音の魔術師 ――唯一無二のユニーク魔術で、異世界成り上がり無双――

ふぁいぶ

第二十三話 俺VS傭兵達


 さて、父さんの名がこんなにも有名だったのは大誤算だったな。
 俺としては、ちょっと動揺してくれたら、何とかこの二十人以上はいる傭兵達を一人で戦う事は出来ると思ってたんだけど。
 動揺どころか、オロオロしてくれちゃってるよ!
 ラッキー、戦いとは心理戦なのだよ、心理戦!

「いいかお前ら、あの子供はかの《猛る炎》の息子だ。一筋縄ではいかないだろう、油断しないで全力でかかれ!!」

 えっ、何?
 急に本気になった?
 ちょっとちょっと、やめてよ!
 いたいけな七歳に本気になるなんて、大人げない人達だわなぁ!!
 まぁいい、俺のやる事は変わらない。
 だけどレイの屋敷の玄関で戦うのは、ちょっと狭いな。
 なら、あれをぶっ放してみるか!!

「レイのおじさんとおばさん!」

「な、何かね?」

「今から玄関の扉、盛大に壊しちゃうけど、許してね!」

 俺はウインクして舌を出した。
 全員「は?」っていう顔をしている。
 まぁそうだろうな。
 レイに至っては、「ないわぁ」みたいな表情だ。
 うっせ、こっちは戦いの時はある程度気持ちに余裕がないと、調子が出ないんだって。

 俺は左手にサウンドボールを八個生成し、集めた。
 そして、出した指示は《マッハ1で飛ぶ戦闘機の音を発生させる》と、《マッハ1で前進》だ。
 これによって、とんでもない副産物が生まれる!

「行け、《ソニックブーム》」

 すると、屋敷には耳を塞ぎたくなる位の爆音が鳴り響く。
 俺はすでに、《遮音》のサウンドボールで音を塞いでいるから問題なし!
 爆音が鳴って一拍置いた後、前方に強烈な衝撃波が生まれた。
 衝撃波は扉どころか扉周辺の壁すらもぶち壊し、さらには目の前にいた傭兵達とゲーニックも容赦なくぶっ飛ばした。
 ぶっ飛んだ距離は、おおよそ五十メートル。
 いやぁ、あんな人数が一斉に飛んでいくのはスカッとするな!!

 これが俺が前世の記憶を探りに探って編み出した、唯一の直接的攻撃魔法、《ソニックブーム》だ。
 まさか、俺のサウンドボールでソニックブームを再現出来るとは思わなかったわ。
 でもこれは連発出来ないんだな。
 理由としては、射出する際に左腕にも衝撃が来てしまうんだ。
 七歳の体では、まだこの衝撃には耐えられない。
 今でも痺れが残っているしな……。
 撃てて後二発かな?
 要研究だな!

 おっと、傭兵達がよろよろと立ち上がった。
 意外と頑丈だね、彼らは。普通なら骨折とかしてうずくまってそうなのに。
 俺は剣を構えて、屋敷の庭へと出た。
 左手を右から左へ流れるように移動させ、庭全体にサウンドボールを百五十個生成して浮遊させる。
 そして一つ一つを魔力の糸で繋ぎ、《集音》と《伝達》の指示を与えてある。
 魔法戦技で俺がやった、周囲の音を拾って俺の聴覚細胞へ伝達させる方法だ。
 これで俺に死角はなくなった訳だ。
 次いでに、今回も俺の気分を盛り上げてくれる楽曲を流す。

 今回は、ショパンが作曲した《革命のエチュード》という曲だ。
 多分、《革命》という名前の方が浸透しているだろうな。
 これは俺がピアノを挫折しそうになった位難しい曲だ。
 ショパンはこれをピアノの『練習曲』として作曲したらしいが、そんな事はない!
 左手を繊細にミスをする事なく指を動かし、右手ではその激しい怒りを力強く表現するのだ。
 ミスをした瞬間に、この革命は台無しとなる。そういう曲だ。
 でも不思議な高揚感が生まれる。
 この曲は、戦闘に向いているのかもしれない。
 故郷が革命に失敗して敗戦した知らせを聞いたショパンは、怒りをこの曲にぶつけたとされている。
 その怒りが、今の俺にはぴったりなのかもしれない。

 俺は曲が流れた瞬間に、走り始める。
 そして目の前にいた傭兵の一人を、左下から右上へ斬った。
 この傭兵達はあろう事か鎧を着けていない。
 まぁ従者って事で来ていたんだろうな。
 俺としてはありがたいけど。
 俺の斬撃は傭兵の右脇腹から入り、左肩を通過した。
 鮮血が勢い良く出て、斬られた傭兵はそのまま崩れて倒れた。
 俺は間髪入れずに次の傭兵へと走り出す。

「やばい、このガキは正に《猛る炎》だ! 《ウィード流剣術》を極めていやがる!!」

 えっ、そんな流派を掲げてたのか、父さん?
 まぁいいや、今はとにかく、こいつらをぶっ潰して、ゲーニックの野郎にお仕置きしてやる!!

