LIFE~僕と君とみんなのゲーム~
プロローグ
「ん、ここは……」
僕が目を開けると、青い光が周りを囲っていて、いくつもの『1』と『0』の羅列のみが白く浮かび上がっていた。
目の前には小さなウインドウが開かれていて、『GAME START ? YES/NO』と表示されていた。
「……ああ、そうだった」
僕は虚ろな記憶でついさっきの事を徐々に思い出していく。
そうだ、僕は今日VRMMOという最新のゲームである『LIFE』をやっているんだった。
確か……『抽選千名のみの先着プレイ』という広告をネット上で見つけて、当たればいいなという宝くじを買ったような気分で応募し、まさかの当たって今に至るというわけだ。
VRMMOとは、Virtual Reality Massively Multiplayer Online――仮想現実大規模多人数オンラインというジャンルのゲームだ。
最近でウェブ小説などで話題となっていたこの仮想上のゲームを2014年現在、日本で遂に完成されたというわけだ。
「……いやいや、『LIFE』って。名前が単純すぎでしょ。どうせなら『なんちゃらかんちゃらオンライン』とか、無難な名前にすればいいのに」
と、今更になって僕はこのゲームのネーミングについて苦笑する。
だが、まあ実際に面白そうだから応募したわけだけど。
「えーと、名前の入力と職業の設定は……あれ?」
確かゲーム内容を調べたところ、職業を決めてモンスターを倒していくという、実にシンプルなMMOゲームだ。
プレイヤー自体にレベリング制はなく、武器にレベリング制が備えられている。つまり使っていけば使っていくほど武器が強くなっていき、技をどんどんと覚えていくという設定だ。
だが、周りを見回す限り、あるはずの名前を打つ欄と職業を選ぶ欄がなく、ただゲームを始めるか始めないかの欄しかなかった。
「うーん、まあいっか。どうせゲームスタートを押してから決められるんでしょ」
と、僕は手を伸ばし、『YES』を押す。
ピコンという軽快な音がなった――かと思うと。
周りが真っ白く光りだしていき、僕はその光に包み込まれていく。
「う、うわっ――」
あまりの眩しさに思わず僕は目を瞑る。
しばらくして光が弱くなっていくのがわかっていき、僕が目を開けたときには。
真っ青な大空。
どこまでも広がる草原。
そんな『世界』が目の前に広がっていた。
「ここが……」
ここが仮想現実。
ここがゲームの世界。
ここが――『LIFE』。
自分の姿を見てみると、上はシンプルな革の鎧、下は黒い短パンとなっていてまさに初期装備といった感じであった。
「んっ……」
ふと、髪を触ってみると、現実の自分の髪の長さが一緒で髪色も同じ茶髪だという事に気がつき、もしかしてキャラメイクは現実の自分と一緒なのではないかと内心がっかりする。
出来れば現実の自分よりかっこよくしたかったのに……。
『ヨウコソ、LIFEヘ! コレカラ職業ヲ決メマス!』
と、目の前に文字が浮かび上がる。すると、目の前から突然白い物体が現れる。
四足歩行で、真っ白な体に薄い黒縞のヒョウ柄がびっしりと刻み込まれている。
青い眼でじっとこちらを見ている、僕の見知った動物。
そんな、哺乳網ネコ目ネコ科ヒョウ属に分類される、動物園によくいるような、抱きかかえる程の大きさ。
そう、そんなホワイトタイガーの赤ちゃんらしきものが目の前に現れた。
「えっ、何このモンスター……めっちゃ可愛い!」
それが僕の第一声である。
いや、だってこんなつぶらな瞳をしてるんだよ? モンスターだとしてもすっごい可愛いじゃん!
