海の声

漆湯講義

48.小さな紅葉

「あのさぁ、海美ってその渡し子ってやつけっこう楽しみにしてたの?」

こんな事聞いてどうすんだろ。

『ッ!!…海美ねぇのコト馴れ馴れしく呼ぶなっ!!それに楽しみにしてたに決まってんじゃん!!カミサマが海美ねぇを選んだのになんでお前なんだよっ!!バチでも当たっちゃえ!!』

「なんだよカミサマって、もしかして町長はカミサマみたいに崇められてんの?」

もしそうなら冗談じゃないくらい笑い話だな。

『はぁっ??なんであんなじーさんがカミサマなんだよ!!ホントキモいっ、キモキモ星人!!祭りの時にカミサマに選んでもらうんだよ!そんくらいジョーシキっ。』

知らねーよこの島の常識なんて…

「っまぁ、俺も海美に頼まれたんだし、やりたくもない事いきなり町長にやらされてるだけだからさぁー….」

"パンッ"

「痛ってぇ!!何すんだよガキっっ!!」

俺の言葉を中断させた小さな一撃を放った男の子は泣いていた。

『そんなウソ2度と言うなぁっ!!』

そう言って名前も知らない生意気なガキは走り去ってしまった。

なんだよ…この島のヤツって初対面で急に走り去る"ジョーシキ"でもあるわけ?

ヒリヒリと痛む頬をさすりながら俺は呆然とその小さな影を見送った。

もーいいや、帰ろ。



「ただい…」
母さん何ニヤニヤしてんだよ…

『あっらぁー♪紅葉なんてつけちゃって彼女と喧嘩でもした?』

っほんっとになんだよ!!まじめんどくせー!!

「ちげーっての!!いちいちニヤニヤすんのやめてくれる?まじで…」

キッチンへと向かう俺の後ろから面倒くさいオバサンは続ける。

『ふーん♪ま、いっか♪誠司は女心を勉強しなきゃいけないわね。お母さんが教えてあげよっか??』

「そんな昭和の女心なんて通用しねーよっ。」

『アンタっ!!言っていい事と悪い事があるでしょう?ブレスレット作ってあげないわよ!!』

「あー、悪かったごめんごめん!!いただきまーす!!」

母親というものは何故こんなにも面倒で、やたらに息子の恋事情に口を挟みたがるんだろうか…いや、こんな母親はウチだけか。
それにしてもアイツは何だったんだ。あぁ、思い出すだけでイライラする。
朝食を胃袋に一気にかき込むと、そのまま二階へと上がり、綺麗に畳まれた布団の上へとダイブした。




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