音の魔術師 ――唯一無二のユニーク魔術で、異世界成り上がり無双――

ふぁいぶ

第十四話 対複数人戦、開始!


 さぁ、戦闘開始だ。
 ――と、その前に。
 俺は自分の両耳にサウンドボールを吸着させ、とある曲を流した。
 サウンドボールは俺がイメージ出来る音を忠実に再現する。もちろん、曲だって出来る。
 ん~、やっぱり戦闘向けって行ったらHR/HNだな!
 なら、もう選曲は決まった。

「今のノリなら、《ペインキラー》しかないな!」

 ペインキラー。
 直訳すると鎮痛剤という意味を持つ曲名だ。
 ジューダス・プリーストというバンドが発表している曲なのだが、まさにメタルというジャンルの名を知らしめた重鎮達の曲だ。
 メタルゴッドこと、ロブ・ハルフォードのイカツい容姿に合わないハイトーンな歌声は、当時の俺の心に突き刺さって魅了した。
 そして激しいギターとシンセサイザー、ドラムも凄いのなんの!
 あぁ、この曲をこの世界で聴かせてやりたい!
 サウンドボールからじゃなくて、いずれは俺の手で聴かせたい!
 
 さて、メタルゴッドの素晴らしい歌声が聴こえて来た処で、俺は周囲を見渡す。
 集団戦となると、下手に俺からは手を出さない方がいい。
 こちらから攻め込むと、体力の消耗が半端ないからな!

「今日こそは、しねぇぇぇっ!」

 一人の男子が飛びかかってきた。
 あっ、確かこいつリリルの事が大好きだって言ってる奴か。
 さて、ここで戦闘中に曲を流す理由をお教えしよう。
 最近わかった事なんだが、俺は曲のリズムに合わせて戦うと、普段より数倍強くなるらしい(父さん談)。
 そこで問題なのは、曲を聴いてしまうと他の音が聞こえなくなってしまうのだ!
 だが俺は、問題点を解決したのだ!
 自分の周囲半径五十メートル内で、ドーム状に百ものサウンドボールを配置。それをひとつひとつ魔力の糸で結合させる。
 そして全てのサウンドボールには、《集音》と《伝達》の指示を出している。
 集音はその名の通りに音を集める。そして集めた音を魔力の糸を通して伝達。最終的には俺の聴覚細胞へ音を届けてくれるという訳だ。
 音楽を聴きながら、周囲の音も拾えるこの技を、俺は《サウンドマイク》と名付けたのだ!
 ……そのまんま過ぎると最近になって思った。

 とりあえず、リリル大好きな男子の斬撃を剣でいなし、曲のリズムに合わせて腹に蹴りを入れた。
 ロブがシャウトする所で蹴りを入れたから、ついつい力んじまった!
 まぁ死ぬ訳じゃねぇし、いっか!
 すると、背後から足音が聞こえた。
 俺は即座に振り向く。

「げっ、バレた!?」

 俺の《サウンドマイク》にかかれば、ありんこの足音すら拾うぜ。
 おっ、君も確かリリルに話しかけようとしている男子じゃないか。
 だめだよ、君には絶対にリリルは渡さん!
 男子の武器は長槍だ。もちろん木製だから刃はない。
 彼は槍の先端を俺の腹部目掛けて突いてきた。
 だがその程度、父さんの剣撃に比べたら遅いし、今の俺にはメタルゴッドのご加護がある!
 俺は半身になって余裕を持って回避した。だが、どうやらそれが狙いみたいだ。

「今だ、撃て!!」

「詠唱完了! 《フレイム・ランス》」

 おおぅ!?
 《フレイム・ランス》とな!?
 この魔法は炎系魔法の中級にあたり、威力は人間位なら消し炭に出来る程だ。
 ちょっと、俺にそんな殺人魔法使うなよ!!
 先生達は……止めねぇ。
 どうせ俺なら何とかすると思ってるんだろうな。
 ま、そうなんだけどさ。
 俺は事前に、「多分回避した瞬間を狙ってるんだろうな」と読んでいたので、そのままバックステップでその場から離れると、《フレイム・ランス》は地面に直撃。爆発と共にその場にクレーターを作った。
 
(こいつら、俺を殺す気かよ!? どんだけリリルの事好きなんだよ!)

