音の魔術師 ――唯一無二のユニーク魔術で、異世界成り上がり無双――

ふぁいぶ

第二十九話 楽器を手に入れたぞぉ!!


 父さんに負けた俺は、ちょっと落ち込みながら体育座りをしていた。
 負けたのも悔しかったけど、俺が編み出した《無明》を、魔法なしで再現されたって事実が一番堪えたなぁ……。
 俺は一度使ったら右腕がしばらく使い物にならないけど、父さんは特に問題ないってのもショックだ……。
 俺は他の生徒の戦いっぷりを見ているふりをしながら、ぼーっとしていた。
 あれが、父さんの本気。
 《猛る炎》の本当の実力、か。
 くそっ、俺はまた天狗になっていたようだぜ……。

「ハル、大丈夫?」

「ハル君……もう痛くない?」

 気が付いたら、俺を挟み込むように、俺の右側にレイが、左側にはリリルが座っていた。
 あぁ、心配してくれたんかな?

「ああ、大丈夫。でも、負けたのが悔しくてさぁ」

「でも凄かったよ。あの《猛る炎》とあそこまでやりあえるんだ、僕もすっごく興奮した!」

「うん、ハル君とっても格好良かったよ! でも、お腹に攻撃受けてたの、本当に大丈夫?」

「それについては、リリルが治してくれたから問題ないさ。ありがとうな」

「……えへへ」

 でも、惚れた女に応援されたのに無様に負けたんだからなぁ。
 やっぱり落ち込んじゃうぜ……。
 俺は顔を下に向けて、あからさまに落ち込んだ。
 そんな俺を見て、レイとリリルはくすりと笑う。

「じゃあそんなハルが一発で元気になる情報を与えよう。《リューン》が今朝、屋敷に届いたよ」

 ガバッ!!
 俺は勢いよく顔を上げた。
 マジで!?
 ついに、《リューン》が出来上がったか!!

「学校が終わったら、今日にでも僕の屋敷に取りに来てよ、リリルも一緒にね」

「行く! ぜってぇ行く!! ありがとう、レイ!!」

「わっ! み、皆が見てるよ!!」

 俺はあまりにも嬉しくて、レイに抱き付いてしまった。
 あぁ、良い香りがするなぁ。
 まだ俺の体はガキだから、ムラムラしないのが残念だ。
 ……何が残念なんだろうか?

 すると、誰かから脇腹をつねられた。

「いたぁぁっ!! ……リリル?」

「…………レイちゃんだけ、ずるい……」

 うおおおおおおおおっ!
 この子、下から上目使いで目を潤ませて俺を見てきますぜ!
 小悪魔よ、この子将来小悪魔になるわ!!
 
「わりぃわりぃ! リリルの事忘れてないからな!!」

「きゃっ、……えへへ」

 リリルにも抱き付くと、リリルは嬉しそうにしてくれた。
 やっべぇな、俺。
 幸せすぎる、マジで幸せすぎる!
 俺、運を使い果たしてるんじゃないかな。
 周囲から恨みが籠った視線を無数に浴びているが、知るか!
 
 とりあえず、俺の野望が実現しそうだ!












 さて、《リューン》について説明しよう。
 このリューンとは、楽器だ。
 どうやらこの異世界、あまり楽器が普及しておらず、このリューン以外はないようだ。
 ちなみにリューンは、見た事ないから何とも言えないけど、どうやらギターっぽい。
 もしギターなのであったら、ピアノの次に得意な楽器だ。
 次いでに俺の野望についても説明しよう。
 俺は、前世で培った演奏技術と作曲能力で、偉大なる音楽家として名を残す事だ!
 この異世界には娯楽がとんでもなく少ない!
 音楽に関しての情報は、何も仕入れる事が出来ていないから、これも何とも言えない。
 だが、無数の音楽家や作曲者がいた前世において、日本だけじゃなく外国からも仕事の依頼が来ていた俺なら、絶対に偉大なる音楽家になれるはずだ!
 いや、絶対になってみせる!
 それが前世でやり残してしまった、俺の密かな野望。
 今世で、俺のその野望を絶対に、絶対に実現してやる!!