と、文字が再び浮かび上がる。
『デハ、検索ト言ッテミテ下サイ』
「えーっと、サ、サーチ!」
と、僕が叫ぶと、ホワイトタイガーらしきモンスターの情報が出現する。
△▼△▼△▼△▼△▼
『スノーベビータイガー』 レア度:8 属性:雷
滅多に会うことが出来ないと言われるモンスター。愛らしい姿から人気がある。
スノータイガーの子供だが攻撃力は高くない。はぎ取れるものはかなりの価値とされる。
△▼△▼△▼△▼△▼
「へえ、レアなんだ……」
なんでこんなレアモンスターが一番最初から出てくるのだろうか? もしかして、最近のソーシャルゲームみたいに初回だけレア度が高いモンスターが出てくるのかな?
『デハ、コノモンスターヲ倒シテ下サイ。好キナ武器ノ名前ヲ言エバ、出テキマス』
「なるほどね」
つまり、太刀と言えば太刀が、銃と言えば銃が出てくるのか。今の聞いた限りだと本当に何でもありそうだから、もしかしたら魔法の杖も出てくるのかもしれない。
僕自身としてはやっぱり剣だろうか。うん、だって人気だし日本刀もカッコいいし。
そう、つまり、そうやって、武器を出して、目の前にいる、こんな可愛いモンスターに、残酷に、刃を向け、真っ赤な血を、肉や骨を、切り裂いて、倒せばいいのだ。
そう、簡単な事じゃないか。
そう、この無抵抗のモンスターに向かって刃を向けるだけ……。
そう、……。
…………。
「で、出来るかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
こんな可愛いモンスターを殺せ、だって? 無理を言わないで欲しい。
だって見てみなよ? こんな愛らしい顔をしてるんだよ? さっき出た情報から見るに、この子は子供なんだよ?
ほら、試しに今頭を撫でてみたらめっちゃ可愛い顔をしてるんだよ?
こんな可愛いモンスターを倒せ、だなんて無理がある!
このゲームの運営は何を考えているんだ!
「いやいや、こんな可愛い子を倒すなんて鬼か悪魔だ! 僕だったらこの子を飼うから!」
僕は思わず小さな虎を抱きかかえ、天に向かって叫ぶ。
スノーベビータイガーはというと、そんな僕に抱きかかえられて気持ちがよさそうに目を細めている。
すると、僕の声に反応したかのようにメッセージが現れる。
『職業ガ決定シマシタ。初期設定完了。ソレデハ“LIFE”ヲオ楽シミ下サイ』
「え?」
僕はきょとんとした顔をすると、自分の右手が突然光りだす。
驚いて見てみると、やがて光が収まった手には。
手の甲には大きな青くて丸い水晶のような物の半分が埋め込まれている革製の焦げ茶色の手袋がはめ込まれていた。
「なんだこれ……あ、そうだ。検索!」
僕はさっき教えてもらったばかりの機能を叫んでみる。
すると、この手袋について情報が現れた。
△▼△▼△▼△▼△▼
『テイマーグローブ』 レア度:? 属性:なし
レベル:? 攻撃力:0
モンスターと心を通わせる事ができるグローブ。
△▼△▼△▼△▼△▼
「……え、これだけ?」
「これだけって、それだけで充分な説明じゃろうが」
「ふわっ!?」
と、抱きかかえていた子虎から声が聞こえたので僕は驚いて手を離してしまう。
子虎はふわりと地面に降り立つと僕を見つめる。
「初めましてじゃな、ご主人よ」
「は、初めまして……」
どうしたらいいのかわからずに僕はとりあえずといった形でペコリとお辞儀をする。
うんうん、日本人の基本はお辞儀だよね。
「ふむ、ご主人の名はなんと言うのじゃ?」
「えっと僕は……」
僕は思わず本名を言おうと思ったが、そういえばこのゲームの自分のプレイヤー名を確認していなかった事に気がつく。
「メニュー画面はどうやって開くんだろう……スタートボタンとかどこかにないのかな?」
「ここは現実世界のゲームじゃあるまいし、そんなものどこにもあるわけなかろうに」