 実はこいつら、皆リリルが大好きなのだ。
 成長する度に可愛さを増していったリリルは、学校中でモテる存在となった。
 そこで大きな障害となって立ち塞がっているのは、この俺なのだ!!
 リリルは常に俺の隣にいる。
 そう、話し掛けられないんだ。
 だから、この集団戦闘訓練を使って、俺に痛い目にあってもらおうという事らしい。
 まぁ俺は訓練になるからいいんだけどさ……。
 でもさ、《フレイム・ランス》はやり過ぎだろ!!

「あったま来た! そっちが遠慮しねぇなら、俺だって遠慮しねぇからな!」

 俺は走り出して、《フレイム・ランス》をぶっ放した奴に向かっていく。
 その男子生徒はびっくりして、助けを求めた。
 残念だな、俺は森で狩りをしているおかげで、走力もお前達ガキに負けないのよ!
 他の生徒達も俺に追い付いて、魔法を放った男子を助けようとする。でも俺には追い付けなかった。
 俺は木剣で水平に薙いでその男子を斬り捨てようとした時だった。
 後方から複数の詠唱をする声がした。
 振り向くと、三人の男子生徒が俺に掌を向けていた。
 やっべ、魔法の詠唱は完了してる!

「今から魔法を放つ! ハルを足止めしてくれ!」

「おう!」

 誰かが俺に飛びかかってくる。
 しかも二人同時に!
 瞬時に二人を確認すると、一人は剣でもう一人は短剣だ。
 剣を持っている奴は俺の剣で受け止め、短剣の方は手首を掴んで攻撃を止めた。
 だがやべぇ、この状態だと動けねぇ!!

「よくやった二人共! さぁ食らえ!! 《ファイア・バレット》」

「続くぜ! 《ロック・バレット》」

「よくもリリルちゃんを……! 《ウォーター・バレット》」

 やっぱり三人同時にバレット系魔法を撃って来やがった!
 バレット系魔法は、メインの六属性の基本となる魔法だ。
 基本と言ってもバカには出来ない。
 こいつは魔力が続く限り、連射が可能だ!
 生憎、こいつらは三つずつしか放って来なかったのは、本当助かった。
 これなら、当たっても死にはしないな!

 俺は今、短剣を武器にしている生徒の手首を掴んでいる訳だが、それを引っ張って俺の前に立たせた。
 つまりだ、俺の肉盾となってもらったのだ!!
 これが訓練だろうと、もう俺は油断はしない。
 使えるものは全て使う!
 元々俺一人対十二人なんだ、文句はねぇだろうよ!!

「や、やめてぇぇぇっ!!」

 肉盾になった生徒は泣き叫んだが、それは届かずに全弾被弾した。
 水で濡れて石ころを体に当てられ、火の玉も体で食らった。
 あぁ、こりゃ医療室直行だな。
 まぁ俺に勝負を挑んできたんだ、恨むなよ?
 さて、魔法攻撃を肉盾が受けている間に、俺は剣撃を受けていた剣を弾いた。

「うわっ!?」

 生徒が大きく後ろへ仰け反った瞬間に、俺は木剣で腹に一撃を加えた。
 かはっと息が漏れたような声を出して、その生徒はその場に沈んだ。
 安心しろ、峰打ちじゃ!

 さぁて、もう一段階俺はギアを上げないと、ちょっと戦況的に不利みたいだ。
 ならもっと過激な曲で行こうじゃないか!