「食らえ、ガキがぁぁぁっ!!」

 俺の左方向から、別の傭兵が斬り掛かってくる。
 そちらを見てみると、剣を上段に構えて今にも全力で降り下ろそうとしている。
 俺は受け止めようと思ったが、不意に父さんの言葉が頭の中をよぎった。

『集団戦では絶対に斬撃を受け止めようとするな。剣先を斜め下に向けて、その斬撃を受け流せ』

 俺はその言葉の通りにする。
 すると、相手の剣は俺の剣に接触するが、俺の剣先が向けている斜め下の地面へ斬撃を逸らされて突き刺さってしまった。
 おおっ、これが受け流しか!
 斬撃を受け止めるのと違って、俺の体に衝撃は一切ない!
 これは便利だ。
 受け流した後、相手は前屈みの状態になっていたから、俺は相手の首を斬った。
 でもやはりガキの体だから、そこまで斬撃に重みはない。せいぜい静脈部分を斬る程度だったが、勢い良く血が出て倒れた。
 するとサウンドボールが背後から忍び寄る足音を広い、俺へ伝達してくれた。
 これは走っている音だな。そして、最後の一歩がとても力強い。
 背後から斬撃が来る!
 俺は背後を確認しないで前方に飛ぶ。すると、背後から斬撃が空を切る音がした。

「な!? 俺を見ないで避けただと!? こいつの後ろに目があるのか!?」

 なぁに、簡単な事さ。
 剣による攻撃は、最後の一歩は力強く踏み込む。
 特に走ってからの斬撃はね!
 俺はそれをサウンドボールで聞き、踏み込んだ音が聞こえた瞬間に斬撃の射程範囲外へ移動したのさ。
 俺はまだ七歳のガキだ。そんな体に長く戦える体力はない。背後を振り向くのも大なり小なり体力を使ってしまうから、俺はそういった無駄をサウンドボールをフル活用して省いている訳だ。

 さらに父さんの言葉がよぎる。

『集団戦において、絶対やってはいけないのは斬る相手を間違える事だ。最優先で斬るのは視界に入っている敵だ』

『例えば正面の敵を斬り捨てたら、背後から来た敵に対して斬り捨てた敵を盾にしたりとかな。それで動揺を誘えるし、正面の敵を処理しただけで様々な選択肢が増える訳だ』

『いいか、剣を向けられるって事は命のやり取りをするって事だ。慈悲を掛けるな、遠慮なくやれ。躊躇したらハルが死ぬぞ? そして斬るなら殺すか、せめて戦闘不能にさせる傷を与えろ』

 これは全部、父さんから過去に教えてもらった言葉だ。
 あぁ、わかったよ父さん。
 俺は戦いでは遠慮は絶対しない。
 こいつらに、慈悲を与えるつもりは元々ねぇけどな!

「くそっ、くらえっ!!」

 視界に入った敵が上段から降り下ろそうとしている。
 全く以て隙がありすぎて、俺は水平に相手の腹を剣で斬った。
 断末魔を上げて地面に倒れて悶絶しているが、そんなのは気にしない。剣の腕が俺より未熟な相手が悪い。

 おっ、サウンドボールが詠唱する声を拾った。
 誰かが魔法を放とうとしている。
 数は――九人!?
 それは流石にまずいでしょ!
 俺は急いで詠唱している奴等の場所を特定、そいつらの口に《遮音》の指示を与えたサウンドボールを吸着させる。
 ――よし、詠唱を遮ったから魔法は中断させられたぜ。
 って、一人無詠唱でぶっ放せる奴がいやがる!
 こればっかりは目視しないと避けられない!
 俺は足を止めて、ぐるりと体を回転させて見てみる。
 いた! って、随分後方にいるな!
 距離からして、約百メートル程か。遠いけど、無詠唱出来る奴は真っ先に潰さないと、俺が不利になる。

 俺はそいつに向かって走り出す。
 無詠唱だからどんな魔法をぶっ放すかわからないけど、広範囲の魔法じゃないのは確かだ。
 そんなの撃ったら、味方まで被害が及ぶからな。