キョロキョロと辺りを探る僕に子虎の呆れ声。
「ほれ、『メニューオープン』と言えば表示されるぞ」
「メニューオープン! ……おお、本当だ」
僕はメニューの中にある『ステータス』の部分にタッチする。
「えっと、僕はレイだよ……ってこれ、本名じゃん!」
ステータスを見てみると苗字までは書かれてないものの、カタカナで自分の名前が入力されていた。
「オンラインゲームで本名は嫌なんだけど……」
「かと言って中二病的な名前よりかマシじゃと思うんじゃが」
「いや、遊びなんだから別にそれでもいいんじゃないかな……」
「ちなみに、レイと言ったか? レイは名前を決められるとしたらなんて決めるつもりだったんじゃ?」
「シロ。なんかカッコよくない?」
「……やっぱりレイで良かったと思うぞ?」
「酷いっ!」
そんなに変な名前なんだろうか。いや、そんなことはないはずだ。
「っていうかなんでそんな男みたいな名前にするんじゃ?」
「え? なんでって?」
「いや、レイは女子じゃろ? なんで男っぽい名前にするのか、気になっての……」
「…………。……あのね、僕は男なんだ」
「マジで!?」
僕がそう言うと子虎は驚いた声をあげる。
「いや、いいんだ。よく間違われるし」
「……そんなに間違われるのが嫌なら、そのショートカットの女みたいな髪を切ればいいじゃろうが」
「出来ればそうしているよ……」
ある原因で、それができないから僕はこんなに苦労しているんだ。
「あ、ちなみに君の名前は?」
「ない」
「え、そうなの?」
「吾輩は猫である。名前はまだない」
「いや、かの有名な小説の一文を使わなくていいから。猫じゃないし」
「しかし虎はネコ科じゃから似たようなもんじゃろう?」
「うーん……それはまあそうなんだけど」
「それに、こんなちっぽけな姿なんぞ猫のようなものじゃなかろうか」
と少し不満げな子虎。……あ、そうだ。
「じゃあ僕が名前をつけてあげるよ。というかさっきのシロって名前でどう? 実際に白いし! カッコいいし!」
「メスの我にかっこいい名前はどうかと思うぞ?」
「あ、メスだったんだ……」
じゃあ別の名前の方がいいか。
僕は必死に考え、ふと『白い』というワードから連想をさせていく。
「じゃあユキ! 雪って白いじゃん?」
「ユキ……ふん、まあ悪くない名じゃな」
「これからよろしくね、ユキ」
ニコリと笑い、手を差し出す僕に向かって子虎――ユキがちょこんと小さな手を置く。ああ、可愛いなあ。
「なんじゃろうな、笑ったレイもめっちゃ可愛いのう」
「可愛くないから!」
と話しているとメールのアイコンが突然目の前に現れる。
「へえ、メール機能もあるんだ」
「プレイヤーのIDを教えればメールを出来るんじゃ。じゃが、レイはまだ誰にも教えてないんじゃからきっと運営からじゃぞ」
試しにアイコンをタッチしてみると、メールが開かれる。……差出人は『LIFE運営』と書かれていた。
From:LIFE運営
本文:VRMMOゲーム『LIFE』をプレイしていただき、誠にありがとうございます。
これからこのゲームについての説明をさせていただきますので『生まれの街』へと集まっていただきます。
尚、このメールを開けた一分後に自動的にテレポートさせていただきますのであらかじめご了承ください。
「へえ、テレポートなんてできるんだ、すごいね」
と感心しつつ、あることに気がつく。
「あ、ユキがその姿のままで一緒に街まで来たら狙われるんじゃない?」
「ん? ……ああ、そうじゃな。じゃあ姿を変えるか」
ユキがくるりと回ったと思うと、まばゆいばかりに輝きだし、白髪の長髪をした女性が現れる。
紫の浴衣を着こなしていて、左手には僕のテイマーグローブと同じような形をしたグローブをしている。ただ、自分とは違って、手の甲に嵌っている水晶は燃えるような真っ赤な色をしていた。