 その第一歩を、俺はレイの屋敷の客室で踏み込んだ。
 ちなみに何故リューンを貰う話になったかと言うと、レイを助けたお礼を形として示したいと言われたのだ。
 俺は悩んだ末に楽器を所望した。
 そういう流れでリューンを貰う事になったのだが、どうやらハンドメイドらしく、出来上がるのに一年近くかかるのだそうだ。
 まぁ俺は首をなが~~~~~くして待っていたのだが、今日ついに完成して届いたのだ!!

「ハル君、お待たせしたね」

「ありがとうございます、お養父さん!」

「おと……! うん、はい、どうぞ」

 俺とレイは、一応ご両親の承諾の元、お付き合いをしている。
 まぁ会う度に「まだレイに、手を出していないだろうね!?」と血涙を流しながら言われているので、首を縦に振って答えている。
 目が怖いよ……。

 レイのおじさんからリューンが入ったケースを受け取った。
 おおっ、大きさはまさにギターだぜ!
 さっそく俺はケースを開けて、中身を見た。
 レイとリリルも、俺の横から覗くように見る。

「「「おおおおっ」」」

 俺達三人は、感嘆の声を漏らした。
 いやいや、だってすっげぇ上物だってのがわかる位、良い出来なのさ!
 見た目はまんまクラシックギターだった。
 そこにちょっとしたアクセントとして、模様がペイントされている。
 うん、フィンガーボード部分にフレットが付いている。
 フレットの数も前世のギターとまんま同じだ!
 うわぁ、マジで感動する!

 早速俺は、ケースからリューンを取り出して持ってみる。
 ……あぁ、懐かしいな。
 異世界でまさか、ギターに出会えるとは。
 もしなかったら、いつか俺が自力で作ってやろうとは思っていた位欲しかったんだよな!
 ケースにはピックも入っていた。
 ほうほう、ピックの形も前世のと同じだなぁ。
 うんうん、行き着くとこうなるよな!

「ほほぅ、なかなか様になっているじゃないか、ハル君」

 レイのおじさんからお褒めの言葉を頂いた。
 あざーっす!!

「本当に様になってて、とっても格好良いよ、ハル」

 レイにも褒められた!
 照れるだろ、やめろよ♪

「…………」

 リリルは何も言わず、俺をただただ見つめていた。
 そんなにガン見されると、俺まで顔が赤くなるんですけど!

 まぁ、試しに弾いてみるか。
 後、俺の歌も試してみたい!
 ちょうど三人と使用人さんが五人いるんだ、ギャラリーには十分だろ!
 ……俺は女神様の所で美声をポイント購入しているんだ、きっと歌声もいいはず!!

 ん~、何を弾こうかな。
 その時、俺の頭にとある曲が流れた。
 うん、いいかもしれないな。
 久々に弾くんだし、オリジナル曲じゃなくて既存の曲でもいいだろうよ!

 尾崎豊の、《I LOVE YOU》だ。

 本来この曲はピアノで演奏するんだが、今はこいつでやってやる。
 それは頭の中で流れるメロディをギター曲へ編曲する。
 即興だ、雑な部分はあるかもしれんけど、十分だろう。

 俺はギターで曲を奏でる。
 ――あぁ、尾崎豊はまさに、俺の青春だった。
 あの命を削って絞り出しているような歌声は、俺の感情を刺激した。
 彼が伝説って言われるのも納得出来る。
 そんな彼が作った曲の中で一番好きなのは、この《I LOVE YOU》だな。
 俺は前世では恋愛なんざしてこなかったが、二人きりの貴重な時間を表現した歌詞は本当に好きだ。

「な、何て柔らかい音色なんだ……!」

「本当、初めて弾くのかしら!?」

「何か、僕、ちょっと泣きそうなんだけど!」

「ハル君……!」

 レイの両親と使用人、そしてリリルとレイが驚いてくれている。
 まだ驚くのは早い!
 この曲は、歌が入ってからが本番だ。

 俺如きが彼の歌声を真似る事は到底出来ない。
 だが、俺も出来る限りの命を削って、そいつを歌に乗せよう!

