魔法世界の例外術者《フェイク・マジック》 - 魔力とは無力である -

風見鳩

開会の辞「ゴールデンウィーク~オープニング~」

 ゴールデンウィークというものは今や恒例行事のようになっている。

 そもそも休みが一週間も続かないのに何がウィークだとも思うが、土曜日や日曜日、振替休日なども含まれていてその一週間に学校や仕事に一、二回程度しか行かなくていいのは、ゴールデンウィークと呼ばれるべきなのだろう。

 が、その黄金とも言われる週間にも仕事がある人などもいて、そんな人たちにとってゴールデンも何もない、ただの日常なのだ。

 まだ社会人でもない高校生の俺にはちゃんとした連休があり、ゴールデンウィークとも呼ばれるべき大型連休であるのだが。
 俺にとってゴールデンウィークはとてもじゃないがゴールデンとは言えなかったといえよう。
 いや、傍から見ればゴールデンだ。華やかに飾る金色だ。
 だが、しかし当事者から見ればそのキラキラとした色はただの上塗りでしかなかった。
 メッキ。
 金色に塗られた、ただの偽り。

 その中身はというと……それはひどい有様なのだ。


 * * *


「次の五連休、暇でしょ? 買い物に付き合いなさい、志野くん」

 と、唐突に命令形で言って来たのはクラスメイトである青水髪ロングの少女、豊岸千恵子である。まあ俺の周りで『志野くん』と苗字で呼ぶのはこいつかクラスメイトぐらいだろう。

「買い物、ってなんだよ?」

 時間的には放課後。本日全ての授業が終了し、さあ帰ろう、と帰りの準備をしていたところなのである。

「買い物は買い物よ。それとも何? あなたは自分がした約束を守れないの?」
「約束? 豊岸さん、約束って何?」

 と、そこで反応したのが俺の真後ろの席で同じく帰る準備をしていた赤髪のボブカット少女、篠崎京香である。

「そうなのよ、この男はあなたが倒れている時に私と約束したの。篠崎さんを助ける為に色々と調べる代わりとして休日の買い物に付き合え、と」
「へえ!」

 豊岸としてはなんの自慢にもならないただの事実を述べたのだが、京香は椅子をガタンッ、と倒して立ち上がるという激反応を起こす。

「何よそれ! ものすごく楽しそうじゃない!」

 目をキラキラとした感じといった京香。いつもこんな感じで「何事も楽しい」という雰囲気で満ち溢れている彼女は人生楽しんでるなあとつくづく思う。
 そんな京香の反応に、豊岸は少し意外という表情で京香を見る。

「あら……篠崎さんならきっと怒るのかと思っていたのに」
「怒る? 何で?」
「いや、志野くんがクラスメイトと休日を過ごすのよ? 嫉妬とかないの?」

 という豊岸の言葉にわけがわからない、という風だった京香は何かに気がついたように、みるみる怒りの表情へと変化していく。
 ボブカット風の赤い髪までその気持ちを表すかのように逆立ちつつあるのは気のせいだろうか。その姿から『鬼神』という単語がピッタリと当て嵌る。

「ケンジ! 何一人で仲良く豊岸さんと休日を過ごそうと思ってるの!? 私も呼びなさいよ!」
「いや、そんな理不尽に怒られても……」
「黙りなさい! 友達と一緒に遊ぶなんて羨ましいことをアンタだけ満喫するなんて、私が許さないわ!」
「え、ちょ、ちょっと待って篠崎さん」

 と咆哮のように怒り狂う京香を何故か豊岸が慌てるように止める。

「何よ、千恵子!」
「なんか急に呼び方が変わった気がするけど……まあそれは置いといて。あなたは何に怒ってるの?」
「え? どういう事?」
「今の言い方だと休日に友達と遊ぶ志野くんに嫉妬しているようで、休日に志野くんと遊ぶ私に嫉妬しているような感じがしないんだけど……」
「え? なんで千恵子に嫉妬しなくちゃいけないのよ?」
「……えーっと。自分以外の女性と仲良くする志野くんに何も思わないと?」
「……? 何を思えと?」
「いや、独り占めしたい、とか……」
「独り占め? 何を? ……千恵子、あなた大丈夫?」
「なんだろう、私の考えの方が正しいはずなのに、何故か私の方が異常な気がしてきたわ……」
「???」

 まったく意味がわからないという京香に俺も同様だ。何か問題でもあるのだろうか? というか豊岸は何が言いたいのだろうか。
 そんな俺達を見る豊岸は「なるほど、こういうところも似ているのね……」みたいなことを呟き、京香に向きあう。