僕より少し背が高くその姿にドキリとしてしまうほどであった。
「ふふん、どうじゃ? 我は姿を変えることも出来るんじゃ」
「へえ、すごいね」
「まあお主にテイムされた時に身に付いたスキルじゃから我のスキルではないんじゃがな」
「テイム?」
「うむ、レイの職業はテイマーじゃ」
「テイマーって……確かモンスターとかと仲間にできるっていう?」
「まあそんなものじゃのう。おっ、そろそろテレポートするのではないのかの?」
ユキに言われた通り、『まもなくテレポートを開始します』とメッセージが表示される。
次の瞬間視界が歪み始め、気がつくと僕は大きな会場(?)みたいな場所の一席に座っていた。
周りを見ると、他のプレイヤーもそれぞれ座っている。ただ、ユキは席がないようでちょこんと僕の前の床に正座をしていた。
千人のみとはいえ結構人数いるなあと感心していると、目の前の舞台が照らされていく。
そこには黒マントを羽織った腰まである長さの茶髪の女性が現れる。
背は随分と高く、成人ぐらいの女性が佇んでいた。
「えー、ようこそ選ばれた千名の皆さん! これからLIFEについて説明をさせていただきます!」
その女性はよく聞こえる声をあげる。
「ルールは簡単! モンスターを倒して冒険していき、最後のボスまで倒す。それだけです! まあ別にそういう冒険者だけではなく、武器職人やアイテム商人、情報家などの分野もあります! ……説明めんどくさいからいいや。また後で色々と付け加えていきます、以上!」
なんか適当な性格をしてるなあの人……。
だが、自由度の高いゲームであるって事だけはわかった。これはこれで楽しめそうだ。
とワクワクしている僕だったが次の女性が言った一言によって耳を疑うハメになる。
「あ、そうそう。このゲームでのゲームオーバーは実際の死を意味して、ログアウトなんて機能はないからそこんところよろしくね」
「…………え?」
この時。
僕――いや他のプレイヤーたちもこの時点で気が付いてもよかったんだ。
気がつくべきだった。
この『LIFE』というゲームがどんなゲームであるのかを。
どういう意味を持ったゲームなのかを僕は知ってもおかしくなかったんだ。
僕が目を開けると、青い光が周りを囲っていて、いくつもの『1』と『0』の羅列のみが白く浮かび上がっていた。
目の前には小さなウインドウが開かれていて、『GAME START ? YES/NO』と表示されていた。
「……ああ、そうだった」
僕は虚ろな記憶でついさっきの事を徐々に思い出していく。
そうだ、僕は今日VRMMOという最新のゲームである『LIFE』をやっているんだった。
確か……『抽選千名のみの先着プレイ』という広告をネット上で見つけて、当たればいいなという宝くじを買ったような気分で応募し、まさかの当たって今に至るというわけだ。
VRMMOとは、Virtual Reality Massively Multiplayer Online――仮想現実大規模多人数オンラインというジャンルのゲームだ。
最近でウェブ小説などで話題となっていたこの仮想上のゲームを2014年現在、日本で遂に完成されたというわけだ。
「……いやいや、『LIFE』って。名前が単純すぎでしょ。どうせなら『なんちゃらかんちゃらオンライン』とか、無難な名前にすればいいのに」
と、今更になって僕はこのゲームのネーミングについて苦笑する。
だが、まあ実際に面白そうだから応募したわけだけど。
「えーと、名前の入力と職業の設定は……あれ?」
確かゲーム内容を調べたところ、職業を決めてモンスターを倒していくという、実にシンプルなMMOゲームだ。
プレイヤー自体にレベリング制はなく、武器にレベリング制が備えられている。つまり使っていけば使っていくほど武器が強くなっていき、技をどんどんと覚えていくという設定だ。