 俺は、俺とレイとリリルが、三人だけで愛を確かめている映像をイメージする。
 お互いの体温を抱き締めて確認し合い、言葉で愛を呟き合い……。
 愛しい人との時間を、体全体で感じる、そんなイメージ。
 俺達はまだガキだ、本来の歌詞はもう少しアダルティを匂わせる描写なんだが、これくらいで十分だ。

 俺は、歌を紡ぐ。

 ――――あぁ。

 すごく、素直に、歌声が出た。
 前世で味わったあの不快感はない。
 俺の歌声は、間違いなく魂が乗っている。
 そのまま紡ごう。
 尾崎豊が作った、この歌を。
 そして、俺が初めて得た恋愛を、この愛情を、リリルとレイに届いて欲しい。
 今歌に乗せている感情は、この二人に対する気持ちだ。
 届け、届け!

 たった四分を少し越えた程度の短いラブソングだ。
 俺はもっと想いを込めたい。
 だけど、短いかもしれないけど、届いたか?
 
 歌い終わった俺は、二人を見てみる。

 二人共、泣いていた。

「ハル……何かね、何かね、言葉は意味わからなかったけど、僕はすっごい嬉しいんだ……」

「私、も……。何か、ハル君の気持ちが、伝わってきたよ」

 日本語で歌ったからな、全く別の言語を使っているこの世界だと、絶対に意味は通じないと思う。
 でもいいや、この二人には間違いなく、伝わっているだろうから。
 俺は、愛しい二人の頭を、優しく撫でた。
 届いたか、よかった。

「……もう、素晴らしいの一言しかないな」

 ん?
 その声の持ち主の方向を振り向いてみる。
 すると、知らないおっさんが立っていた。

「誰!?」

 俺は思わず口に出してしまった!
 だってさ、こんな素晴らしいラブソングを歌い上げた余韻に浸っているのに、このちょび髭おっさんはぶっ壊しやがったんだからさ!

「おっと失礼。私は《王都リュッセルバニア》から来た、《アーバイン・シュタインベルツ》という。しがない音楽家だよ」

 ほほぅ、この白髪の頭髪と髭をきっちり形を整えているナイスミドルなおっさんは、音楽家だったのか。
 黒の燕尾服に蝶ネクタイ、黒のシルクハットを被っていて、黒のスティックを持っている。典型的な紳士って感じだ。

「しがない訳ないだろう! ハル君。彼は私の友人なのだが、王都では知らない者がいない程の音楽家だ」

 レイのおじさんの友人か。
 どうやら、おっさんがリューンを持ってきてくれたみたいだ。

「しかし、何という素晴らしい演奏だ。だが歌が気になる。あれは何語だね?」

 うっ。
 そこ聞かれると弱るなぁ……。
 うん、サウンドボールのせいにしよう!

