声を失った少年の物語

響夜

2.誕生日と友達との時間

「クロックかおはよう、今日はお前の誕生日だなおめでとう。」

「お誕生日おめでとうございますクロック、今日も元気そうで何よりですわ。」

お父様とお母様の二人ともから誕生日を祝ってもらえてすごく嬉しい。

「ありがとうございますお父様、お母様。」

「そうだ、お前に渡したいものがあるんだが。」

そういうと魔法を唱えだしたその後通路側から長い箱が飛んできて
それをお父様は手慣れたように掴み僕に渡した。
言い忘れていたがこの世界の魔法は『詠唱式』だ。
言葉を発し、発現したいものを頭の中で考えると発動する。
お父様が僕に渡したいものとは?

「これだ開けてみなさい。」

そう言われ渡された箱を開ける、そうしたら丈夫そうな杖があった。

「立派な杖ですね!ありがとうございますお父様。
 僕大事にしますね。」

魔法を使う人間にとって杖とは重要なものです。
お父様が言うには本を使った詠唱をする人がいると聞きますが最近は少ないみたいです。

「クロックお前はもう8歳でいずれはこの家を継いでもらわねばならない、
 それに伴い自分の表し方を「僕」ではなく「私」に変えなさい。」

「分かりましたお父様」

私か...僕っていうはずっとその言い方でいってきたから早く慣れないといけないな。

「その杖を用いた詠唱も今後の稽古の課題に入れるぞ、いいな?」

「分かりました。」

その方が、自分にとっても経験になるし好都合!

「私の方からはこれを。」

お母様から手渡されたのは一つのペンダントだった。

「開けてみてください、右の方の仕掛けを押せば開くはずです。」

そういわれ仕掛けを押すとペンダントが横に開いた、これはペンダントロケット
だったのか。

中にはこの前撮影した家族3人揃った写真が入っていた。

「ありがとうございます、お母様!一生大事にします。」


僕の誕生日にはいつも他の領からのお父様たちの友人の貴族たちが
くるのだが今回は来ないみたいだ。
お父様に聞いてみたところ外せない用事があるそうで、こちらに来る事が出来ないと
いうことらしい。

他の貴族の所にはメルーフィア領のジーナ様とアルグース領のライフェル様がいる。
ジーナ様は4歳でライフェル様は5歳だが、双方の領の方が公爵様であり、
自分達よりも身分が上であるため様を付けている(他の貴族で歳が下であろうと身分が上であれば
様という敬称を付けることがマナーとされている。)

「お父様今から町の広場の方へ少々出かけてきてもよろしいでしょうか?」

「む、あの者たちに会いに行くのか?私としてはあまり絡んで欲しくない者たちなのだがな。」

お父様は町にいる私の友達のことをよく思っていない。

「大丈夫ですよナリィ達は優しい人たちです。」

そうお父様に言うがやはり「うーむ」といい首を縦に振ってくれない。

あれから数分交渉をした結果お父様はしぶしぶ了承してくれた。

「分かった...だが午後の稽古までには帰ってくるんだぞ。」

「分かりました、ありがとうございますお父様。」

そういい通路の方へ走って行く。
その後ろで「はぁ...」というため息がしていたが気にしない。

そうだ、勉強に使っている紙が無くなってきているのを思い出した。

「外に行く前に倉庫に寄って紙を取って一度部屋に戻ってから行こう。」

通路を進み倉庫に入る。

「どこだったかな、あったあった。」

倉庫へ入り少し探すと棚がありその引き出しを開けると紙が多数あった。
クロックはその中からしばらくは取りに来なくてもいいように50枚ほどを手に取り
倉庫を出た。

そして部屋に戻り紙を置いた私は、友達に会いに行くために屋敷を出た。
その時の持ち物はお父様に貰った杖のみだ。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


屋敷から出てしばらくすると街を多少見渡せる休憩所のような所に数人いるのが見えた。
その休憩所というのは大きな木の下にベンチがあり、晴れているときに来るととても気持ちがいい
事から皆でベンチを作り休憩所と呼ぶことにしたんだ。

「お~い、皆。」

「クロック様だ、お誕生日おめでとうございます。」

「クロックじゃねぇか!おめでとう。」

「クロック..おはよう。おたんじょうびおめでとう。」

そういって僕を迎えてくれたのはいつも遊ぶ3人だ。

ナリィは僕より1つ下の女の子、7歳で平民ながらもとても礼儀正しい。
父さんはそんな平民でも差別意識があるみたいだけど、私はそうは思わない。
誰かの上に立つということは、その人たちの事をしっかり考えなければならないと
思うからだ。

次にメド、こいつはナリィと同じ歳の7歳でわんぱくタイプで、
他の住民達に迷惑をかけているようだが、ナリィとメドとは小さいころからの
付き合いで根はいいやつだと思っている。

最後にネア、この子は僕たちの中で最年少の5歳だ。
ちょっと大人しめな女の子だ。休憩所の近くで町を眺めながらじっと
していたので、『僕たちと一緒に遊ばない?』と言った事から加わった。

「皆ありがとう。」

「その杖って、親からのプレゼント?」

メドから言われたのはお父様から貰った杖の事だ。

「そうだよ、魔法を使うときに便利なんだ。
 素手で出すよりも杖を介した方が効率的だからね。」

杖というものは体内からの魔力伝導率が高いから、魔法というものを
使う際にはとても便利だということが分かっている。

「いいなー、私も魔法使いだったら杖を持って魔法を使ってみたいな。」

そういいながらナリィは杖を振るポーズを取りながらぶんぶん手を振っている。

「わ、私も...」

ネアもナリィの真似を必死にしている。


そうこうしているうちに昼前になった。

「私は昼からお父様との稽古があるからまた今度ね。」

昼にはお父様との約束の稽古がある、これを守らなかったら以後ナリィ達に会うことは
難しくなるだろう。

「私って何だよ、クロックw」

「今日お父様から言われたんだ、僕っていうのを直して私って言うように心掛けなさいって。」

「へぇ、そうなんだ。」

「それはえらいねぇ、それとメド家の手伝いもしないでここで何してんだ?」

メドはびくってした後、野太い声が聞こえた方を振り返る。

「お、親父...ひ、昼からは手伝いちゃんとするから...な?」

メドは怯えた様子で必死に訴えかけるが...

「お前はいつもそうだ、やるやるいいながらいつもしないじゃないか。
 今日という今日は勘弁ならん。」

そういうとメドの服の後ろを強く引っ張りながら連れて行く。

「親父、自分で行くからこれは勘弁してくれ。」

「こうでもしなかったらお前は逃げるだろう。」

いやぁぁぁぁ...と言いながらメドとお父さんは遠ざかっていく。

メドも大変なんだなぁ、っと僕も帰らないと。

「ナリィとネア、また今度ね。」

そういって手を振り家の方へ走る。

「またね、クロック。」

「ばいばーい。」


そうして屋敷へと戻りお父様のもとへ向かった。



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