LIFE~僕と君とみんなのゲーム~

風見鳩

平原の大将2

「で、どうするの?」
「どうするって……」

 街にあるレストラン(らしき所)で僕とユキ、それにアユコは食事をしていた。
 こうしてゲームの中でも味覚を感じるのは本当に不思議であるが、今議論すべきことはそこではないだろう。

「どうするって、平原にいる大将っていうのを倒せばいいんじゃないの?」
「それはそうなんだけど、今言っているどうするのっていうのはそこまでの過程のこと。ボスもきっと強いだろうし、ある程度装備を揃えたり、仲間を集めたりとか」
「ああ、なるほど」
「それより、どのくらいのプレイヤー達が大将とやらを倒そうと思っているんじゃ? あの女の口ぶりから察するに、この話は全員に行き渡っているのであろう」

 と、ナポリタンスパゲッティを食べていたユキが顔を上げる。
 夢中になって食べていたせいか、口の周りが汚れていた。君は小学生か。

「ほとんどが参加するって。元々そういうゲームをしに来た人達だし」
「だけど、危険だからやめるって人も少なくはないね」

 アユコは軽くため息をつく。
 だが、やらない人の気持ちもわかる。だってこれは死んでしまったら即終了のゲームなんだから。
 リトライなど――存在しない。
 生き返りなど――しないゲーム。

「その点を含めて、まずは仲間を集めようか。これだけじゃ多分勝てないし、何より男手がいると助かるからね」
「うん……うん?」

 今、まるで僕の事を男じゃない扱いされた気が……気のせいかな?

「うーん……あっ、あいつなんかどうかな?」

 と、アユコが指を指す方向を見る。
 黒い髪をオールバックにした、スナイパーライフルを背負っている男が一人でピザを食べていた。
 その凛々しい顔立ちから二十歳前後なのだろう。

「遠距離戦の人も必要だろうし、あいつ一人だから断りなんかしないでしょう」

 と言って、アユコはずんずんとその男の元へと歩いていき、僕とユキも席から立ち上がって、ついていく。

「ねえ、君。よかったら一緒に私達と平原エリアの攻略をしない?」

 アユコは男の座っている席のテーブルに手をつき、前のめりになって話しかける。
 ……大胆な人だな、アユコって。
 男は顔を上げ、アユコを見て、次にその後ろにいる僕とユキを見る。
 小さなため息をついて、男はきっぱりとした口調で言う。

「せっかくの申し出だが、断らせてもらう」
「なっ――!」

 まさか断られると思っていなかったのか、アユコは驚愕したような顔をする。

「……な、なんで断るのかな? みんなで挑んだ方が効率がいいと思うんだけど?」

 だが、やや食い下がりながらもアユコは粘る。
 すると、男はもう一度ため息をつき、やや躊躇いながらも、はっきりと聞き取れるように告げた。

「いや、なんというか……男の俺が女の子しかいないグループに入るとか、気まずいだろ」

 女の子しか……いない……?

「べ、別にそんな事ないと思うよ? 男が一人だけ後は女子しかいないってチームも少なくないし」

 男が……一人だけ……。

「俺が気まずいんだよ。どこぞのハーレムかっていうんだよ。……まあ、それも悪くないけど」

 ハーレム……。
 …………。

「うおっ!? 何、いきなり泣き出しているんじゃレイ!?」

 気がつくと僕はいつの間にか泣いていたようだ。何でだろう。
 これにはアユコと男もビックリしたように僕を見る。

「ひっく……ぐすっ……」
「女の子を泣かせるだなんて、君は最低だね!」

 と、アユコが突然声を張り上げて言い放つ。
 そのせいか、店にいるプレイヤー全員が一斉にこちらに注目し始めた。

「い、いや、その、だな……」

 男は焦って何か言おうとしている。
 でもちょっと待って欲しい。まずはアユコも含めて、誤解を解かせてもらいたいんだ!

「あ、あのっ……ひっく、僕は男……えぐ……です!」
「ほら、君の為にこんなにも可愛い女の子が『自分は男だ』なんて、普通の女の子なら言いたくないことを一生懸命に泣きながら言っているんだよ!? それでも君は断るの!?」

 誤解を解こうとして言ったつもりの台詞が、何故かますます誤解されてしまっていた。

 違うんだ、本当に僕は男なんだ!

