転生しました。本業は、メイドです。

岡パンダ

ー17ー


内容を修正、変更しました!!
すみません!


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「……おかしいですわ。」

となりに座るマリアさんが時計を見て呟いた。

「確かに……もうとっくに森を抜けてもいいはずだね。」
マリアさんの言葉に正面に座るリカルド様が険しい表情で窓の外を見て言ったのでわたしもつられて窓の外を見ると、まだ夕方の筈なのに薄暗く薄気味悪い雰囲気だった。
行くときは薄気味悪さなんて少しも感じなかったのに。まるで別の空間のように雰囲気が全く変わっていた。


「大丈夫だよシルヴィア、僕がついてる。」
わたしの不安オーラが伝わってしまったようで、
そう言ったリカルド様は席から乗り出すとわたしの両手を自分の両手で優しく包み込みニコリと笑った。

12歳とは思えぬ色気と仕草がわたしの精神にダイレクトアタックを仕掛けてきた。

あ。このセリフとこの微笑み、人を殺せますわ。

「リ、リカルド様、ありがとうございます!」

「どういたしまして。」

またその微笑み!!色気!!
早く免疫をつけないとわたしは死んでしまいます……。


「ゴホンッ、お邪魔をして申し訳ありませんが、緊急事態です。」

わたしが勝手に生死をさ迷っていると、隣に座っていたマリアさんがわざとらしく咳払いをした後わたし達に言った。
マリアさんありがとう!あやうく免疫つく前に旅立つ所でしたわ!

って、緊急事態!?


「…!、いつのまに!」
マリアさんの言葉にリカルド様は何かを感じ取ったようで険しい表情になった。

「リカルド様……緊急事態って……。」

ん?何やら馬車の外が騒がしいような……。あと何かモヤモヤ感じる…これは……。

「シルヴィア、この馬車は何者かに囲まれている。」
「え!?」
リカルド様に言われてバッと窓の外を見ると黒い何かが馬車と並走している。しかもたくさん!

「あの黒いのは何ですか!?魔獣ですか!?」
パッと見シルエットは犬のようだが真っ黒で目もわからないし、何より靄を纏っていて形がハッキリしていないような感じがする。
「わからない。魔獣はこの森にはいないはずだけど、普通の動物ではないね。魔力を感じる。」

モヤモヤ感じたのは魔力だったんだ。こんな嫌な感じの魔力は初めてだわ。う、気持ち悪くなってきた……。

「気持ち悪いですわ……。」
「魔力が高いから魔力を感じやすいんだね。そうだシルヴィア、そのブローチを両手で包み込んでごらん?」
そう言ってリカルド様が指差したのは私の翡翠色のブローチだった。
メルから貰った大切なブローチ。

「これをですか?」
「うん、早くやってごらん。」

半信半疑ながら言われた通りブローチを両手で包み込んでみる。
「……あれ?」
包み込んですぐにさっきまでの気持ち悪さがスーっと無くなった。それにほわっと温かく感じる。

「気分は楽になった?そのブローチには君を守る魔力が込められているんだよ。淡く光っているだろう?君を害する魔力に反応しているんだ。」

確かによく見ないとわからないが、宝石は淡く光を放っていた。
プレゼントしてもらってから一年以上経つけど、
魔力が込められていたなんて全然わからなかった。
「そんなに魔力は高くないけど、この程度なら十分守ってくれるよ。」

じわっと目頭が熱くなった。
メル……ッッ!!

「シルヴィア、感動してるところ悪いけど、……馬車、止められちゃったみたいだ。」
「!?」

わたしがメルへの思いを爆発させいる間に状況が悪化してしまったようだ。
確かに、馬車が走っている感覚が無い。

「外でラウドとヴァイエルが交戦している。今外に出るのは危険だからしばらくこのまま辛抱してね。」

確かに耳を澄ますと馬車の外から獣の鳴き声と剣が交わる音が聞こえる。……ん?剣が交わる音……?
「剣を交える音が聞こえる気がするのですが……?」
「シルヴィアも気がついた?敵は獣だけでは無いようだ。」
えー!?
獣沢山に加えて人も?!そんな相手に二人なんていくら国家騎士団と言えど分が悪すぎる。

「どうしましょう ……このままでは、お二人が……。」

「シルヴィアは本当に優しいね。」
そう言われてパッとリカルド様を見ると、リカルド様は困ったようにわたしを見て微笑んだ。
「リカルド様?」
「二人ならきっと大丈夫だよ。僕は二人を信頼してる。だから僕はここで君を守ることに専念するよ。」

リカルド様が今度は凛々しい笑みをわたしに向けた。その笑みとセリフにわたしの心臓が跳ね上がり、わたしはまた死にかけた。


「はっはっはっ、かっこいいねぇ~ナイト様。」
「!?」
突然声が聞こえたと思ったらバンッと勢いよく馬車のドアが開いた。
現れたのは顔が見えないくらいフードを深く被った大柄の男。
いかにも怪しい!いかにも悪そう!