「行かせるかよ!!」

 俺の左方向から攻撃を仕掛けてくる奴がいる。
 俺は敵の近くにいたサウンドボールに、《奴の耳元で爆発音を鳴らせ》と指示を出す。
 そして斬り掛かってくる敵が耳元で爆音を聞き、耳を押さえて「ぐあぁぁ……」とうずくまって攻撃を中断した。

 再び真正面の敵に意識を向けると、掌が赤く光っている。
 火属性の魔法か!
 火属性の魔法は攻撃力が高く、どれも当たったらひとたまりもないんだよな。
 恐らく相手が撃とうとしているのは、《ファイア・ボール》という、火属性では初級にあたる魔法だけど極めると的の体を抉れる程の攻撃力を持てる心強い魔法だ。
 そんなの喰らいたくないから、ちょうど右方向から攻撃してきた敵の腹を斬り、襟元を掴んで盾にした。
 魔法を使っている敵は中断しようとしたが、すでに遅い。奴は撃っちまったんだ。
 予想通り《ファイア・ボール》だった。放った火の玉は盾にした敵に着弾、ボンッと爆発音と共に強い衝撃が来る。
 盾にした敵は恐らく死ぬだろうが、こっちも命がかかってる。悪く思うなよ?
 俺は盾にした敵をどかして魔法を放った奴との距離を詰めた。

「ひっ、く、来るな!?」

「おいおい、自衛出来ねぇと痛い目見るぜ? こんな風にな!」

 俺は剣先を相手の腹目掛けて突き出した。
 みるみると俺の剣は相手の腹に吸い込まれるように刺さり、剣の長さの三分の一位まで突き刺さった。
 俺は剣を引き抜いた後、とどめに傷口を蹴り飛ばした。
 相手は倒れて悶絶している。

「た、《猛る炎》の再来だ……」

「か、勝てる訳がねぇ!」

「さっきから変な音が鳴ってるが、これは魔法か!? 魔法なら無詠唱だ!!」

 敵は明らかに動揺している。
 まぁそりゃそうだよな、七歳のガキにコテンパンにされてるんだからな。
 でも俺も何だかんだで、体力がヤバイっす。
 余裕そうに見えてるけど、息が切れ始めた。
 だから、短期で決める!
 残り十五人か……しんどいな。
 しかし、実力は父さんと比べると相当低い。何とかなるだろう。
 すると今度は、母さんの言葉が頭によぎった。

『いい? ハル、男の子はね、時に女の子を命懸けで守って上げなくちゃいけない時が来るの。ハルもね、そんな男の子に育って欲しい。もしそれが出来たら、ハルは男の子は卒業して、立派な《大人の男性》になれるわ』

『でも、母さんとしては怪我をしてもいいから、ちゃんと無事に戻ってきてね?』

 これも母さんが俺に言った言葉だな。
 うん、今が命を賭ける時だよ。
 そして、またあの暖かい家庭に戻る!

「よっしゃぁ!!」

 俄然やる気が出てきた!
 俺は視界に入った敵に向かって走り出す。

「ひ、ひぃぃ!!」

 もう相手は戦意喪失だな。
 だが構わない、俺はそいつを斬り捨てた。
 相手が倒れるのを確認せず、次の相手へ走って斬る。
 斬る!
 斬る!!
 避けて斬る!!

「おいおい、てめぇら、まだうちの学校の生徒達の方が歯応えあるぜ!?」

 冗談抜きでそうだった。
 もう怯んでいるこいつらは、ただの雑魚。
 こっちが好き勝手蹂躙できてしまう。
 俺が向かっていくと、一歩下がるんだ。
 だが俺は躊躇なく斬った。
 体力を振り絞ってさらに斬った。
 ソニックブームを発生させて相手をぶっ飛ばし、近くの木に勢い良く叩き付けてやった。
 こんな残虐貴族に仕えたから、こんな目に合ってるんだ。恨むなら雇い主を恨みな!

 そして、最後の一人になった。
 俺の体力はもう限界だ。
 だが、こいつ一人だけならやれる!