だが、周りを見回す限り、あるはずの名前を打つ欄と職業を選ぶ欄がなく、ただゲームを始めるか始めないかの欄しかなかった。
「うーん、まあいっか。どうせゲームスタートを押してから決められるんでしょ」
と、僕は手を伸ばし、『YES』を押す。
ピコンという軽快な音がなった――かと思うと。
周りが真っ白く光りだしていき、僕はその光に包み込まれていく。
「う、うわっ――」
あまりの眩しさに思わず僕は目を瞑る。
しばらくして光が弱くなっていくのがわかっていき、僕が目を開けたときには。
真っ青な大空。
どこまでも広がる草原。
そんな『世界』が目の前に広がっていた。
「ここが……」
ここが仮想現実。
ここがゲームの世界。
ここが――『LIFE』。
自分の姿を見てみると、上はシンプルな革の鎧、下は黒い短パンとなっていてまさに初期装備といった感じであった。
「んっ……」
ふと、髪を触ってみると、現実の自分の髪の長さが一緒で髪色も同じ茶髪だという事に気がつき、もしかしてキャラメイクは現実の自分と一緒なのではないかと内心がっかりする。
出来れば現実の自分よりかっこよくしたかったのに……。
『ヨウコソ、LIFEヘ! コレカラ職業ヲ決メマス!』
と、目の前に文字が浮かび上がる。すると、目の前から突然白い物体が現れる。
四足歩行で、真っ白な体に薄い黒縞のヒョウ柄がびっしりと刻み込まれている。
青い眼でじっとこちらを見ている、僕の見知った動物。
そんな、哺乳網ネコ目ネコ科ヒョウ属に分類される、動物園によくいるような、抱きかかえる程の大きさ。
そう、そんなホワイトタイガーの赤ちゃんらしきものが目の前に現れた。
「えっ、何このモンスター……めっちゃ可愛い!」
それが僕の第一声である。
いや、だってこんなつぶらな瞳をしてるんだよ? モンスターだとしてもすっごい可愛いじゃん!
と、文字が再び浮かび上がる。
『デハ、検索ト言ッテミテ下サイ』
「えーっと、サ、サーチ!」
と、僕が叫ぶと、ホワイトタイガーらしきモンスターの情報が出現する。
△▼△▼△▼△▼△▼
『スノーベビータイガー』 レア度:8 属性:雷
滅多に会うことが出来ないと言われるモンスター。愛らしい姿から人気がある。
スノータイガーの子供だが攻撃力は高くない。はぎ取れるものはかなりの価値とされる。
△▼△▼△▼△▼△▼
「へえ、レアなんだ……」
なんでこんなレアモンスターが一番最初から出てくるのだろうか? もしかして、最近のソーシャルゲームみたいに初回だけレア度が高いモンスターが出てくるのかな?
『デハ、コノモンスターヲ倒シテ下サイ。好キナ武器ノ名前ヲ言エバ、出テキマス』
「なるほどね」
つまり、太刀と言えば太刀が、銃と言えば銃が出てくるのか。今の聞いた限りだと本当に何でもありそうだから、もしかしたら魔法の杖も出てくるのかもしれない。
僕自身としてはやっぱり剣だろうか。うん、だって人気だし日本刀もカッコいいし。
そう、つまり、そうやって、武器を出して、目の前にいる、こんな可愛いモンスターに、残酷に、刃を向け、真っ赤な血を、肉や骨を、切り裂いて、倒せばいいのだ。
そう、簡単な事じゃないか。
そう、この無抵抗のモンスターに向かって刃を向けるだけ……。
そう、……。
…………。
「で、出来るかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
こんな可愛いモンスターを殺せ、だって? 無理を言わないで欲しい。
だって見てみなよ? こんな愛らしい顔をしてるんだよ? さっき出た情報から見るに、この子は子供なんだよ?
ほら、試しに今頭を撫でてみたらめっちゃ可愛い顔をしてるんだよ?
こんな可愛いモンスターを倒せ、だなんて無理がある!
このゲームの運営は何を考えているんだ!
