海の声

漆湯講義

37. 熟れたトマトと夏の風鈴

少し歩いたところに小さな階段を見つけた。

「こっから降りんのか…」

『なんかワクワクするね♪』

海美は崖に続く階段の発見に心躍らせているようだが、その階段の周りには草が膝丈程まで生い茂っていてとても降りる気にはなれない…

『行こっ♪きっといい眺めだよ?』

そう言って階段を降りようとする海美の手を…俺は無意識に掴んだ。

「あっ、ごめんコレはっ…その…お前そんな格好じゃ服汚れるし…足だってさ…」

慌てて離した手に残る海美の柔らかな感触が頭から離れない。

『いいよ、そんな事。行こっ。』

「待てよっ。その…やめたほうがいいんじゃね?こっからでも眺めいいしさ。」

しかし海美は納得する様子は無い。

『やだよ。もう来れないかもしれないし、せっかく来たんだからあそこ行きたい。』

なに子供みたいなこと…ここだったらいつでも来れるだろ。

俺は勢いよく頭を掻きむしる。
すると海美はふと何かを思いついたようにポンと左手に拳を落とすととんでもない事を言い出す。

『じゃぁさぁ…おんぶ…は?』

「はっ?!はぁぁぁぁぁ?!?!」

おんぶってお前、なに言ってんのか分かってんのか!それってお前背中に身体が密着してだな!体重を俺に預けてその…とりあえずバカじゃねーのっっっ!!!
てかなんでそんな会って間もない男女がそんな関係になんだよ!ちょっと前まで"別に…。"とか"そう…。"とか素っ気ない返事ばっかしてたくせになんだよいきなりっっ!!

自分の発言の重大さに気づいてもいないのか、海美はあっさりとした口調で『それなら問題カイケツでしょ?』と微笑む。


「そりゃそうかも知れないけどだって俺さぁ!…俺さぁじゃなくてその….アレじゃん!分かってくれよ!!」
顔がアツイ…!!
自分でも顔が熟れたトマトのように赤く染まっているだろう事が容易に想像できる。
『ふふ♪ほんと面白いねキミ。私のこと"女の子"として見てくれてるんだ?』

生意気に目を細めて、口にピンと立てた人差し指を当てながら海美は笑う。

「あったりめーだろっ!!からかうなよっ!」


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