音の魔術師 ――唯一無二のユニーク魔術で、異世界成り上がり無双――

ふぁいぶ

第二十一話 俺、酒場で協力者を募る→大失敗


 とりあえず綺麗にめかし込んでいるレイを見て目の保養にした後、俺は村の酒場に戻ってきていた。
 未だにどんよりした雰囲気が酒場の中で充満していた。
 ぶっちゃけ息苦しいし鬱陶しい!
 俺はさっき情報をくれたおっさんの所に行き、くそったれな貴族を潰す旨を伝えた。
 そうしたら、酒場にいた全員が目玉飛び出る勢いで驚いてた。
 まぁ、そりゃそうだわな。
 街を支配している位の貴族に喧嘩を売るって言ってるようなもんだしな。

「おいお前、正気か? 相手を考えろよ。ガキの戯れ言じゃ済まされない相手なんだぞ?」

「戯れ言じゃなくて、ガチでやるんだよ俺は」

「お前、相手を本気で考えろ。そして考え直せ。お前みたいなガキが叶う相手じゃないだろう?」

「ああ、だから皆にお願いしに来たんだよ」

「は?」

「レイは、本当は行きたくないのに皆の為を考えて命を張った。でも、あいつは泣いてたんだ」

 俺がその事を伝えると、皆唇を噛み締めている。
 やっぱり、全員何とかしたいって気持ちがあるようだな。
 でも相手が相手だ。
 歩兵が戦車に単身突っ込むのと同じ位の自殺行為な訳だ。
 俺もそれを把握しているから、村の皆に協力を仰いでいる訳なんだが、正直あまり期待はしてなかった。
 皆、相手に怖気付いちまってる。
 まぁそれでも猫の手は借りたいから、煽るだけ煽るつもりだ。
 今、この場で即決出来なかったとしても、俺の煽りが心に届いてくれたら後から来てくれるはず。
 来なかったら来なかったで、俺一人でも全力を以て叩き潰すだけだけどな。

「まぁおっさん達はここで腐りながら悔しがってなよ。俺は一人でもレイを渡さねぇからさ」

「……好き勝手言ってくれるじゃねぇか」

「当たり前だろ? ただブツクサ文句言って酒を飲んでるだけのおっさん達に掛ける言葉は、罵倒しかねぇわ」

「ガキに、ガキに俺達の何がわかる!!」

 ついにおっさんの一人がブチ切れた。
 机を蹴っ飛ばして、勢い良く立ち上がったんだ。

「俺には……いや、俺達には家族がいるんだよ! 俺が歯向かったら、妻や子供まで殺されちまう!!」

 あぁ、残虐貴族ならやりかねねぇな、確かに。
 ただ殺すだけじゃなく、もっと精神的ダメージを与えるようなやり方でな。
 おっさんの言い分はわかる。むしろ所帯を持っている男としては正しいだろうな。
 でもまぁ、俺から言わせてもらえれば、男としては失格だな。

「だったら、こんな所で辛気くさい顔してるんじゃねぇよ。家族の為に歯向かわない、立派な理由じゃねぇか」

 男として失格なのは、自分で選んだ選択肢に納得できず、酒を飲んで腐ってるところだ。
 どんなに周りから避難されようが、家族を取ったんだ。
 胸を張って選んだなら、男としては花丸合格だ。
 それなのに後悔していやがる。

