字はこの炎天下にはどんな財宝よりも輝いて見えた。

まさかこんなトコにかき氷が売ってるとは…何かあった時のためにポケットに忍ばせた500円玉を握りしめ、早速俺は古びた木造の駄菓子屋みたいな建物へと足を踏み入れた。
『いらっしゃい。』
暗い部屋の奥からお婆さんの小さな声が響く。ゆっくりと姿を現したお婆さんは"いかにも"な割烹着に身を包み『おや、見ない顔だね。どこの子だい?』と"いかにも"な口調で優しく喋りかけてきた。

「瀧山です。えっと、この前引っ越してきたばっかで今、島を探索してるんです。」

『あぁ…そうかい、こんなに暑いと大変だね。ほら、これ食べ。』

お婆さんはそう言って大きな冷蔵庫からアイスクリームをひとつ、俺に渡してくれた。

その時だった。店の入り口の暖簾がふわりと舞い上がった。

コメント

  • 漆湯講義

    そうなりますね(。°ロ°。)!ありがとうございます!!
    Aisuさんも50話も読んでくださって本当にありがとうございます(。TωT。)

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  • あいす/Aisu

    50話ですね!これでこの作品が50日目になりますね〜っ!(確か最初は5話一気に投稿してたから実際は45日目ですかね?)とにもかくにもおめでとうございます!

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