「何者だ!」
リカルド様はいつのまにか腰に差していた剣に手をかけ、わたしを背中に隠しながら叫んだ。
背中側でもリカルド様の殺気がピリピリと伝わってきて少し震える。

「いい殺気だなぁ~ぼうや。質の良い馬車、腕の立つ護衛、おまけにぼうや自信も腕も立つし別嬪さんってか?相当良いとこのぼっちゃんなんだなぁ~。お前ならいい金になっただろうが、残念ながら今回のターゲットはそっちのお嬢ちゃんなんだよなぁ~。」

あれ?この人たち、リカルド様が皇太子殿下だって気づいてないの?
って、標的はわたし!?

「どういうことだ!」

「だ~か~ら~俺たちの狙いは、そこにいるシルヴィア・グランベールちゃんってこと。詳しくは言えね~よ。さぁ、さっさとこっちへお嬢ちゃんを渡して貰おうか。」

「断る。」

剣を抜いたリカルド様が茶色フードの大男と対峙している。
体格差は歴然だ。

「はは、本当に格好いいね~、だがこっちもお仕事なんでね。うぉりゃぁっっ!」

大男はそういうとリカルド様に向けて剣を振り下ろした。
あぶないっっ!

ーーガキィィーーンッッ!
「くっ!」
「リカルド様!!」
「いけません、シルヴィア様!!」
リカルド様は怯むことなく大男の一撃を受けると、なんとか弾き返した。

その後リカルド様が少しフラついたので、思わず駆け寄ろうとしたがマリアさんに腕を掴まれてしまった。


「やっぱお前ただのガキぢゃねぇな。ここで潰しとくか?」

男はそれに満足げにニヤつきながら物騒な事を口する。
潰す?殺すって事?リカルド様を?

「そんなのダメよ!!」
思わず叫んでしまった。

「威勢のいいお嬢ちゃんだなぁ~、冗談だよ。ま、本当はこのガキを潰しておきてぇが、残念ながら時間がねぇ~んだわ。だからさっさとお前を連れて撤収だ撤収~。そりゃぁ!!」
「させない!!」
わたしとマリアさんを守るように立ちはだかるリカルド様に向けてもう一度大男は剣を振る。
ガキィィーーンッ
また激しく剣がぶつかり、今度はそのまま押し合いになった。ギチギチギリギリと両者一歩も引かない。

何度も言うがリカルド様はわたしと同じ12歳!
それなのに年も(推測)体も倍以上の相手と対等に戦っている。
同年代の異性との交流(同性も)があまり多くないわたしでもリカルド様は別格だとわかる。
すごい、すごいですリカルド様!
頑張ってリカルド様!



「はっはっ、悪いね、ナイト様。」
「!?」
わたしが一生懸命リカルド様を心の中で応援していると、突然こちらを向いている大男の口元がニヤリしたのがわかった。

それにゾクッと感じた瞬間、私とマリアさんの目の前に黒い塊がにゅっと馬車の床から現れた。目も口も無い黒い靄を纏った異質な獣。

馬車の周りを走っていた獣だ!
マリアさんとわたしは獣から溢れ出る魔力に恐怖で腰が抜けてしまって逃げられない。マリアさんが私を抱き締める。どうしよう、絶対絶命だ…。

「くそっ!シルヴィア!」
その光景に咄嗟に反応したリカルド様が、強引に男の剣を押し退けこちらに向けて手を伸ばすのが見えた。


「連れてこい。」
非情にも、リカルド様の手が届く前に男の声に反応した獣が黒い幕のように姿を変えわたし達に覆い被さってきた。
「リカルド様ぁーーーー!!」
なんとか私も手を伸ばすがやっぱり届かなかった。そしてそのまま私とマリアさんは完全な暗闇に飲まれてしまった。


飲まれた瞬間、真っ暗な空間にポーンっと放り出され、ふわふわゆらゆら浮いた状態になった。
今まで感じた事の無い不思議な感覚。


マリアさんはどこだろうか。
狙いはわたしだけのようだったし、マリアさんだけでも外に出られていればいいな。

わたしはどうなってしまうのだろうか。

このままわたしは死ぬのだろうか……。

まだ、やり残したことがたくさんあるのに。

リカルド様とせっかく友人になれたのに。

婚約者という大役を任せてもらえたのに。

アーノルド様と仲良くなれたのに。

これからたくさん友人を作ろうと思ったのに。

恋愛もしてみたかったのに。

メルに今日の話したかったのに。

メルとお土産のお菓子食べたかったのに。




メルに、お守りのお礼言いたかったのに。

今もこんな真っ暗な中にいるのに、このブローチのお陰で全然気持ち悪くないし、暖かいよ。

ありがとう、メル。

会いたいよ、メル。



すごく眠くなってきた。とうとうわたしは死ぬのかな……。
ごめんね……メル。
ずっと一緒にいるって……約束……したのに。

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