「わかった、わかった! 平原のボスを倒すまではチームを組もう! それからは俺で考えさせてもらうぞ!」

 と、堪忍したように男は両手を挙げ、アユコは満足そうにうんうんと頷いていた。

「私はアユコだよ。君の名前は?」
「ケイタだ」
「レ、レイですっ……」
「ユキじゃ。よろしくの」

 と、それぞれ自己紹介をする。

「ううっ……」
「……悪かった、すまない」

 と、半泣きしている僕にペコリと謝ってくる男――ケイタさん。
 ああ、そういえば反射的に敬語で話していたけど……まあどうせ「敬語はいらない」とかなんとか、アユコと同じような事を言われそうなので敬語はいらないか。
 初めての同性の仲間だしね、うん。

「別に無理して男ぶらなくても良かったのに……」
「僕は本当に男なんだってば!」

 しかし、向こうは男だと思っていないようだ。
 僕はメニューを開き、ケイタに仲間申請を送る。
 論より証拠。僕のプレイヤーカードを見せれば僕が男だって事が証明されるだろう。

「えーっと…………本当に男なのか、お前!?」
「え? そんなわけ……ええ!? レイって男だったの!?」

 ケイタだけではなく、アユコまでもが驚いたように僕を見た。
 ……というか、アユコも前に僕のプレイヤーカード見たよね? 何で女だと思っていたの?

「そ、そうだったのか……なんか、ごめんな」
「私も……なんかごめんね」

 と二人共が本当に申し訳なさそうに謝ってくる。

「いいよ、いいよ。それよりさ、装備とか必要なんでしょ? そしたらみんなで買い物に行こうよっ」
「そうじゃな」
「うん、そうだね」
「わかった」

 僕は涙を拭き、無理矢理笑顔を作る。本当はもっと泣きたいところだけど、いつまでも泣いてばかりじゃ男らしくないからね!
 と、僕を先頭にレストランを出て目的の店を探していると、後ろから三人が声を潜めて話している。

「さっきの笑顔、まんま女じゃのう」
「うん、男ならあんなに可愛い笑顔なんか作れないね」
「あんな顔されたら完全に女だと思うよな、普通……」
「…………」

 ……やっぱり泣いていいかな?





 装備というのは当然、武器の事だ。
 武器はメイン武器とサブ武器があり、それぞれ制限がある。

 まずはメイン武器。これは自分の職業にあった武器しか装備出来ないという制限がかけられている。
 次にサブ武器。こちらの方はどんな武器でも装備する事が出来るが、その武器が職業と一致しない場合はいくつかの武器の技に制限がかけられる。
 また、職業専用武器という武器があり、それはサブ武器でも職業と一致しなければ使えないのである。


 そして武器自体にも制限がある。
 今は初期装備の武器なのでみんな普通に装備しているが、レア度の高い武器は何の条件もなしに装備することなどできない。

 例えば、レア度が5のソードを手に入れたとしよう。ソードと言ったらこの中のメンバー的にアユコだろう。
 なら剣士のレベルが1のアユコならレア度5のソードを装備出来るか? ……答えはNOだ。

 レア度1~3の武器には何の制限もかけられてないが、レア度4以降は違う。
 レア度は全部で10段階あり、レア度4~6はレベル5、7~9はレベル8、最後のレア度10はレベル10の職業レベルが必要とされている。
 つまりアユコがレア度5のソードを装備できるのは剣士という職業のレベルを5まであげないといけない、というわけだ。


 レベルと言えば武器にレベルがついているが、レベル上げは比較的に楽だ。武器レベルも最大10まであるが、レベルアップさせるのに経験値が低い為だけあって、普通にゲームを進めていけばあっという間にレベル最大まで到達する。
 武器レベルを上げると攻撃力などのステータスが上がっていく。中にはその武器専用の技を習得出来る。

 そうして武器をレベル最大までにすると、また新たな武器へ『進化』させることが出来るのだ。
 敵モンスターからドロップする特定の素材のいくつかを使って新たな武器へと進化出来る。そうしてどんどん武器も強くなっていく。


 しかし、進化させるには『武器商人』を職業とした人が必要である。
 進化させるのに必要な素材を見ることが出来て、尚且なおかつそれを合成させて新たな武器を作るのも武器商人にしか出来ないのだ。
 そうして武器商人はプレイヤー間を通じて売り買いが出来て、資金を稼ぐ事が出来る。
 レア度が高い武器ほど武器を合成させる難易度が高まり、武器商人の職業レベルを上げなくてはレア度の高い武器は作れない。

 また、その他にもアイテム商人や情報屋などの職業がある。
 アイテム商人は名の通り、アイテムを売り買いしたり自分で獲ってきたりしてそれを売る事が出来る。またアイテム商人には職業スキル『レアドロップ』でレア度の高いアイテムをドロップしやすくなっている。
 情報屋も名の通りである。情報を売り買い出来て、職業スキル『真実』でモンスターやエリアなどの情報を完全に習得することができる。

 この『武器商人』、『アイテム商人』、『情報屋』の職業だけ、いつどんな人でもそれらに『転職』することが出来るのだが、どれか転職したらもう変えることができなくなる。
 今の説明だけ聞くと「誰がこんな地味な職業をするか」と誰もが思うだろうが、しかしこの三つの職業には大きな利点がある。
 それはこの三つの職業はメインサブ関係なく、全ての武器を使うことが出来るのだ。
 ただし、いくつか武器の技は制限される。だが、武器についている追加スキルなどは武器商人達でも使うことが出来る。