「それなら篠崎さんもゴールデンウィークに志野くんと遊べばいいんじゃない?」
「えー。どうせならみんなと遊びましょうよ」
「えっ」
「え?」

 これまた意外という反応をした豊岸に京香がこれまた頭に?マークが浮かぶが、何かに気がついたように弁解する。

「ああ、違うわよ? 千恵子がケンジと約束した用事に私が無理矢理入るなんていう行為はしないわ。そんなデリカシーのない事、するわけないじゃない」

「うん、その気遣いは嬉しいけど、いや無駄なのだけれども……いいの? 二人だけの時間とか、そういう……」
「ケンジと二人だけの時間? ……いや、別に?」

 毎日一緒に稽古したり、これまた毎日のように優梨と共に暇なときは俺の部屋に押し寄せてきたり(これには色んな意味で困っている)している京香にとって、『二人よりみんな』という考えだそうだ。ってどこかであったな、そんなキャッチフレーズのゲーム。

「いえ、もういいわ……。とりあえず、私の買い物に付き合いなさい志野くん」

 「あれ、篠崎さんの気持ちは私の勘違いだったのかしら……?」とぶつぶつ言いながら豊岸は一応という風に俺にビシリッと指を突きつける。

「わかった、わかった。じゃあ一緒に買い物に行けばいいんだな?」
「そして私にケーキを奢るのだ、ケンジくん……」
「うわっ、三縁!?」
「なんだそのいかにも幽霊が出たような反応は! 失礼だぞ、女の子に対して!」
「じゃあいきなり背後から耳元で囁くような事をするんじゃねえよ!」

 と、会話に入ってきたのは秋原三縁。黒い髪にツインテールのいつも元気が印象的な同じクラスメイトだ。
 そしてその横には同じく元気っ子で黒髪ロングの柏原優梨。優梨は同じクラスではないが主に寮でいつも一緒にいる女子である。
 俺と京香と一緒に帰る為、どうやらここまで来たようだ。
 というか、なんか元気な子多いな……少し違うけど、京香も当て嵌るから三人もいるし。

「それより、ケンジくん。私との約束、忘れてないよね?」
「ケーキを奢るだろ? ちゃんと覚えてるよ」
「ケンジくんケンジくん。私との約束も覚えてますか?」
「優梨とは約束した覚えはないぞ!?」
「言ってみたかっただけです」

 えへへと無邪気に笑う優梨。

「まあ柏原さんは――」
「優梨ですよ? 千恵子ちゃん」
「……かしわ」
「ゆ、り。ですよ?」
「…………」
「諦めろ豊岸。優梨に言われたら最後だ」

 こうなったら優梨は自分が名前で呼ばれるまでずっと呼ばせようとしてくるだろう。
 そんな雰囲気に諦めたように豊岸は、

「……まあ優梨さんは約束がなくてもゴールデンウィーク中に遊ぶ約束を今すればいいんじゃない?」
「そうですね! ではそうする事にしましょう!」

 と折れたのであった。この中では優梨が一番強いのかもしれない。

「じゃあ三縁と優梨、とよぎ……」
「千恵子ちゃん」
「いえ、優梨さん。もし志野くんが私を下の名前で呼んだら、その瞬間に彼の体が吹き飛ぶと思いなさい」
「むう……」

 そこは譲れまいとした風にズバッという豊岸に優梨は渋々といった感じに意見を下げる。豊岸の方が強いところもあるようだ。

「豊岸、それに京香で大丈夫だな。後は約束なんて――」
「僕を忘れてもらっては困るな、ケンジ!」
「…………」

 上手くまとめようとしたのに、一番面倒なのが来やがった。

「僕の稽古に付き合うという約束を忘れたのかい?」

 というギザった風に話すのはこの中で唯一の同性である大崎シュウ。白髪の形の整った美少年という感じなのだが、未だモテるという噂を聞かないのはきっとこの暑苦しい性格のせいなのだろう。

「ああ、そうだったな……そんな約束もあったな……」
「じゃあ千恵子、三縁、優梨、シュウ、そして最後はみんなで、の一日ずつの順番で問題ないわね?」

 とまとめた京香に、三縁は一瞬、えっ?という顔をしたが(おそらく先程の豊岸と同じ事を思っているのかもしれない)、他は賛成という風に頷くので三縁もまあいいかという風に頷いた。

「というわけよ、ケンジ!」
「あの……今年のゴールデンウィークって五日しかないんだが、その予定だと俺は休むことなく遊ぶということになるんだが?」
「何言っているのよ、遊ぶイコール休むじゃない」
「なんか違うような……」

 確かにゴールデンウィークは暇でつまらないなと思っていたがこんなに多忙になるとむしろ暇の方がよかったとさえ、思ってきた。

「というか志野の奴、元気になったと思ったらまた女子とイチャイチャしやがって!」
「お前だけ独り占めか! 俺らの事も考えろ!」
「志野一人で女子だけと遊ぶなんて羨ましいことをするんじゃねえ!」
「……え、一応僕もいるんだが」

 というシュウの言葉は聞こえなかったようで――男子は俺も混ぜろとばかりに詰め寄ってくる。

「こ、これ以上人数が増えてたまるかあああ!」
『逃げんなこの野郎!』

 第二回鬼ごっこ開幕。俺は教室を抜け、廊下を疾走する。


 * * *


 こうして俺のゴールデンウィークの予定は決まったのであった。

 それは金のメッキで塗られた休日だと声を大にして言えるものでもあった。

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