「さぁ行こうぜ! 《ヘイト・クルー・デスロール》だぁ!!」

 次に流した曲は、《チルドレン・オブ・ボドム》というデスメタルバンドが発表した曲だ。
 デスメタルというのは、通常の歌い方と違い、まるで悪魔が歌っているようなデスボイスという独特の声で歌うジャンルだ。
 人によってはわざと喉を潰し、悪魔の声を表現しているバンドもある。
 だが、このバンドのボーカルであるアレキシ・ライホのデスボイスはまだ聴きやすく、デスメタル初心者にはとてもお勧めのバンドだ。
 この曲は、スピーディな曲ではあるがエレキギターとシンセサイザーが上手くマッチしていて、とても美しい旋律を流す。
 だが美しくても攻撃的、且つ凶悪な重厚なサウンドをヘッドホン(今はサウンドボール)越しに聴かせてくるんだ、聴いている俺だって攻撃的になってくる。

 俺の次の標的は、魔法を撃ってきたお前ら三人組だこらぁぁぁぁっ!!
 俺は姿勢を低くして、全速力でそいつらに向かって走り出す。
 はは、ボッコボコにしてやる!!

「い、行かせるかよ!!」

 そりゃそうだよな、魔術師は戦闘の要だ。剣士は彼らを守らなきゃいけない。
 今俺の目の前に立ち塞がったのは、木剣を持った三人組だ。
 こいつらもリリルが大好きだったっけか。
 はっ! 誰がお前らなんかに渡すかよ!!
 
「死ねや、ハルぅぅぅぅぅぅっ!!」

 そんなに死ね死ね言うなよ、子供が物騒な……。
 まぁ気合いは乗ってるけど、まだまだ剣の技術は拙いな。
 避ける必要もなく、俺はそいつの腹を蹴って突き飛ばした。
 そして二人目の腹を木剣で叩き、三人目はみぞおちを殴って気絶させた。
 ははは、この曲を聴いている俺は凶悪だぜぇ!?

「ひぃぃっ!」

「く、来るなぁ!!」

 ははは、怖がっていやがる!
 だがな、お前達が立っているのは戦場だ!
 何処にも逃げ場がない、戦場なのだよ!

「さぁ、泣かすぞこらぁぁぁっ!!」

 油断は一切していない。
 全力を出しているのだ。
 超ハイテンションになってだけど。





 五分後、曲が終わり俺は冷静さを取り戻した。
 う~ん……。

「だめだ、あの曲は暴走し過ぎるわ」

 さぁ、辺りは死屍累々、先生達は口をあんぐりと開けてびっくりしていた。
 別に殺しちゃいないが、皆コテンパンにしてやった!
 だって、俺のリリルを取ろうとしている奴等ですよ? そりゃ男として渡す訳ねぇじゃん!
 だから、後悔はなし!!
 すると、リリルとレイが駆け寄ってきた。

「すごい、すごいよハル君! とっても格好良かった、よ!」

 リリルが目をキラキラさせて俺を褒めてくれた。
 前の俺ならここで天狗になっていただろうが、もう二度と戦闘に関しては天狗にならない。

「今回はたまたま戦術がピッタリはまったんだろうよ。次が通るかはわからないなぁ」

「それでも、本当、すごかったし、格好……良かった」

 リリルが顔を赤くして俺の事を格好良かったって言ってくれた。
 ふふ、可愛いのぉ!!

「それにしてもハル、また剣術の腕を上げたんじゃないかい? 僕もうかうかしてられないな」

 レイとは今、友達ではあるんだけど剣術ではライバルとして競い合っている。
 実際こいつの剣技は無駄がないシャープな剣撃で、見切って避けるのが大変なんだよな。
 勝率は五分五分って感じだ。

「そういうレイだって、密かに特訓しているそうじゃないか! 俺だってうかうかしてらんねぇよ!」

「ふふ、まだ僕は君に簡単に負けやしないよ?」

「ああっ、望むところだ!」

 友人関係も良好、戦闘についても問題なく仕上がってきている。
 まさに順風満帆だった。
 この調子で卒業まで無事に過ごしていきたかったけど、人生なかなかそうは行かない。
 実はこの後、俺達の人間関係を大きく変えるちょっとした出来事が起きる。
 そこで俺は男を問われる事となる。
 ま、その時に話そうじゃないか!

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