「実は俺の魔法は音属性のユニーク魔法でして、あらゆる音を出す事が出来ます。――異界の音楽もね」

「なっ!?」

 アーバインさんだけじゃない、この場にいる全員が驚愕していた。
 うん、まぁ大事になりそうな予感がするが、別にいいや。

「俺が繋いでいる異界の音楽は、俺達の世界より遥か先へ進んでいます。様々な楽器や曲の種類、それはもうどんな人でも手軽に聴ける位に」

 この世界の音楽は、貴族などお偉いさん達用の、言うなら金がかかる趣味だ。
 演奏してもらっては、満足できたら高い報酬を払う。
 とても一般庶民じゃ払えないレベルの額だ。
 凄い人は、一回の演奏で300万ジルを貰うらしい。
 ま、俺からすれば馬鹿馬鹿しいけどね。
 音楽ってのは、誰にでも聴く権利があるんだ。
 まぁそんな状態の、この世界の音楽事情をぶっ壊したいんだけどね。

 とにかく、俺が話した事を聞いて、皆驚いていた。
 試しに様々な曲を流してみると、皆びっくりしたり、自然にリズムを取っていたりした。
 そそ、歌は理解出来なくても、言語の壁を越えるのが音楽ってもんさ。

「なるほど、いやぁ今日はいいものを聴かせてもらったよ。音楽を極めたつもりでいたが、まだまだだね」

 このおっさん、何かふざけた事をほざいたな。
 聞き捨てならねぇな。

「は? 音楽なんて、一生掛けても極めらんないっすよ」

「ほう?」

「音楽は生き物だ。人が周囲の環境によって変わるように、音楽も時代の……いや、人々の思いによって色々変わっていく。そんなの、一生掛けても極められる訳ないっしょ?」

「――確かに」

「名が売れてる程度でそう思ってたんだったら、音楽家としては終わってるんじゃないですかね、アーバインさんよ?」

 正直言おう、この世界の音楽は拙い。
 ただ適当にリューンを奏で、後は当たり障りない歌詞で歌うだけだ。
 そんなん、吟遊詩人の方が数倍まともなレベルだ。
 それを極めただぁ!?
 このちょび髭、随分とお高く止まっているから、正直ムカッと来た。

「音楽ってのはな、人を感動させたり出来る反面――」

「反面?」

「――人を、殺せるぜ?」

 アーバインさんは、少し怯えたような顔をした。
 事実、音楽は人を殺せる。
 妄信的になればなるほどだ。
 それだけ音楽というのは、大きな力を秘めている。
 人間にとっては生活に必要不可欠なファクターなんだ。
 こんなの、極められないさ、一生な。

「そんな武器にも成り得る音楽を極めただぁ!? ちゃんちゃらおかしいね! 少し、音楽を舐めないでもらおうかい!?」

 俺は、音楽家として名を残したい。
 だけど、それは音楽の頂に辿り着きたいっていう意味じゃない。
 俺は、俺が作った曲で感動してくれて、鼻唄を歌ってくれる位に皆に聴いて欲しい。皆の心の中にとどまって欲しい。
 そして、俺を知って欲しい。
 そうやって活動していけば、いずれは結果が着いてきて歴史に名を残せる。
 俺が今まで作った曲は、苦しみもがき、嘔吐してまで作り上げた魂達だ。
 本当に命を削って産み出した曲達だ。
 だから、目の前のこいつは許せない。
 そんな魂を込めていない曲ばかりを量産して、極めたとお高く止まっているのは、本当に無性に腹が立った。

「……わりぃ、リリルにレイ。ちょっと気分が悪くなったから、帰るわ。お養父さん、リューンをありがとう」

 俺は不機嫌マックスでレイの屋敷を出て、帰路に着いた。
 ……やっべぇ、やっちまった!
 今思ったら、あのちょび髭、レイのおじさんの友人じゃん!
 これをきっかけに、「娘との交際はなしにする!」って言われたらどうしよう!?
 あぁぁぁぁぁぁぁ、やっちまったよぉぉぉ~……。
 サウンドボールよ、タイムリープ出来ねぇか!?
 俺はサウンドボールを生成して聞いてみた。
 すると、サウンドボールから声がした。
 前世で聞いた、あの有名な映画監督でお笑い芸人の声だ。

『出来る訳ねぇだろバカヤロっ!』

 ですよねぇ……。
 うわぁぁ、明日レイに会うのこえぇぇぇぇっ!!


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