海の声

漆湯講義

29.憧れの花火

ノリで1枚くらい海美と写真を…なんて考えてたけど…無理か。



『で、どうしたの?それ。』

「えっ?!コレ?あっと、えーっとこれは父さんにこの島の絶景を撮影してきてくれって頼まれてさ。」
"だから一緒に良いとこ探してよっ"って言えたらいいんだけど…恥ずかしくて言えねー…
『なーんだ。花火大会の為に買ったのかと思った。』
花火大会…
「あぁ待合室に貼ってあったやつか。」
どうせ小ちゃい花火大会なんだろーな。島だし。
『そう、楽しみなんだ。私、見たことないから。』

「え?花火を?」

『だってこの島じゃ花火なんて上げても人が集まらないでしょ?』

「そっか…じゃぁなんで今年から花火大会なんてやろうとしてんだろ。」

『観光客を呼んで島を活性化させるとかなんとかみたい。だけど島のみんなは、"そんなことしたら本土の奴らに自然を壊される"とか"この島の伝統に傷がつく"とかで何年も前から反対してる。』
そこでやっとポスターに書いてあった言葉に納得した。
「だから"計画"とか"本年度実現!"とか書いてあったんだ。でも赤嶺さんは見たいんでしょ?」

『うん。最後におっっきな花火見てみたい。』

「え?」

『ううん、何でもない。だけど絶対見たいんだ。』

俯くその顔の瞳がとても寂しそうに見えた。
ただ、"花火が見たい"その言葉に、何かしてやりたいって思った。
コイツは何にも言わないから。

そうだ、このカメラで花火を撮って写真をあげよう。
そしたらコイツ、喜ぶかな…

そんなことを考えていた時だった。

『おーい誠司ーっ!!いい写真撮れたかー??』

背後からの声に振り向くと、階段の上の道路に停めた車内から父さんが手を振っていた。

「今探してるとこー!!」
『そっかー!!頼むなー!!無茶はすんなよー!』
それだけ言って父さんの車は崖の影に消えていく。新しい会社でも行ってたのかな。
『お父さん?』

「そ。この仕事の依頼主っ。あ、そうだ。さっきの話だけど…」



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