「いやいや、こんな可愛い子を倒すなんて鬼か悪魔だ! 僕だったらこの子を飼うから!」
僕は思わず小さな虎を抱きかかえ、天に向かって叫ぶ。
スノーベビータイガーはというと、そんな僕に抱きかかえられて気持ちがよさそうに目を細めている。
すると、僕の声に反応したかのようにメッセージが現れる。
『職業ガ決定シマシタ。初期設定完了。ソレデハ“LIFE”ヲオ楽シミ下サイ』
「え?」
僕はきょとんとした顔をすると、自分の右手が突然光りだす。
驚いて見てみると、やがて光が収まった手には。
手の甲には大きな青くて丸い水晶のような物の半分が埋め込まれている革製の焦げ茶色の手袋がはめ込まれていた。
「なんだこれ……あ、そうだ。検索!」
僕はさっき教えてもらったばかりの機能を叫んでみる。
すると、この手袋について情報が現れた。
△▼△▼△▼△▼△▼
『テイマーグローブ』 レア度:? 属性:なし
レベル:? 攻撃力:0
モンスターと心を通わせる事ができるグローブ。
△▼△▼△▼△▼△▼
「……え、これだけ?」
「これだけって、それだけで充分な説明じゃろうが」
「ふわっ!?」
と、抱きかかえていた子虎から声が聞こえたので僕は驚いて手を離してしまう。
子虎はふわりと地面に降り立つと僕を見つめる。
「初めましてじゃな、ご主人よ」
「は、初めまして……」
どうしたらいいのかわからずに僕はとりあえずといった形でペコリとお辞儀をする。
うんうん、日本人の基本はお辞儀だよね。
「ふむ、ご主人の名はなんと言うのじゃ?」
「えっと僕は……」
僕は思わず本名を言おうと思ったが、そういえばこのゲームの自分のプレイヤー名を確認していなかった事に気がつく。
「メニュー画面はどうやって開くんだろう……スタートボタンとかどこかにないのかな?」
「ここは現実世界のゲームじゃあるまいし、そんなものどこにもあるわけなかろうに」
キョロキョロと辺りを探る僕に子虎の呆れ声。
「ほれ、『メニューオープン』と言えば表示されるぞ」
「メニューオープン! ……おお、本当だ」
僕はメニューの中にある『ステータス』の部分にタッチする。
「えっと、僕はレイだよ……ってこれ、本名じゃん!」
ステータスを見てみると苗字までは書かれてないものの、カタカナで自分の名前が入力されていた。
「オンラインゲームで本名は嫌なんだけど……」
「かと言って中二病的な名前よりかマシじゃと思うんじゃが」
「いや、遊びなんだから別にそれでもいいんじゃないかな……」
「ちなみに、レイと言ったか? レイは名前を決められるとしたらなんて決めるつもりだったんじゃ?」
「シロ。なんかカッコよくない?」
「……やっぱりレイで良かったと思うぞ?」
「酷いっ!」
そんなに変な名前なんだろうか。いや、そんなことはないはずだ。
「っていうかなんでそんな男みたいな名前にするんじゃ?」
「え? なんでって?」
「いや、レイは女子じゃろ? なんで男っぽい名前にするのか、気になっての……」
「…………。……あのね、僕は男なんだ」
「マジで!?」
僕がそう言うと子虎は驚いた声をあげる。
「いや、いいんだ。よく間違われるし」
「……そんなに間違われるのが嫌なら、そのショートカットの女みたいな髪を切ればいいじゃろうが」
「出来ればそうしているよ……」
ある原因で、それができないから僕はこんなに苦労しているんだ。
「あ、ちなみに君の名前は?」
「ない」
「え、そうなの?」
「吾輩は猫である。名前はまだない」
「いや、かの有名な小説の一文を使わなくていいから。猫じゃないし」
「しかし虎はネコ科じゃから似たようなもんじゃろう?」
「うーん……それはまあそうなんだけど」
「それに、こんなちっぽけな姿なんぞ猫のようなものじゃなかろうか」
と少し不満げな子虎。……あ、そうだ。
「じゃあ僕が名前をつけてあげるよ。というかさっきのシロって名前でどう? 実際に白いし! カッコいいし!」
「メスの我にかっこいい名前はどうかと思うぞ?」
「あ、メスだったんだ……」