「くそ、来るな化け物!」

「こんな可愛い七歳に向かって化け物とは失礼な!」

「獰猛に笑いながら斬るガキが、可愛い訳ねぇだろ!!」

 笑ってた?
 うわっ、まるで俺、戦闘狂みたいじゃん。
 でもまぁ、自分の剣の実力がはっきりわかって、嬉しかったのは事実だ。
 意外な事に、人を斬る事にそんな抵抗はなかった。
 まぁ散々森で命のやり取りをしていたんだ、ウェアウルフから人に変わっただけの事。
 大した違いはなかった。

「うおおおおっ、しねぇぇぇぇぇぇっ!!」

「そんな大振りな上段、余裕で斬れるっての」

 俺は相手が剣を降り下ろす前に、腹を水平に斬った。
 血を吹き出し、臓物がずるりと出てきた。
 相手は白目になって、そのまま倒れた。

 はぁぁぁぁぁ、しんどかった!
 これで全員倒した。
 俺は改めて周囲を確認すると、顎が外れる位開けて驚いているゲーニックと、それを見ていたレイの所の使用人と両親が棒のように立っていた。

「な、何という強さだ……」

「本当に、七歳の子供なの?」

「強すぎる」

 使用人達の感想だ。
 当然だ、父さんとの特訓は相当きつかったからね!
 これで弱かったら、俺、泣いちゃう!

 さて、ゲーニックをお仕置きしようかな?
 って思っていた時、庭に誰かが入ってきた。
 サウンドボールが、無数の足跡を拾ったんだ。
 見てみると、ゲーニック以上に豪華な服をまとった肥えた豚さんが、鎧を着けた傭兵を連れてやってきた。
 傭兵の数は、ざっと見て四十以上はいそうだなぁ……。

「ぱ、パパ!!」

 ゲーニックが嬉しそうに言った。
 あぁ、あれがゲラルドか。
 ゲーニックはのしのしとパパであるゲラルドに向かって走り出した。
 おっそ!!
 
 ゲラルドは周囲を見渡して、状況を確認しているみたいだ。

「ふむ、貴様か? ゲーニックの従者をここまでやったのは」

「そうだけど? ちょっとあんた、子供の躾がなってねぇんじゃねぇの? 女の子を壊そうとか考えてるぜ、あんたのガキ」

「我が家の方針に口を出さないでもらおうか?」

「嫌だね、そのはた迷惑な方針のせいで、レイが大層迷惑してるんだ。黙っていられねぇだろ?」

「何とも生意気なガキだな。躾がなっていない。両親の顔を見てみたいものだ」

「はっ! あまりにも出来た俺の両親を見て、劣等感を出さなきゃいいがね!」

「この私が劣等感を抱くと?」

「抱くだろうね。てめぇみたいに太ってねぇし、性格も最高だし、俺を正しく導いて育ててくれている。てめぇら外道とは違うんだよなぁ、これが」

「……貴様、私を太っていると言ったな?」

「言った。事実だろ、諦めろ」

「……もういい、お前達、あのガキを殺せ」

 くっそ、もうちょっと長話をして体力を回復させたかったけど、こりゃ無理だな。
 まぁあからさまに俺が煽りすぎたせいで、長話出来なかったんだけどね。
 不味い、本気で不味い。
 こいつらを相手に出来ねぇよ、流石に!
 まぁ、出来るだけやりますか。
 傭兵達が俺に迫ってくる。
 俺は剣を構えて、戦闘体制に入る。

 と、その時だった。
 大きな叫び声を上げながら、俺に向かってくる傭兵達に突撃する、傭兵達より明らかに数が多い集団がいた。
 それぞれに包丁や木の棒、鍬等を持っている。
 あれ、見覚えある人がいるぞ?
 あぁ!! 酒場で腐ってたおっさんだ!!

「よう、レイお嬢様の友達! 助けに来たぜ!!」

 傭兵達と集団が戦闘を開始しているなか、おっさんは俺の所に来て肩を叩いてきた。
 いてぇ、いてぇよ! 力強いって!!

「お前の戦っている姿、実は隠れて見ていたんだ。ガキがあんなに頑張っているのに、俺らが腐ってるのは本当なさけねぇって思ったのさ」

「じゃああれ、村の皆か?」

「ああ! 皆レイお嬢様を慕っている奴等さ。うちの女房にも怒られちまったよ、「あたし達家族を言い訳にして逃げるな」ってな!」

 皆、必死になって戦っている。
 レイの為に。
 皆、酒場で腐っていた時の生気がない目ではなく、光が宿って強い意思を感じる目になっている。
 すっげぇ頼もしいし、ありがたい!

「んじゃ、俺も行ってくるぜ!」

「おう、行ってこい」

 おっさんも戦闘に参加した。
 ……何かヘヴィメタルのライブで見るモッシュみたいだな。

 おっ、どうやら混戦から抜けて俺の所に向かってくる傭兵がいる。
 数は六人くらいか?
 もう、体力ほぼないんだけど、やるしかないか!
 俺は自分の足を一度叩いて、剣を構えた。

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コメント

  • ぼっち先生

    レイを助けるハルと村の人たちがとても熱いです!
    読んでいてとても面白いです!
    次の更新楽しみにしています!

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