 で、今出てきた追加スキルについて。
 これは武器のレア度が上がっていくと、最初から専用のスキルが付いている。それが追加スキルである。
 この追加スキルはそれぞれ違う効果を発揮させる、いわばユニークスキルだ。
 『獲得経験値上昇』や『属性攻撃強化』、更には『パーティー内攻撃力上昇』なんてスキルもある。


 次に職業レベルについて。
 職業レベルも武器レベル同様、最大10までであり、レベルが上がっていくごとに技が増えていき、レア度の高い武器も使えるようになっていく。
 しかし、「職業レベル10とか余裕じゃない?」と思っている人もいるだろう。
 だが、それは違う。最初の段階でレベルを最大まであげようとなるとかなりの時間がかかる。

 例えば、レベル1の武器がレベル2になるには50の経験値が必要とされていて、この平原の通常モンスターから獲得できる経験値は平均10くらい。つまり約五体のモンスターを倒せばレベル2にレベルアップすることが出来るのだ。
 しかし、レベル1の職業がレベル2になるには500の経験値が必要とされている。つまりこの平原の通常モンスターだけでレベル2にレベルアップするには約五十体のモンスターを倒さなければならない。
 しかも職業レベルを1から最大にするには総計三百二十八万五百の経験値が必要であり、この平原の通常モンスターだけで最大にするには三十万以上のモンスターを倒さなくてはいけないのだ。
 勿論、ボスモンスターは更に経験値が高いが、それでもかなりの時間がかかるだろう。


 あと最後に最後に防具の説明。
 これについては簡単であり、防具には何のスキルも能力値も振られていない。
 重さなどは全て一緒であり、どんな服でも平均的で色んなバリエーションがあるので、ゲーム関係なく楽しめることが出来るのだ。
 ただ、防具の入手法については色々と説明が必要なのだが……それはまた後で説明することにしよう。



「……と、これが基本なのじゃ」

 と、ここまでがユキの講義。な、なんか凄く長かった……。

「つまり、今揃えるべき装備は多少のアイテムとサブ武器って事だな」
「その通り」

 最後までしっかりと聞いていたケイタが確認するように聞くと、ユキはうんうんと頷く。

「要はアイテムと武器が必要って事なんでしょ? さっさと買いに行くわよー」

 対してアユコは長い説明が苦手のようで、途中から話を聞いていなかった。

「そういえばユキってこのゲームについて詳しいよね?」
「うん? それはまあ、我はこのゲームのモンスター、いわばデータじゃからな。全てを知っているわけではないが、基本的な情報は知っているのじゃよ」
「なるほど、じゃあ平原のボスについて何か知っていたりするの?」
「流石にそこまでは知らん。自分たちで直接見るしかない」
「そっか……」

 それなら仕方がないか。


 それからNPCが売っている店へと行き、必要最低限のアイテムを買っていく。
 と言っても、まだ最初なだけであって売っているアイテムも少ない。せいぜい回復アイテムと離脱用アイテムの消費アイテムのみだ。
 僕たちはそれぞれ(ユキ除く)アイテムを買うと次に武器屋へと向かう。

 武器屋はサブ武器を買う為なので、既にサブを持っているアユコは退屈そうに眺めているのみで、僕とケイタだけが買う事になった。
 サブ武器はテイマーである僕も装備出来るみたいで、あれやこれやと悩んだ結果の末に、小さなショートソードを、ケイタはナイフを買った。

「小さなショートソードって間違った言葉のようだけど、実は間違ってないんだよね」
「え、そうなの?」

 アユコがぼそりと呟いた台詞に僕は食いつく。

「確かショートとロングって長さで決まっているんじゃないんだよ。歩兵で使う剣がショートソードで、馬に騎乗して使う剣がロングソードなんだっけ」
「へえ、そうなんだ……」
「実際にロングソードより長いショートソードも存在しているしね。また馬から降りて歩兵としてでも使えるロングソードもあるみたいだからショートとロングって区別の付け方が曖昧なんだって」
「僕はてっきり長さで決められると思っていたよ。ロングより長いショートもあるんだね」
「大体そこがわかりにくいんだよね。文字だけで見ると思いっきり矛盾してるじゃん。別名もフットマンズソードとホースマンソードってなんか長ったらしい名前だし。もういっそ歩く用ソードと馬用ソードって名前に改変すればいいんじゃないかって思うんだよ」
「何故日本語」
「じゃあウォークソードとホースソードで」
「いや、普通にソードで統一すればいいんじゃないかな……?」

 余計わかりにくくなってると思う。

「じゃあ、そろそろ平原エリアに向かうかの」

 というユキの言葉に僕たちは頷く。

 こうして準備万端といった感じで僕たちは打倒平原の大将を目的として平原エリアへと向かっていった。

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