じゃあ別の名前の方がいいか。
僕は必死に考え、ふと『白い』というワードから連想をさせていく。
「じゃあユキ! 雪って白いじゃん?」
「ユキ……ふん、まあ悪くない名じゃな」
「これからよろしくね、ユキ」
ニコリと笑い、手を差し出す僕に向かって子虎――ユキがちょこんと小さな手を置く。ああ、可愛いなあ。
「なんじゃろうな、笑ったレイもめっちゃ可愛いのう」
「可愛くないから!」
と話しているとメールのアイコンが突然目の前に現れる。
「へえ、メール機能もあるんだ」
「プレイヤーのIDを教えればメールを出来るんじゃ。じゃが、レイはまだ誰にも教えてないんじゃからきっと運営からじゃぞ」
試しにアイコンをタッチしてみると、メールが開かれる。……差出人は『LIFE運営』と書かれていた。
From:LIFE運営
本文:VRMMOゲーム『LIFE』をプレイしていただき、誠にありがとうございます。
これからこのゲームについての説明をさせていただきますので『生まれの街』へと集まっていただきます。
尚、このメールを開けた一分後に自動的にテレポートさせていただきますのであらかじめご了承ください。
「へえ、テレポートなんてできるんだ、すごいね」
と感心しつつ、あることに気がつく。
「あ、ユキがその姿のままで一緒に街まで来たら狙われるんじゃない?」
「ん? ……ああ、そうじゃな。じゃあ姿を変えるか」
ユキがくるりと回ったと思うと、まばゆいばかりに輝きだし、白髪の長髪をした女性が現れる。
紫の浴衣を着こなしていて、左手には僕のテイマーグローブと同じような形をしたグローブをしている。ただ、自分とは違って、手の甲に嵌っている水晶は燃えるような真っ赤な色をしていた。
僕より少し背が高くその姿にドキリとしてしまうほどであった。
「ふふん、どうじゃ? 我は姿を変えることも出来るんじゃ」
「へえ、すごいね」
「まあお主にテイムされた時に身に付いたスキルじゃから我のスキルではないんじゃがな」
「テイム?」
「うむ、レイの職業はテイマーじゃ」
「テイマーって……確かモンスターとかと仲間にできるっていう?」
「まあそんなものじゃのう。おっ、そろそろテレポートするのではないのかの?」
ユキに言われた通り、『まもなくテレポートを開始します』とメッセージが表示される。
次の瞬間視界が歪み始め、気がつくと僕は大きな会場(?)みたいな場所の一席に座っていた。
周りを見ると、他のプレイヤーもそれぞれ座っている。ただ、ユキは席がないようでちょこんと僕の前の床に正座をしていた。
千人のみとはいえ結構人数いるなあと感心していると、目の前の舞台が照らされていく。
そこには黒マントを羽織った腰まである長さの茶髪の女性が現れる。
背は随分と高く、成人ぐらいの女性が佇んでいた。
「えー、ようこそ選ばれた千名の皆さん! これからLIFEについて説明をさせていただきます!」
その女性はよく聞こえる声をあげる。
「ルールは簡単! モンスターを倒して冒険していき、最後のボスまで倒す。それだけです! まあ別にそういう冒険者だけではなく、武器職人やアイテム商人、情報家などの分野もあります! ……説明めんどくさいからいいや。また後で色々と付け加えていきます、以上!」
なんか適当な性格をしてるなあの人……。
だが、自由度の高いゲームであるって事だけはわかった。これはこれで楽しめそうだ。
とワクワクしている僕だったが次の女性が言った一言によって耳を疑うハメになる。
「あ、そうそう。このゲームでのゲームオーバーは実際の死を意味して、ログアウトなんて機能はないからそこんところよろしくね」
「…………え?」
この時。
僕――いや他のプレイヤーたちもこの時点で気が付いてもよかったんだ。
気がつくべきだった。
この『LIFE』というゲームがどんなゲームであるのかを。
どういう意味を持ったゲームなのかを僕は知ってもおかしくなかったんだ。
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