音の魔術師 ――唯一無二のユニーク魔術で、異世界成り上がり無双――

ふぁいぶ

第十一話 油断


 ついに夢のドラゴンと遭遇!
 でも俺、今追われてます。
 楽しい楽しい鬼ごっこ――

 んな命懸けの鬼ごっこ、楽しい訳ねぇだろうが!!
 俺は今、全速力で森の中を必死に駆け抜けている。
 だが奴は、俺の速さに合わせて追いかけてきている。しかも木を薙ぎ倒しながら。
 くそっ、俺を疲れさせていただきますってするつもりだな?
 
 走りながらとりあえずサウンドボールを生成し、奴の近くで爆発音を鳴らしてみた。
 最初はびっくりしたようで、足を止めてくれたから木に身を隠したんだけど、奴は鼻と耳が効くらしく、居場所がばれてしまう。
 もう八方塞がりだ。
 しかも雨が相当強くて冷たくて、俺の体力をガンガン奪っていく。いつもより疲れるペースが早い!

「あぁ、このクソドラゴン! さっさとどっか行けや!!」

 この見た目もそっくりなコモドドラゴンを四倍大きくして、鱗の色を緑色にしたこいつは、足も早い。
 それに多分知能もいいだろう、俺の動きを先読みしてくる。
 こんな凶悪な生物に知能なんて与えなくていいよ!
 ええい、逃げてばっかりじゃ埒あかねぇ!
 俺は一度立ち止まり、振り返りながら鞘から剣を抜き、回転力を活かしてこのドラゴンに斬りかかる。

「死ねやぁ、糞ドラゴン!!」

 キンッ。

 俺の剣がポッキリ折れて、回転しながら地面に突き刺さった。
 うわぁ、ドラゴンさんやっぱり鱗も固いのね……。

「グルアッ?」

 「何かした?」みたいに首を傾げやがった。
 くそったれめ、渾身の一撃を見舞ってやったんだよ!!
 こういう時の定説として、欠けた剣を目に突き刺すんだよな。
 目は流石に固くないだろうよ!!

「ならこれならどうよ!?」

 キンッ。

 はぁ、目も固いのね。
 これもダメなら、俺こいつを倒すの不可能じゃん?

「グ、グルルルルルルル……」
 
 ん?
 ちょっと心なしか目付きが鋭くなった?
 あれ、怒ってらっしゃる……?
 ヤバイヤバイヤバイ!

 俺は全速力で再度逃げ出した。
 ドラゴンさんは今度は容赦なしに迫ってきている!
 無理無理、もう俺体力限界で息切れしてるんだぜ!?
 急に本気になられても困ります!!

「もう無理、もう一度行ってこい、サウンドボール!」

 俺は奴の周囲にサウンドボールを八個生成、俺の両耳にも《遮音》を指示したサウンドボールをくっつけて、そして爆音を鳴らす!
 ドゴォォォン!!
 周囲の木々を揺らす程の爆音が、森の中に響いた。

「ギャァォォォオオォッ!?」

 やっぱりこいつ、耳が良すぎるみたいだ!
 爆音のおかげで足が止まるどころか、ふらついていやがる!!
 よっしゃ、このまま隙を見て森を出るぞ!
 このまま全速力で行けば、何とか森から生還して帰宅…………。
 ちょっと待て。
 
 いや、俺森から出ちゃダメだ。
 あぁ、出ちゃダメだな。
 今森を出たら、確実にこいつは俺を追いかけてくる。
 そうなると村までやって来る事になる。
 そうなったらこいつは何をすると思う?
 きっとだが、こいつは村の人を喰うだろうな。
 喰って家を破壊し、穀物も踏み荒らす。
 もしかしたら、村で飼っている家畜すら喰っちまうだろうな。
 
 俺の身勝手で、村の皆にまで迷惑はかけられない。
 なら、もう倒すか俺が死ぬしかない。
 死ぬのは絶対に勘弁だ。俺はまだまだこの世界を堪能したいし、野望がある。
 俺の中で死ぬという選択肢は、万が一でもねぇ!
 だったら、もう一つだろうな。

「ははっ、ようクソッタレ」

「グググググッ……」

「どうやらお前は俺の言葉がわかるみたいだから、一応言っておくわ」

 ドラゴンが少し目を見開いた。
 ちょっと驚いたかもしれないな。

「お前は今から、このハル・ウィードに仕留められる運命だ! 覚悟しろよ?」

 俺は再び爆音を鳴らす。
 大気ごと震えるもんだから、俺の内臓にまで響く。
 祭りのあの太鼓の音が、体の内に響くような感じを、もっと数倍にしたようなもんだな。
 結構キツいけど、俺は我慢する。
 そして何度も爆音を鳴らす。
 ドラゴンはあまりに辛かったんだろう、ひっくり返って悶えている。
 耳が塞げないって辛いね。

 ひっくり返ってお腹が丸見えになった。
 すると、奴の腹は鱗に覆われていない。
 つまりだ、刃物も通りやすいんじゃね?
 俺は予備で持っておいたナイフを腰から抜き、切り裂いてみる。
 すると、思ったより深くは入らなかったけど、弾かれずに切り込みが入った。

「なら、このナイフで、お前の心臓を貫く!」

 俺は跳びはね、全部の体重を乗せて心臓があると思う左胸辺りをナイフで突き刺した。
 ナイフは柄の部分まで深く突き刺さり、ドラゴンは悲鳴を上げる。
 
「グギャァァァァオオンッ!!」

 それはそれはおぞましい声。
 鳥肌が立ったし、心の底から恐怖が沸き起こる。
 しばらく足と尻尾をバタバタさせたのち、ぐったりと倒れた。
 ……死んだ、か。

「はぁ、はぁ、はぁ、……はぁぁぁぁぁぁぁっ」

 勝った、このクソッタレに勝った!!
 はは、やるじゃん俺!
 五歳児にしてまさか、ドラゴンすら仕留めちゃうとは!
 ふははははは、俺はドラゴンをやってやったぞ!!
 冒険もののライトノベルでは鉄板だけど、男の子の憧れでもあるドラゴン討伐をやってのけた!
 この俺の中で満たされているような感覚に、俺はハイテンションになっている。
 嬉しい、前世の小さい頃の憧れを、この異世界で達成できたんだ!

「やったぁぁぁぁぁぁっ!!」

 俺はガッツポーズを取って、喜びを表した。
 だけど、とある声でそれに水を差された。

「ハル、まだだ! そいつはまだ生きてるぞ!!」

 え?
 ドラゴンの方を見ると、口を大きく開いて俺に迫っていた。
 こいつ、まさか死んだふりしてたのか!?
 俺が油断するのを、虎視眈々と狙っていやがったか!!
 くそっ、突然の事で体が反応しねぇ!
 それに加えて疲労もマックスだから、動きもしない!!

「う、うわぁぁぁぁぁぁ!!」

「ハルゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 声の主を見てみると、父さんだった。
 さっきの声の主も父さんだったのか?
 そんな父さんは俺を左手で力一杯突き飛ばす。

 そして――

 俺を喰うはずのドラゴンは、俺の父さんの左腕を喰らった。

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