「だけど、それでレイお嬢様が犠牲になるのは、納得できねぇだろ!」


「なら、そんなのを俺に言っても何も変わらねぇよ。残虐貴族のパータレに言ってやれ」

「だから、家族の事を考えるとそれは出来ないって言ってるだろうが!!」

「だったら酒場でずっと腐ってろ。俺は今から残虐貴族とやりあってくるわ」

 だめだ、このまま話してても堂々巡りだ。
 俺は見切りを付けて、ため息混じりで酒場を出ようとした。
 その時、さっきまで話していたおっさんが、一言ぼそっと呟いた。

「いいよな、家族を持ってないガキは気楽でよ……」

 ――は?
 おっさんは今なんて言いやがった?
 家族を持ってないガキは気楽だってか?
 ……ついに性根まで腐りやがったか。

 俺は酒場の出口に向かっていた所でUターンし、再びおっさんの前に立つ。
 そして俺は、問答無用でおっさんの股間を力一杯蹴り上げた。
 潰れても知らない、完全な全力全開の蹴りだ。
 あまりの痛さに膝から崩れ落ちたおっさんの顔面めがけて、俺は右ストレートを見舞った。
 いってぇ、右手すっげぇいってぇ!!
 でも、今は痛みなんざ二の次だ。

「おいおっさん、てめぇ、今何て言った? 家族を持ってないガキは気楽だ? 何ふざけた事言ってるんだよ、てめぇ!!」

 俺は倒れてるおっさんの胸ぐらを掴んだ。

「俺はてめぇみたいに所帯は持ってないけど、心から愛している両親がいるんだ! かけがえのない、大事な両親がな!!」

 前世では味わえなかった両親からの愛を、今世でこれでもかって愛情を注いでくれる父さんと母さん。
 俺にだっているさ、大事な家族はさ。
 でもな――

「でも! レイも大事なんだよ!! 大事なのを助けるのに命賭けられないなんて、男としては死んだも同然だ!! てめぇはもう男じゃねえよ、ただ惰性に酒だけ飲んでいる屑だ!」

 きっと俺が死んだら、両親はとても悲しむと思う。
 それはわかっているけど、逆にここでレイを見捨てたら、俺の男としての命はそこで終了だ。
 それに、きっとずっとこの事を後悔して人生自体を腐らせてしまうと思う。
 だから俺は、命を張ってまでレイを助けるんだ。
 死ぬよりレイを失う方が数倍も怖いんだからよ!
 それに両親が悲しむのを見たくない。だから俺は、両方を取る。
 両親も悲しまず、レイを今まで通りの生活に戻す。
 俺は相当欲張りさんだな。

「ま、俺は一人でもレイを助け出す。てめぇらは七歳のガキに好き勝手言われた事にさらに落ち込んで、カビを生やす位腐ってろよ」

 俺は手をヒラヒラと振って、酒場を出た。
 はぁ、イライラした。
 こういう時、前世の記憶ってのは邪魔するねぇ。
 俺は結局、前世については後悔だらけなんだ。
 まだまだ目標ややりたい事はたくさんあったんだ、その半ばに死んでしまった。
 もし、女神様に転生の機会を与えてもらえなかったら、絶望に暮れていただろうな。
 だから今世では、俺が後悔しないように全力で生きている。
 そういう過去があるから、酒を飲んで行動もせずにグチグチしている奴を見て、すっげぇイラつく。

 でもまぁ、どうしようかね?
 こうなったら、音魔法をフルに使って残虐貴族をぶっ殺そうか。
 ぶっ殺すだけじゃ生温いな。
 もっと長く苦しんで欲しいなぁ、どうやったら苦しんでくれるかねぇ?
 ん~……。

 …………ん?
 あっ、良い事思い付いたぜ!
 これなら、絶望を与えてやれる。
 今まで残虐貴族の犠牲になった人達のかたきを取れる方法だな。
 くっくっく、結構一人だと骨は折れるけど、やってやろうじゃねぇか!!

 さぁ、俺はまだまだこの世界で思いっきり生きたい。
 その為にリリルもそうだけど、レイもいなくちゃいけないんだ。
 俺は欲張りさんだ。
 でも、やらないで後悔する生き方は絶対にしないって決めたんだ。
 だから、全てにおいて全力でぶつかってやる!
 覚悟しろよ、残虐貴族!!
 死ぬなんて生温い地獄を見せてやる……!!

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