海の声

漆湯講義

11.新たなる光へ

「コレ晩飯??」

見事にズラッと並んだ既製品を指差して不満気な声で母さんに問いかける。
っまぁ寿司だから嫌ではないんだけどさ。

『ごめんねこんなんで。やっぱりお店少ないのね。何とかスーパーは見つけたんだけど車で30分もかかっちゃった♪』
そう言って母さんは歳に似合わない無邪気な笑顔で答えた。
「だから田舎は嫌なんだよ…あ、そうだ。母さん、コレ直せる??」

そう言って俺は先程磨きあげたペンダントを差し出した。

…俺の母さんは副業としてアクセサリーやペンダントを作ってはネットで販売する仕事をしている。
小さい頃は、いい事をすると"ご褒美"として首から下げる"メダル"を作って俺にくれた。
それもダンボールにまとめて押入れの奥にしまってあったけどどうしたんだっけ…
なんて話は後にして…そんな事もあり、腕は確かだからこのペンダントの修理を依頼する事にしたのだ。

『あら…水晶じゃない。あの…占い師とかが使ってる石。どうしたのコレ?』

「海岸で拾った。てか水晶って高いの??」

『まぁピンキリじゃない?コレくらいだったらそんなに高くはないと思うけど。』

「なぁんだ。せっかく売れると思ったのに。」

まぁビビリな俺は昼間の出来事のせいで売るなんて怖くてできないんだけどさ。
…じゃぁコレずっと持ってなきゃいけないのか?

そんな事を考えてるうちに、母さんはダンボールから自分の仕事道具を取り出して修理を始める。

俺は母さんを横目にスーパーの寿司を食べる。

やっぱカニサラダがうまい!!

『そういえば海に落ちたのは"誰かのせい"って言ってたけどなんかされたの?』

母さんは黙々と作業を続けている。

「あぁ…変な女子だよ。同い年くらいの。アイツがいきなり声かけてくるから落ちたんだよ!しかも謝りもせずにいきなり走ってどっか行っちゃうしさ!」

すると母さんは微笑んで俺を見た。

『もう友達できたんだ♪良かったわね。引っ越しして。』

「別に友達なんかじゃねーし。しかも友達なんていらねーよ。もう。」

『そんな事言わないの。友達は一生の宝って言うじゃない?夏休み明けから新しい学校なんだから、心機一転友達たくさん作ってきなさい♪』

なにが"一生の宝"だよ…

「だから友達なんていらねーよ!!」

俺は両手でテーブルを叩きつける。

それを予知していたかのように母さんはこちらも見ずに仕事道具をひょいと持ち上げて静かにテーブルに置くと、優しい笑顔でペンダントを差し出した。


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